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父は困った表情でぽりぽりと頭をかいています。私にはその様子が「さてさて、今度はどうやって切り抜けようか……」と考えているように見えました。父は優しくて人もいいのですが、事なかれ主義なのでなかなか行動にうつしません。かと思うと、たまに何かにハマるやいなや別人のように動き出します。……娘の私にも正直よくわかりません。


父は読んでいた本を閉じて、本棚にしまいました。


「……フィオナの言いたいことはわかった。わしまで侮辱されたという怒りも理解できる。なんとかしたいと思っているが……エマニュエル殿はまだ結婚する自覚がないから、浮わついた態度をとっているという可能性もあるし……」


弱気な声でモグモグ言っている父に対して、私は書斎の机をバンッと両手で叩きました。


「のんきなことを言わないでください。半年後には結婚なのですよ? 婚約してもう一年が経ちます。その間、彼は何も変わりませんでした。今日だって舞踏会に平民の女を連れてきて、みんなのひんしゅくを買っていました。あんな人と結婚するのは無理です! お父様まで侮辱されて……」


「まあわしを侮辱したというのは気にしておらんから、それはひとまず置いておこう。どうしても結婚できないか? エマニュエル殿にもどこか一個くらいは良いところがあるだろう?」


「では聞きますが、一個くらい良いところがあるからってどうなるというんですか? 結婚前から浮気しまくってる男と結婚なんてできるわけないでしょ?」


父はくちびるを固く結んでうんうんとうなずいた後、頭を抱えました。しばらくうなだれていましたが、決心したように顔を上げると、やっと納得してくれました。


「うーん、そうか……。フィオナがそこまで言うなら、わしの責任でもあるし、なんとかしよう。家の事情があるとはいえ、やはり当人どうしの意思は何よりも尊重されねばならんからな。教会裁判で争うのは醜いものだ。わしも一人の父親として、娘には幸せになってもらいたい。侯爵家への最後通告を丁重に送るようにする。結婚前の不貞が是正されない限り、結婚はできません、とな」


「え? 今すぐ婚約を解消することはできないんですか!? もう彼の顔も見たくないんです」


「お前の気持ちもわかるが、爵位も権力も向こうのほうが上だ。いきなり婚約破棄などできんよ。そこはわかってくれ。きちんとした形式を踏めば、周りの理解も得られる。今回の通告でエマニュエル殿の態度が変わるかもしれん」


「変わらないと思いますよ。典型的な下半身脳みそ男ですし、浮気をする人は浮気をし続けるんじゃないですかね。次に彼が浮気したら、その時こそ婚約破棄です」


「わかったよ。お前の望むようにしよう」


父の条件に関して、ほとんど心配していませんでした。エマニュエルのことだから、きっとまたどこかで浮気すると確信していました。

私は婚約破棄を確実に実現するために、あえてエマニュエルにデートのお誘いの手紙を出しました。
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