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翌朝、私は早くに目が覚めました。日が昇ってから間もない時間で、窓から見える薄っすらとした光が、一日の始まりを告げています。

私は庭園を散歩しようと思い、部屋を出ました。するとちょうど清掃係が朝の掃除を始めていたので、「散歩してくるから、私の部屋の掃除もお願い」と言って、外に出ました。



庭園の草花が朝露にキラリと輝いています。目の前にある美しい朝の風景は、私の気持ちとは裏腹に、爽やかな安らぎを広げています。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、ダスティン辺境伯宛ての手紙について考えました。

どうせ出すのであれば、今のタイミングが一番よいのは明らかです。カサンドラは現在進行系でエルキュールと関係を持っていますし、王立学院の成績だって落第。二人を追い詰めるこの上ないチャンスです。

しかし私の脳裏をかすめたのは、いつまでこのような憎悪を抱き続けるべきなのかという疑問でした。エルキュールとカサンドラの顔を思い浮かべるだけで、怒りがわき上がってきます。

もしこのまま手紙を出さず、私自身がフェードアウトすれば、これ以上エルキュールのことで悩まされることはないでしょう。なんとか忘れて、次に進む。こうすればいち早く怒りを払拭できます。


……。



怒り……?



このとき私は気づきました。おそらく老婆の術にかかった状態であれば、昨日躊躇なく手紙を出していたことでしょう。

そうできなかった原因は……私の怒りです。

ある人たちは、怒りを糧に行動することができますが、私の場合違うようです。私は怒りを感じたくなくて、自ら距離を置く傾向があります。

怒りを向けねばならないような人とは、関わらないほうがいい。そう考えるのは、おそらく私の感情が他人よりも敏感だからなのでしょう。術にかかっていた当時の私には、このような葛藤は存在しませんでした。だからこそ、人を追い詰める思考が簡単にできたのです。どんなにくだらなく、厄介な人と関わっても、私の心に影響を及ぼすことはありませんでした。

でも今は、不安定な感情による精神的負担が大きくなっています。それによって、必要な行動に目を向けるのではなく、不快な気持ちから逃れるためだけの行動を取りそうになっています。



(はあ……。やっぱり感情ってめんどくさいわね……)



そう思いながら庭園のベンチでぼうっと座っていると、食事係の使用人に「朝食の準備ができました」と伝えられました。



(とりあえず食事をとってから、また考えましょう……)



朝食は新鮮なフルーツの盛り合わせと、ほろほろと崩れるほど柔らかいオムレツ、焼きたてのパンでした。味わい深い料理の数々は、いつもであれば幸せを感じさせるものですが、今の私ではその喜びも半減してしまいます。せっかくの朝食なのにまたウジウジと考えてしまい、”考える病”になっていることを痛感しました。

そうして、あまり味わうことなく朝食を終え、自室に戻ったのですが……

あるべきものがありません。

机の上から、ダスティン辺境伯宛ての手紙が消えていたのです。
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