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カサンドラの謝罪を聞き、お父様がうかがうようにして私を見ました。
「どうだ、ベアトリス? カサンドラ様の言葉には気持ちがこもっていたか? そう思えなかった気がするんだがな」
……え!?
私が許さないのではなく、お父様が許していないんですか!?
お父様の言葉を聞いたとき、正直嬉しかったです。もし辺境伯に気を遣いカサンドラを簡単に許していたら、それはそれで複雑な気持ちがしたと思います。あえて渋るところに、お父様の愛情が感じられました。
「そ、そうですね……」
いちおう戸惑うような雰囲気を出しつつ、返事をしました。ここは流れに身を任せます。
よくよくお父様の顔を見ると、冷静な表情をしていました。何かお父様なりの思惑があるのかもしれません。
私はカサンドラに向かって追い打ちをかけてやりました。
「あなたは私に謝っているんじゃなくて、辺境伯様に謝っているのでしょう? もう殴られるのが嫌で、その場しのぎをしたいだけ。本当に悪いことをしたと思っているの?」
カサンドラは腫れ上がった頬を手で押さえ、血のしずくが地面に落ちるのを防ぎながら、私の目を慎ましげに見つめました。さっきまでの闘犬のようなまなざしはどこかに消え、怯えた子犬のようになっています。
「はい……。エルキュール様に近づいて申し訳ありませんでした。ベアトリス様を傷つけ、家庭を壊し、取り返しのつかないことをしてしまいました」と懺悔したあと、「今後二度と近づきません。どうか許してください」と言って、額を床につけました。
辺境伯も覚悟したように、再び頭を下げました。
「この娘とは縁切りをし、貴族身分を剥奪します。あとは修道院に入れて、一生悔い改める生活をさせますので……ご容赦を……」
カサンドラはわずかに顔を上げ、気力のない表情で辺境伯を見つめていました。口元の青あざだけが異様に目立ち、それに混じる赤い血が、彼女の儚さを鮮明に映し出していました。
本当にカサンドラはその血を流すにふさわしい何かを手に入れたのでしょうか。片思いの成就? エルキュールからの愛? 許されない恋を歩むスリル? 愛人の優越感?
彼女はもはや――エルキュールに会えないどころか、一生結婚できない身になるのです。辺境伯が彼女を修道院に入れるというのは、そういう意味です。
身分や立場の違いがあると言えど、この世界は広く、さまざまな男性がいます。カサンドラもその出自を考えると、政略結婚をさせられる立場です。しかし、だからといって、道ならぬ恋に溺れるにはあまりにも早すぎます。まだ結婚もできない歳なのに、不倫に身を焦がし、既婚男性の手に落ち、未来を閉ざしてしまう……。客観的に見れば、何とも無残な結末です。
政略結婚であったとしても、私のように、甘い恋ができることだってあります。私の場合は結局うまくいかなかったけれど、それは経験してみなければわからないものです。
カサンドラは、心から愛し合える人と結ばれる権利を……捨ててしまったのです。周りから祝福されたうえで、大好きな人と一緒にいられる真の喜びを、失ったのです。
辺境伯はうなだれるカサンドラを軽蔑するような目で見ました。そして、自分の娘のはずなのに、信じられないほど冷酷な言葉を発しました。
「誰もが幸せになれると思ったら、大間違いだぞ。お前のような女に幸せになる権利などない。はっきり言っておくが、お前の若さは関係ない。クズなやつは小さい頃からクズだ。勉強はできるから放っておいたものの、勉強もおろそかにするとは。……自分のことしか考えず、快楽に溺れ、善良に生きる人間をあざ笑うようなやつに、神の道など開かれない。せいぜい修道院で反省し、地獄に行かないことだけを願うんだな」
「どうだ、ベアトリス? カサンドラ様の言葉には気持ちがこもっていたか? そう思えなかった気がするんだがな」
……え!?
私が許さないのではなく、お父様が許していないんですか!?
お父様の言葉を聞いたとき、正直嬉しかったです。もし辺境伯に気を遣いカサンドラを簡単に許していたら、それはそれで複雑な気持ちがしたと思います。あえて渋るところに、お父様の愛情が感じられました。
「そ、そうですね……」
いちおう戸惑うような雰囲気を出しつつ、返事をしました。ここは流れに身を任せます。
よくよくお父様の顔を見ると、冷静な表情をしていました。何かお父様なりの思惑があるのかもしれません。
私はカサンドラに向かって追い打ちをかけてやりました。
「あなたは私に謝っているんじゃなくて、辺境伯様に謝っているのでしょう? もう殴られるのが嫌で、その場しのぎをしたいだけ。本当に悪いことをしたと思っているの?」
カサンドラは腫れ上がった頬を手で押さえ、血のしずくが地面に落ちるのを防ぎながら、私の目を慎ましげに見つめました。さっきまでの闘犬のようなまなざしはどこかに消え、怯えた子犬のようになっています。
「はい……。エルキュール様に近づいて申し訳ありませんでした。ベアトリス様を傷つけ、家庭を壊し、取り返しのつかないことをしてしまいました」と懺悔したあと、「今後二度と近づきません。どうか許してください」と言って、額を床につけました。
辺境伯も覚悟したように、再び頭を下げました。
「この娘とは縁切りをし、貴族身分を剥奪します。あとは修道院に入れて、一生悔い改める生活をさせますので……ご容赦を……」
カサンドラはわずかに顔を上げ、気力のない表情で辺境伯を見つめていました。口元の青あざだけが異様に目立ち、それに混じる赤い血が、彼女の儚さを鮮明に映し出していました。
本当にカサンドラはその血を流すにふさわしい何かを手に入れたのでしょうか。片思いの成就? エルキュールからの愛? 許されない恋を歩むスリル? 愛人の優越感?
彼女はもはや――エルキュールに会えないどころか、一生結婚できない身になるのです。辺境伯が彼女を修道院に入れるというのは、そういう意味です。
身分や立場の違いがあると言えど、この世界は広く、さまざまな男性がいます。カサンドラもその出自を考えると、政略結婚をさせられる立場です。しかし、だからといって、道ならぬ恋に溺れるにはあまりにも早すぎます。まだ結婚もできない歳なのに、不倫に身を焦がし、既婚男性の手に落ち、未来を閉ざしてしまう……。客観的に見れば、何とも無残な結末です。
政略結婚であったとしても、私のように、甘い恋ができることだってあります。私の場合は結局うまくいかなかったけれど、それは経験してみなければわからないものです。
カサンドラは、心から愛し合える人と結ばれる権利を……捨ててしまったのです。周りから祝福されたうえで、大好きな人と一緒にいられる真の喜びを、失ったのです。
辺境伯はうなだれるカサンドラを軽蔑するような目で見ました。そして、自分の娘のはずなのに、信じられないほど冷酷な言葉を発しました。
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