浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah

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実家で暮らし始めて一ヶ月ほど過ぎた頃、ジェロームが再び私の部屋を訪ねてきました。

きっとエルキュールの裁判の結果か……そうでなくとも経過などを知らせに来てくれたのだろうと思いました。



「あれからどうなったの? 裁判は終わった?」



部屋に入ってきたジェロームにさらっとうなずき、私は挨拶も交わさずすぐに本題に入りました。

基本的に意識しないようにしてきましたが、エルキュールにどのような処分が下されるのか、心の片隅にこの問題があり続けていたのは事実です。

「いえ、終わっておりません。なかなか長引いております」

「そうなんだ。どうして?」

「陛下が……やはりエルキュール伯爵をずっと可愛がっていたものですから、情がわいてきたようでして……。割り切れない気持ちがあるようです」

「裁判官も陛下に忖度しているのね」

「さようでございます。目下のところ、争点はベアトリス様のことでございます」

「私のこと!?」

「はい。陛下は、伯爵がベアトリス様に謝っていないことが気に入らないのです。それさえすれば、最後の恩情は与えてやろうとお思いなのです」

「もしかして……エルキュールが、どうしても私に謝りたくないとでも言ってるの?」

「この期に及んで、そのとおりでございます。陛下は伯爵に『ベアトリスに謝って来なさい』と説得しているのですが、伯爵はかたくなに拒否しているそうです」

「呆れた人ね……そういえば、カサンドラの話はどうしたの? 材料にした?」

「いえ、まだです。不貞を働いた伯爵がそもそもベアトリス様に謝らないとなると、裁判では最も重い処分が下されるかもしれません。そんな中、カサンドラ様の材料を出すのはもったいないと判断しております」

「なるほど。材料を出したとしても、エルキュールが私に謝罪する気持ちになってしまったら、謝罪によって罪が軽くされるかもしれない」

「仰せのとおりでございます。このまま放っておくだけで、伯爵は一番下まで転落します」

私に謝るくらいだったら地位も財産も捨てる気でいるのかしら?

見栄っ張りのエルキュールがなぜそこまで謝罪を拒否しているのかわかりませんが、愚かなことだと思いました。かたちだけであったとしても私に謝れば、重罰を避けられるかもしれないのに、それすらしないほど屈辱にまみれているということなのでしょう。

どうしても謝りたくないならそれでもかまいませんが、困るのはエルキュール本人。私はこのままあなたの没落を遠くから眺めるだけです。



ジェロームは恐縮そうにしてまた口を開きました。

「ベアトリス様……大変申し上げにくいのですが、カサンドラ様についてはさらにお伝えしなければならない事情がございます」

「何? 遠慮しないで言って」

「はい。実はベアトリス様が城を離れて以来、カサンドラ様は伯爵の城に住みついているようなのです」

「はあ? エルキュールは自分の裁判中なのに、浮気相手を家に住まわせて楽しんでるっていうの?」

「そうです。伯爵の城にはお父上様(ガブリエル公爵)が派遣した内偵もおりますので、調べがついております」

「……」

呆れを通り越して笑ってしまうほどでした。

晩餐会の夜、私に対し攻撃的な態度を取ってきたカサンドラを思い出しました。彼女が本気であることは伝わっていましたが、あまりに早い身のこなしです。妻である私がいなくなったと同時にエルキュールの城に入り込み、愛を育んでいる。そんな二人を想像するだけで吐き気がします。

彼らにとって、(痛い目にあったからやめよう)という思考回路は存在しないのです。きっとカサンドラは離縁の成立を喜び、エルキュールとの結婚すら意識しているかもしれません。晩餐会のあの時の態度を思えば自然なことです。

エルキュールからしてみても、カサンドラが盲目な愛で支えてくれるわけです。地位や財産を失ったとしても、カサンドラだけは自分を好きでいてくれる。そのように考えていることでしょう。

私は二人とも絶対に許せません。

特にエルキュールは、絶対に、です。

不倫を重ね、罪を犯し、そして……私に謝りもしない男に、幸せになる価値などないのです。



私の頭の中で一つのことがひらめきました。



「ねえ、ジェローム。思いついたことがあるの」
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