浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah

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「思いついたこととはなんでしょう? ぜひうかがわせてください」

目を輝かせたジェロームに対し、私は手のひらをすっと向けました。

「その前に……この裁判の落としどころってどこなのかしら?」

ジェロームは落ち着いて答えました。

「まあ……やはりわたくしが以前に申し上げたように、伯爵はどこか片隅の一軒家で年金生活、でしょうね。陛下が情けをかけて、爵位の取り上げまではいかない気がします」

「やっぱりそうなるよね。――うん、わかった」

「……?」

「カサンドラの材料を出すのは、処罰後の機会にしましょう。まずはエルキュールに田舎生活を始めてもらう。きっとそこにはカサンドラが住む、あるいは通うから、そのときに改めて実行しましょう」

「ほう……なるほど……。城も家来も失い心細くなっている伯爵に対し、その唯一の支えをも奪ってしまおうというお考えですね」

「そのとおりよ。エルキュールが田舎暮らしを始めて少し経ったら、ダスティン辺境伯に手紙を出すわ」

「そういえば……カサンドラ様の父ダスティン辺境伯は、放任主義のようです。調べたのですが、王都での生活には最低限の世話をする使用人しかつけておらず、報告義務もないそうです。高貴な貴族の中ではありえないほど自由ですが、貴族にも様々な考え方がありますからね」

「そうね。本当に家によって全然違うわ。兄弟姉妹の多さでも変わってくるし」

「ただ、ダスティン辺境伯はかなり厳格な人物として知られています。自由を許す一方で、規範から外れる行為は自身の子であっても厳しく罰するそうです。六人の息子たちのうち二人が縁を切られているのも、その証拠でしょう」

「ふふふ。それは楽しみなことを聞いたわ。カサンドラは自分の行いがバレたら、どんな顔をするのでしょうね。そもそも王立学院の成績は大丈夫なのかしら」

「それも調べておきましょう。伯爵のさらなる没落への鍵は……カサンドラ様にあるということですね。注視しておきます」

ジェロームとの会話を終え、部屋の窓から外を眺めました。入念に手入れされた庭園の美しさにうっとりしつつも、私の心は計画の完成に向けて駆け巡っていました。



しかしながら、この会話の翌日、予想外の事態が発生したのです。

お昼を食べ終え、穏やかな時間が流れていた午後のことでした。静寂を切り裂くようにして、部屋の扉が激しくノックされました。

「ベアトリス様! ベアトリス様!」

珍しく早口になっているナディエの声です。その声には焦りだけでなく、驚きや不安も混じっているように感じました。
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