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窮地に立たされた私は、税の延納を領主様に願い出ました。領主様も干ばつ被害についてはもちろんご存知なので、延納を認めると一度はおっしゃってくれました。
しかし、すぐに風向きが変わり、その合意はなくなってしまいます。国王陛下が東の部族と戦争を始めるとのことで、領主様が参戦せねばならなくなったからです。つまり、ありとあらゆるところから人とお金を集めてこなければなりません。私は戦争に協力することで徴収を免れようとしたのですが、やはり必要なのは現金とのことで、却下されました(戦地には行くがすぐに帰りたいと領主様は考えていたのでしょう)。結果、税の延納どころか取り立てにあってしまい、領主様に根こそぎ財産を持っていかれたのです。
この時ほどみじめな思いを感じたことはありません。私は小さい頃より武芸を磨き、領主様の力になってきました。しかし、両親亡き後にいざ領地を任されると、その経営は想像以上に困難を極めました。貯金を作ろう、先のことを考えようと思っても、目先のことで精一杯です。
そして、すべてを領主様に差し出した私に余力はなく、とうとう借金の返済も滞るようになりました。マクシミリアンと契約書の見直しを話し合ったのですが、彼は認めてくれませんでした。弱肉強食のこの世界で、私が甘かったのだと自覚しています。彼は評判通りの冷酷さを見せました。どうして私だけに優しいなんてことがあるでしょうか。彼は家族でも友人でもありません。それなのにお金を借りる時、私は彼の人当たりのよさを、親愛の情だと勘違いしていました。
こうして昨年の初め、私の屋敷の家具は競売にかけられ、他にもお金になりそうな物は何でも没収されました。結婚の際に買った調度品もすべて手放さざるをえませんでした。シャルロットはあ然として、没収されていく様を見ていました。着ている服以外はすべて持っていかれたので、結局彼女のお気に入りの、借金するきっかけになったあの服までも失ってしまいました。
屋敷もいずれ売る必要があると話した時、シャルロットは怒って叫びました。
「ああ、情けない! なんてひどい有り様なのでしょう! 生まれてこないほうがよかったくらいだわ! わたしと同じくらい良い家柄の出身で、こんな屈辱的な思いをする人が他にいるでしょうか? 絶対にいませんね。週末の教会にさえ行けなくなってしまったじゃないの。わたしが今まで散々切り盛りしてきたというのに、あなたは隠れて借金していたなんて。信じられない人ね! はあ……。実家にいた頃のわたしは選びたい放題に男と結婚できる立場だったのに、どうしてこんなことになったの? あなた以外だったら誰でもいいわ、あなた以外の誰かと結婚していたら、きっと今のわたしはお金持ちになれていたでしょうに! お金持ちがどんな暮らしをしているか、あなた知ってる? 知らないでしょうね。はあ……。いっそ悪魔でもいいから、ひと思いにわたしの息の根を止めてくれないかしら」
こう言い残してシャルロットは屋敷を出ていき、実家に帰りました。屋敷に一人残された私は、無力感に打ちひしがれました。愛する妻のためにすべてを捧げてきたはずが、その妻に愛想を尽かされてしまったのですから。
何もかもを失った私に、恐れるものはありませんでした。飢えて無様に死ぬくらいなら、騎士として誇り高く死にたいと考えました。
そこで、私は領主様の次男であるベルナール様に決闘を申し込みました。妻を寝取られた男として、その名誉回復を望みました。武芸の稽古を怠ったことはないので、自信がありました。決闘を申し込むというのはまさに捨て身の作戦でしたが、これ以外に思いつきませんでした。
しかし、すぐに風向きが変わり、その合意はなくなってしまいます。国王陛下が東の部族と戦争を始めるとのことで、領主様が参戦せねばならなくなったからです。つまり、ありとあらゆるところから人とお金を集めてこなければなりません。私は戦争に協力することで徴収を免れようとしたのですが、やはり必要なのは現金とのことで、却下されました(戦地には行くがすぐに帰りたいと領主様は考えていたのでしょう)。結果、税の延納どころか取り立てにあってしまい、領主様に根こそぎ財産を持っていかれたのです。
この時ほどみじめな思いを感じたことはありません。私は小さい頃より武芸を磨き、領主様の力になってきました。しかし、両親亡き後にいざ領地を任されると、その経営は想像以上に困難を極めました。貯金を作ろう、先のことを考えようと思っても、目先のことで精一杯です。
そして、すべてを領主様に差し出した私に余力はなく、とうとう借金の返済も滞るようになりました。マクシミリアンと契約書の見直しを話し合ったのですが、彼は認めてくれませんでした。弱肉強食のこの世界で、私が甘かったのだと自覚しています。彼は評判通りの冷酷さを見せました。どうして私だけに優しいなんてことがあるでしょうか。彼は家族でも友人でもありません。それなのにお金を借りる時、私は彼の人当たりのよさを、親愛の情だと勘違いしていました。
こうして昨年の初め、私の屋敷の家具は競売にかけられ、他にもお金になりそうな物は何でも没収されました。結婚の際に買った調度品もすべて手放さざるをえませんでした。シャルロットはあ然として、没収されていく様を見ていました。着ている服以外はすべて持っていかれたので、結局彼女のお気に入りの、借金するきっかけになったあの服までも失ってしまいました。
屋敷もいずれ売る必要があると話した時、シャルロットは怒って叫びました。
「ああ、情けない! なんてひどい有り様なのでしょう! 生まれてこないほうがよかったくらいだわ! わたしと同じくらい良い家柄の出身で、こんな屈辱的な思いをする人が他にいるでしょうか? 絶対にいませんね。週末の教会にさえ行けなくなってしまったじゃないの。わたしが今まで散々切り盛りしてきたというのに、あなたは隠れて借金していたなんて。信じられない人ね! はあ……。実家にいた頃のわたしは選びたい放題に男と結婚できる立場だったのに、どうしてこんなことになったの? あなた以外だったら誰でもいいわ、あなた以外の誰かと結婚していたら、きっと今のわたしはお金持ちになれていたでしょうに! お金持ちがどんな暮らしをしているか、あなた知ってる? 知らないでしょうね。はあ……。いっそ悪魔でもいいから、ひと思いにわたしの息の根を止めてくれないかしら」
こう言い残してシャルロットは屋敷を出ていき、実家に帰りました。屋敷に一人残された私は、無力感に打ちひしがれました。愛する妻のためにすべてを捧げてきたはずが、その妻に愛想を尽かされてしまったのですから。
何もかもを失った私に、恐れるものはありませんでした。飢えて無様に死ぬくらいなら、騎士として誇り高く死にたいと考えました。
そこで、私は領主様の次男であるベルナール様に決闘を申し込みました。妻を寝取られた男として、その名誉回復を望みました。武芸の稽古を怠ったことはないので、自信がありました。決闘を申し込むというのはまさに捨て身の作戦でしたが、これ以外に思いつきませんでした。
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