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「考え……とおっしゃいますと?」

自信のない調子で尋ねる私の手を取り、エルヴィール先生は説明しました。

「わたしは毎年、コンテスト前日の午後に、会場を見回ります。生徒たちの作品が無事に飾られているかどうかを確認するためです。ジョアンナ様もそのことを知っているので、もし除草剤を入れるとしたら、見回りの後……つまり、その日の夕方か夜かもしれません」

はっとしました。悲しいことに、お義母様の外出の予定はすべて把握しているので(外出準備の手伝いをするっていうね……)、私の頭の中のスケジュール帳が光りました。

「お義母様は前日の夜に出かける予定があります! ……いや、でも、確か教室のご友人と親睦会をなさるとかで……となると……違うのでしょうか。思い過ごし……?」


私は思ってもみない感情に襲われました。お義母様という人間は、当然そのような不正をする人間のはずです。コンテスト前日にライバルの花を萎ませるなど、平気でするでしょう。毎日のように嫁いびりをしてくる彼女を誰よりも知っている私は、このことに関して自信を持てます。しかし、いざお義母様の不正が発覚したらと思うと、社交界への影響は計り知れないものがありますし、家にとって大打撃になってしまいます。

私はオーギュスト様の妻として正しい選択をしているのでしょうか。頭の中で堂々巡りが始まります。そうです。結局のところ、お義母様の不利益は少なからず私にも降りかかってくるのです。人を陥れるのだから、無傷ではいられない。たとえ陥れる対象が悪人であったとしても……。我が身の可愛さと、お義母様への復讐とを天秤にかけ、揺らぐ自分がいました。告発する前は懲らしめてやりたいと完全に思っていたはずが、いつしか告発した後の自分の保身を考える割合が増えていきます。

ふとエルヴィール先生を見ると、先生は静かに首を横に振りました。


「おそらくそれは……失礼ですが、嘘のご予定だと思われます。ジョアンナ様は教室のみんなから嫌われていて、どんな会食にも誘われません。少なくともわたしは、……あの御夫人が歓迎されているのを見たことがありません。いつも教室では一人ひとりの作品をなめるように見回して、ここがよくないあそこがよくないと辛口コメントをなさいます。わたしも僭越ながらジョアンナ様に注意をさせていただくことがあるのですが、それでも一向に厳しい批評をやめる気配がありません」


やっぱり……。家でも横柄で性格が腐っている人は、外でも同じようなことをして、疎まれているんですね。せめて外面だけでもよくすればいいのに、それすらできない人だったなんて……。このような人を身内に持って、恥ずかしい限りです。お義母様本人はそんなこと知ったこっちゃなしに生きているのでしょうが、息子や娘もいるのだから、自分だけの評判にならないことを理解してほしいです。


「いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません……。ではお義母様は、コンテスト前日の夜に……実行するのでしょうか」


「信じたくありませんが、その可能性はあります……。過去のコンテストでも、ジョアンナ様が枯らしたのではないかという噂が立ったことがあります。わたしは今回もそれをずっと気にしていて、実は張り込みをしようか悩んでいたところだったんです。アンナ様のご申告があり、張り込みをしようと決意できました。ありがとうございます」


想像はしていましたが、私が言うまでもなく、先生にもお義母様の悪い噂は届いていました。火のない所に煙は立たぬ、ということわざは本当かもしれません。


「今さら言うのもなんですが……お義母様でなければいいなという気持ちも……あります」


「もちろんそうですよね。ジョアンナ様が潔白なら、それに越したことはありません。無事にコンテストが終わってほしい……ただそれだけです」


「私はお義母様のために何ができますか? お手伝いしたいです」


「いえ、アンナ様は今回ご報告くださっただけで十分です。本当にありがとうございました。あえて申し上げるとしたら、コンテスト前日は予定通りに送り出してあげてください。あとはわたしにお任せください」


「……やはり、張り込みですか……?」


エルヴィール先生は一度咳払いをしたあと、うつむき加減で答えました。


「そうですね……コンテスト前日の夕方から、会場の陰で張り込もうと思います。信頼できる仲間と一緒に。目撃者が複数いないと、証言の信憑性が弱くなってしまいます」


「そんなわざわざ……すみません。大変なお手間を取らせてしまって」



   ***



こうしてコンテスト前日、お義母様は予定通りに出かけていきました。気の合う仲間たちとのお花談義だと言っていましたが……いるはずのない友達と、何を語るというのでしょう?
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