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8 最終話
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やはりという感じですが、エマニュエルの事情がわかりました。
修道院に送られたくないあまり、エマニュエルは私との復縁をもちかけてきたのです。私はお父様から侯爵様の考えを聞いていたので、驚きはありませんでした。私との婚約が有効である限り、侯爵様は息子を修道院に送ることはできませんでした。おそらく、事態の推移を静観していたのでしょう。エマニュエルの行動の変化を期待していたのは、誰よりも侯爵様だったのかもしれません。
エマニュエルはボロボロ涙を流して私の足元にすがり付き、「許してくれ! 愛している!」と繰り返しました。しかし、過去の人に何を言われたところで響くわけがありません。ましてや救うわけもありません。過去に「最後のチャンス」を与えていたのは私のほうです。彼は人に与えてもらうことしかわからないのですから。
「エマニュエル、私はもう結婚したの。夫は誰よりも私を大切にしてくれているわ。あなたと婚約していた一年間、私はあなたを愛そうと努力してきた。どんなにひどい扱いを受けても、周りに頭を下げても……あなたが変わってくれるならと思って……でも、そんな日は来なかったわ」
彼は地面に顔をこすりつけて泣き続けています。落ち葉が彼の周りに散らばっており、その姿はさらに哀れに見えました。嗚咽する音が薄く響き、彼が小さくしぼんでしまったかのようです。
私は心を強く持ち、別れの言葉を続けました。
「あなたのおかげでわかったことがあるわ。『運命の伴侶』は他人が決めるものじゃなくて、自分が決めるもの。私は今の夫を『運命の伴侶』にしたい。彼を――愛しているから。エマニュエル……これで本当にお別れです。さようなら」
エマニュエルの泣き声が背後で響きましたが、私はその音が遠ざかっていくのを感じながら歩み続けました。手の中の、綺麗に包装された夫へのプレゼントの感触が、私に勇気を与えてくれるかのようでした。
街中をせわしなく移動する人々に紛れながら歩いていると、夫の温かな笑顔が脳裏に浮かび、胸の奥底に喜びの波がじんわりと広がっていきます。
愛する人のもとへ帰る――その単純で、かけがえのない幸せを噛みしめながら、新しい人生をスタートさせたのでした。
修道院に送られたくないあまり、エマニュエルは私との復縁をもちかけてきたのです。私はお父様から侯爵様の考えを聞いていたので、驚きはありませんでした。私との婚約が有効である限り、侯爵様は息子を修道院に送ることはできませんでした。おそらく、事態の推移を静観していたのでしょう。エマニュエルの行動の変化を期待していたのは、誰よりも侯爵様だったのかもしれません。
エマニュエルはボロボロ涙を流して私の足元にすがり付き、「許してくれ! 愛している!」と繰り返しました。しかし、過去の人に何を言われたところで響くわけがありません。ましてや救うわけもありません。過去に「最後のチャンス」を与えていたのは私のほうです。彼は人に与えてもらうことしかわからないのですから。
「エマニュエル、私はもう結婚したの。夫は誰よりも私を大切にしてくれているわ。あなたと婚約していた一年間、私はあなたを愛そうと努力してきた。どんなにひどい扱いを受けても、周りに頭を下げても……あなたが変わってくれるならと思って……でも、そんな日は来なかったわ」
彼は地面に顔をこすりつけて泣き続けています。落ち葉が彼の周りに散らばっており、その姿はさらに哀れに見えました。嗚咽する音が薄く響き、彼が小さくしぼんでしまったかのようです。
私は心を強く持ち、別れの言葉を続けました。
「あなたのおかげでわかったことがあるわ。『運命の伴侶』は他人が決めるものじゃなくて、自分が決めるもの。私は今の夫を『運命の伴侶』にしたい。彼を――愛しているから。エマニュエル……これで本当にお別れです。さようなら」
エマニュエルの泣き声が背後で響きましたが、私はその音が遠ざかっていくのを感じながら歩み続けました。手の中の、綺麗に包装された夫へのプレゼントの感触が、私に勇気を与えてくれるかのようでした。
街中をせわしなく移動する人々に紛れながら歩いていると、夫の温かな笑顔が脳裏に浮かび、胸の奥底に喜びの波がじんわりと広がっていきます。
愛する人のもとへ帰る――その単純で、かけがえのない幸せを噛みしめながら、新しい人生をスタートさせたのでした。
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