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(どこにいっちゃったの!?)
毒薬が入った茶色の袋のときもそうでしたが、部屋からまた重要な物がなくなっているパターンでした。
朝部屋を出るときに清掃係のカルラに話しかけたことを思い出し、彼女を探しました。すると広間を掃除しているところを難なく見つけることができたので、駆け寄って話しかけました。
「ねえカルラ。机の上に手紙を置いてたんだけど、なくなってるのよね。どこにあるかわかる?」
するとカルラはほうきを動かす手を止め、明るい笑顔を見せました。
「あのお手紙ですね! 封もしてあるようでしたので、朝一番の便で出しておきましたよ!」
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓がヒュンっと持ち上がりました。カルラに悪気がないことが、彼女の無邪気な表情により証明されていました。カルラは私の計画にとって重要な手紙を、ただの手紙として扱ってしまったのです。
得意げなカルラは、褒めてもらうことを期待しているかのように、目をキラキラさせました。気を利かせたつもりでしょうが、私の部屋に置いてある手紙を勝手に出してしまうとは……驚きです。カルラは古くからの馴染みの使用人なので、そこまで深く考えなかったに違いありません。
「え、本当に送っちゃったの?」
そう確認した私に対し、カルラは目をぱちくりさせながら、
「……もしかして……送っちゃダメでした……?」
と恐る恐るきいてきます。
どうしたものかと思いました。もともとは送るつもりで書いたわけですし、書き直そうと考えていた手紙でもありません。どちらかと言えば送ってしまいたかったのですが、自分の感情が邪魔をしていたところでした。
(まあ……しかたないよね……)
不思議なもので、踏ん切りがつかず手紙を出せていなかっただけなのに、いざ他人に出されてしまうと、(自分で決断して出したかったな)などと思ったのです。我ながら後出しジャンケンだと感じました。
あのまま手紙を置いておくだけでは……一生出せていなかったでしょう。むしろ運命の針を進めてくれたカルラに感謝してもいいくらいです。それなのに、気づかぬうちに自分を美化していました。手紙を出せた自分を想像できない以上、淡く濁った世界線の消失を悔やむ必要はありません。
「大丈夫よ。送ろうと思ってたから。ありがとう、相変わらず気が利くわね」
私がこう言うとカルラはほっと息をつき、胸を撫で下ろしました。「申し訳ありません、ベアトリス様。次からは必ず確認します……」と言い、持ち場へ戻っていきます。
自分の優柔不断さで彼女をドキッとさせてしまったのが、申し訳なかったです。
さて、あとは待つだけとなりました。ジェロームの手の者が常にエルキュールの新居を見張っているので、動きがあればすぐに知らせが来ます。今日出した手紙は明日には着くでしょうから、数日中に何らかの変化があると予想されます。
毒薬が入った茶色の袋のときもそうでしたが、部屋からまた重要な物がなくなっているパターンでした。
朝部屋を出るときに清掃係のカルラに話しかけたことを思い出し、彼女を探しました。すると広間を掃除しているところを難なく見つけることができたので、駆け寄って話しかけました。
「ねえカルラ。机の上に手紙を置いてたんだけど、なくなってるのよね。どこにあるかわかる?」
するとカルラはほうきを動かす手を止め、明るい笑顔を見せました。
「あのお手紙ですね! 封もしてあるようでしたので、朝一番の便で出しておきましたよ!」
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓がヒュンっと持ち上がりました。カルラに悪気がないことが、彼女の無邪気な表情により証明されていました。カルラは私の計画にとって重要な手紙を、ただの手紙として扱ってしまったのです。
得意げなカルラは、褒めてもらうことを期待しているかのように、目をキラキラさせました。気を利かせたつもりでしょうが、私の部屋に置いてある手紙を勝手に出してしまうとは……驚きです。カルラは古くからの馴染みの使用人なので、そこまで深く考えなかったに違いありません。
「え、本当に送っちゃったの?」
そう確認した私に対し、カルラは目をぱちくりさせながら、
「……もしかして……送っちゃダメでした……?」
と恐る恐るきいてきます。
どうしたものかと思いました。もともとは送るつもりで書いたわけですし、書き直そうと考えていた手紙でもありません。どちらかと言えば送ってしまいたかったのですが、自分の感情が邪魔をしていたところでした。
(まあ……しかたないよね……)
不思議なもので、踏ん切りがつかず手紙を出せていなかっただけなのに、いざ他人に出されてしまうと、(自分で決断して出したかったな)などと思ったのです。我ながら後出しジャンケンだと感じました。
あのまま手紙を置いておくだけでは……一生出せていなかったでしょう。むしろ運命の針を進めてくれたカルラに感謝してもいいくらいです。それなのに、気づかぬうちに自分を美化していました。手紙を出せた自分を想像できない以上、淡く濁った世界線の消失を悔やむ必要はありません。
「大丈夫よ。送ろうと思ってたから。ありがとう、相変わらず気が利くわね」
私がこう言うとカルラはほっと息をつき、胸を撫で下ろしました。「申し訳ありません、ベアトリス様。次からは必ず確認します……」と言い、持ち場へ戻っていきます。
自分の優柔不断さで彼女をドキッとさせてしまったのが、申し訳なかったです。
さて、あとは待つだけとなりました。ジェロームの手の者が常にエルキュールの新居を見張っているので、動きがあればすぐに知らせが来ます。今日出した手紙は明日には着くでしょうから、数日中に何らかの変化があると予想されます。
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