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お義母様はお花が趣味、というよりお花を育てる・活けることに命を懸けています。"花の狂人"という異名は伊達ではなく、数え切れないほどの花が庭園に敷き詰められています。2時間おきに花々の様子を観察し、必要があれば使用人に指示をして作業させます。
しかし、そんな"花の狂人"に似つかわしくなく、コンテストを心配している表情に見えました。もしかしたら自信がないのかもしれません。
「どなたかライバルがいらっしゃるのですか?」私は特に考えもなく尋ねてしまいました。余計なことを聞かなければよかったと、すぐに後悔が襲ってきます。嫌いな相手に対して、嫌っているわけじゃないですよアピールをするためにあえて話を広げることって……ありますよね? そんな感じです……。
お義母様は渋い顔をしています。両目を細め、左目にいたっては引きつっている感じでした。もちろん、悪い反応です。
「……ヴァランティール様という方がいらっしゃってね、最近ぐんぐん伸びてきてるんだけど……いや、なんでもない。まあ、わたしの足元にも及ばないかな!」
「そうですか、お義母様は毎週熱心に教室に通われていますし、家でもよく研究なされているから、きっと大丈夫ですよ」
義理とはいえ娘ですから、いちおう励ましの言葉をかけました。こちらから話を広げてしまった手前、励まさないのも変な話です。普段いじめられているのに、これでもかというほどの譲歩でしょう……。しかし、お義母様は気に食わなかったようで……。
「ああん? なに? わたしがお花ばっかりやってて、家のことなんてこれっぽっちもしてないって言いたいわけ? あんたはいつからそんな嫌味を言える身分になったの? ちょっと気安く話をしてやったら調子に乗るんだから」
「いえ、決してそのような意味では……。申し訳ありません。晩餐の準備の件、かしこまりました、失礼します……(うわあ、めんどくさ~)」
もうすぐこの義実家から出ていくし、あと少しの辛抱だと思っていたのですが、私はあることを思い出しました。以前に、使用人から聞いた話です。(私はこの家で働くうちに使用人の皆様と親しくなったので、さまざまな事柄を話すようになりました)
私が聞いた話というのは、お義母様のお花のコンテストのことです。コンテストは毎年一度しか開催されないらしく、お義母様は5年連続優勝しています。しかしそのうちの2回は、お義母様のライバルとされている方のお花がコンテスト当日に萎んでしまっていたそうです。お花の状態管理も審査項目の一つなので、その方の作品は戦線から離脱したという話です。
私は庭の手入れの仕事をしているときに、前の日までは元気に咲いていた花が萎んでしまっているのを見たことがありました。栄養状態がよくないのかと思いお義母様に報告したのですが、お義母様はその花を見さえせず「気にしなくていいわ。放っておきなさい。花だって生きているんだから、そんなものよ」と早口で言いました。お花を大事にする人らしからぬ態度に、強烈な違和感を覚えました。疑問に思った私は庭で作業をするお義母様の動きをよく観察するようになりました。
そして……私の疑問は、ある事実への確信に変わっていきます。
実はお義母様は、庭で花を育てると同時に、特定の花に関しては除草剤のテストも行っていたのです。花の種類はまちまちで、規則性はありません。夜にお花の様子を見ているのかと思いきや、実のところ濃度をさまざまに変えた除草剤を撒いていました。そして翌朝一番にその花を観察しに行きます。おそらく、どの程度除草剤が花に影響を及ぼしたかチェックしているのでしょう。それが確かに除草剤であることは、庭園の倉庫にある箱の中身(お義母様以外、接触厳禁)を開け、実際に私も使ってみてわかりました。
(今回のコンテスト……もしかしたら……ライバルの作品に除草剤を入れるつもりかしら……?)
しかし、そんな"花の狂人"に似つかわしくなく、コンテストを心配している表情に見えました。もしかしたら自信がないのかもしれません。
「どなたかライバルがいらっしゃるのですか?」私は特に考えもなく尋ねてしまいました。余計なことを聞かなければよかったと、すぐに後悔が襲ってきます。嫌いな相手に対して、嫌っているわけじゃないですよアピールをするためにあえて話を広げることって……ありますよね? そんな感じです……。
お義母様は渋い顔をしています。両目を細め、左目にいたっては引きつっている感じでした。もちろん、悪い反応です。
「……ヴァランティール様という方がいらっしゃってね、最近ぐんぐん伸びてきてるんだけど……いや、なんでもない。まあ、わたしの足元にも及ばないかな!」
「そうですか、お義母様は毎週熱心に教室に通われていますし、家でもよく研究なされているから、きっと大丈夫ですよ」
義理とはいえ娘ですから、いちおう励ましの言葉をかけました。こちらから話を広げてしまった手前、励まさないのも変な話です。普段いじめられているのに、これでもかというほどの譲歩でしょう……。しかし、お義母様は気に食わなかったようで……。
「ああん? なに? わたしがお花ばっかりやってて、家のことなんてこれっぽっちもしてないって言いたいわけ? あんたはいつからそんな嫌味を言える身分になったの? ちょっと気安く話をしてやったら調子に乗るんだから」
「いえ、決してそのような意味では……。申し訳ありません。晩餐の準備の件、かしこまりました、失礼します……(うわあ、めんどくさ~)」
もうすぐこの義実家から出ていくし、あと少しの辛抱だと思っていたのですが、私はあることを思い出しました。以前に、使用人から聞いた話です。(私はこの家で働くうちに使用人の皆様と親しくなったので、さまざまな事柄を話すようになりました)
私が聞いた話というのは、お義母様のお花のコンテストのことです。コンテストは毎年一度しか開催されないらしく、お義母様は5年連続優勝しています。しかしそのうちの2回は、お義母様のライバルとされている方のお花がコンテスト当日に萎んでしまっていたそうです。お花の状態管理も審査項目の一つなので、その方の作品は戦線から離脱したという話です。
私は庭の手入れの仕事をしているときに、前の日までは元気に咲いていた花が萎んでしまっているのを見たことがありました。栄養状態がよくないのかと思いお義母様に報告したのですが、お義母様はその花を見さえせず「気にしなくていいわ。放っておきなさい。花だって生きているんだから、そんなものよ」と早口で言いました。お花を大事にする人らしからぬ態度に、強烈な違和感を覚えました。疑問に思った私は庭で作業をするお義母様の動きをよく観察するようになりました。
そして……私の疑問は、ある事実への確信に変わっていきます。
実はお義母様は、庭で花を育てると同時に、特定の花に関しては除草剤のテストも行っていたのです。花の種類はまちまちで、規則性はありません。夜にお花の様子を見ているのかと思いきや、実のところ濃度をさまざまに変えた除草剤を撒いていました。そして翌朝一番にその花を観察しに行きます。おそらく、どの程度除草剤が花に影響を及ぼしたかチェックしているのでしょう。それが確かに除草剤であることは、庭園の倉庫にある箱の中身(お義母様以外、接触厳禁)を開け、実際に私も使ってみてわかりました。
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