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父の手紙に対してタイスからの返事はなかったけど、ジルからの返事はきたようだった。

『辺境伯様。タイス様が留年することとなり、私も責任を感じております。つきましては当屋敷にも家庭教師を呼び、タイス様の勉学を支援したく存じます。タイス様の進級は私ジルの務めだとも認識しております。なにとぞ、タイス様を寮ではなく当屋敷にて見させてもらえないでしょうか。よろしくお願いします』

という内容。

私には怒りもあったし、呆れもあった。そこまでしてタイスをとどまらせておきたいの? そんなにタイスのことが好きなの? お父様が寮に入れるって言っているんだから、素直に従っておけばいいのに。

父もこの手紙には困った様子だった。
「拒否してくるとはな、あの青二才め」

「どうなさるのですか、お父様?」

「うーん……。本当は無理やり寮に入れてもいいんだが、タイスがさらにグレると面倒だからな。ここはジルに任せておいて、責任を取らせよう。ジルも意地になってタイスを進級させてくれるだろう。そうすれば卒業に近づくし、うちとしては問題ない。お前には不快な思いをさせるが……すまんな」

「……かしこまりました」

無力だった。ジルとタイスはあの屋敷で好き放題やっているというのに、私には何もいいことがなかった。ただ実家にいて、日々を過ごしているだけ。ジルと離縁できないから次の男性を見つけることもできないし、生き殺し状態である。タイスの卒業を待つしかない。しかもタイスが卒業した後も、またあの屋敷に戻って……夫婦生活をする? いや、そんなの絶対に無理よ。戻りたくない。ジルの顔なんてもう見たくない。



しかし、希望が見えなかった状況も、あることをきっかけに大きく変わることとなる。
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