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夫と話し終えた後、私は自室に駆け込みました。謝る必要なんてないことはわかっています。でも、夫と衝突したくない私は、言い返そうとする前に、まず謝罪と反省の言葉を口にしてしまいます。せめて「ごめんなさい」を口にしないだけの強さを持ち合わせていれば、こんなに苦しまずに済んだかもしれません。

夫にとって浮気は軽いたしなみ程度のことなのでしょうが、やはり私には受け入れられない行為です。曲がりなりにも、まだ夫を愛しているつもりでいます。そんな夫が毎晩他の女性を抱いているのに、それを気にしないなんて……無理な話です。

逆に考えてみました。
もし私が浮気しても、夫は気にしないでいられるでしょうか?

絶対にそんなはずはありません。私にはわかります。自分には降りかかって来ないだろうと思い込んでいる人だけが、無神経に裏切りを肯定するのです。信頼している人に裏切られることが、どれだけの悲しみを生むか、被害者にならなければわからないのでしょう。

夫の心無い言葉を思い出すと、再び力が抜けてしまいました。



(そんな簡単に、割り切れるはずがないじゃない……!)



私の心の中で、声にならない叫び声があがりました。



でも……それでも……

夫が「騒ぐな」とおっしゃるなら、そのとおり従いましょう。そうする他ありません。私は妻なのですから。夫がどれほど浮気をしようが、どんな女性を抱こうが……もう気にしない。



さようなら、あなた。
さようなら、私。



机の引き出しに向かい、茶色の袋を取り出しました。その中身は、特に目立つものではなく、砂糖や塩のようなありふれた粉にしか見えません。

しかしこれが……毒薬なのです。

袋を持ってベッドに座りました。泣き虫の私の目から、しつこいほどの涙が溢れます。



そのときでした。
部屋の扉をノックする者がいます。



「奥様、入ってもよろしいでしょうか?」

使用人ナディエの声です。私がこの城に来て以来、最も近くで支えてくれている使用人です。歳は初老を迎える頃であり、使用人の中でも古株にあたります。豊かな経験に裏打ちされた落ち着きと、身を粉にする仕事ぶりで、城の大黒柱的存在です。

私は習慣から、何も考えずに「入りなさい」と返事をしてしまいました。毒の入った茶袋を抱えたままでした。

ナディエが部屋に入って来ます。

「奥様……」

ナディエは多くを語りません。でもいつも、私の体調や気持ちを汲み取ろうとしてくれます。夫から受ける私の苦しみを知っていて、心の痛みを黙って受け止めてくれる存在です。

「ナディエ。わざわざ心配して来てくれたのね。ありがとう。でも、大丈夫だから」

「……そうは見えません…………。奥様、お辛いのですよね」
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