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「うわっ! 汚い!」
妹が叫んだ。うるさいわねこの淫乱女。
ジルもベッドの上でドン引きしていた。
妻が吐いているのよ……そんな顔しないでよ。
私は二人に向かって言った。
「もうこんな家には住めないので、出ていきます。どうぞ二人仲良くお過ごしください」
私は部屋から出た。これ以上同じ空気を吸っていたくなかった。ジルに裏切られた。妹に裏切られた。やっぱり妹を屋敷に住まわせるんじゃなかった……。
扉を閉めて虚しい気持ちで自分の部屋に戻ったけど、ジルは追いかけてくれなかった。
荷物をまとめ、翌日家を出た。
実家に戻るためである。
実家に着いて、父にすべてを話した。父は私に同情してくれたものの、離縁は許してくれなかった。
父が私に言う。
「ジルはうちの家にとって重要な人間だ。あいつは王宮で絶対に出世する。だからお前を結婚させたんだ。一緒に住んでいなくていいから、離縁だけはするな」
「でも……タイスはどうなさるんです……?」
「タイスは王立学院を卒業したら公爵家の令息と結婚させる。あと二年の辛抱だ。だからお前もこの家であと二年過ごしていたらいい」
「二年したら……戻らなくてはだめですか?」
「……わからん。今は王都の街で伝染病が流行っているからな。吐き気をもよおしたあとに、発熱するらしい。風邪のようなものだと思われていたが、最近は死者が出ていて、大変な騒ぎになりつつある。まもなく戒厳令が出るだろう。お前も王都へはしばらく行かないほうがいい」
私はドキッとした。ジルとタイスが抱き合っていた現場にいたとき、吐いてしまった。もしかして私も伝染病にかかっている……? いや、でも今は発熱していない……。こわいよ……。
「ちなみに……戒厳令が出るとどうなるのですか?」
「原則、外出禁止だ。現実的には歩いているからといって即捕まるわけじゃないが、遊び歩いて油断してると捕まるかもな」
「かしこまりました。タイスはよく街へ遊びに行くので、心配です」
「まあ王都警察には献金しているから大丈夫だとは思うが……。確かにタイスはじっとしていられない性格だからな。いちおう手紙を書いておくか、ほっつき歩くなと」
父はこうしてタイスに手紙を送ったけど、タイスは聞く耳をもたなかったらしい。
私もジルの屋敷の使用人とはたまに手紙のやり取りをした。タイスは私がいなくなってから遊びが激しくなったらしく、毎日のように夜遅く帰ってくるとのことだった。帰ってくるならまだましなほうで、街の中心部に住んでいる男の家に入り浸っていることもあるそうだ。
私が実家に戻り一年ほど経ったある日、父はタイスから来た手紙を見て激怒していた。
「なにをやっているんだこのアホ娘は!」
その手紙が、私の運命を変えることとなる……
妹が叫んだ。うるさいわねこの淫乱女。
ジルもベッドの上でドン引きしていた。
妻が吐いているのよ……そんな顔しないでよ。
私は二人に向かって言った。
「もうこんな家には住めないので、出ていきます。どうぞ二人仲良くお過ごしください」
私は部屋から出た。これ以上同じ空気を吸っていたくなかった。ジルに裏切られた。妹に裏切られた。やっぱり妹を屋敷に住まわせるんじゃなかった……。
扉を閉めて虚しい気持ちで自分の部屋に戻ったけど、ジルは追いかけてくれなかった。
荷物をまとめ、翌日家を出た。
実家に戻るためである。
実家に着いて、父にすべてを話した。父は私に同情してくれたものの、離縁は許してくれなかった。
父が私に言う。
「ジルはうちの家にとって重要な人間だ。あいつは王宮で絶対に出世する。だからお前を結婚させたんだ。一緒に住んでいなくていいから、離縁だけはするな」
「でも……タイスはどうなさるんです……?」
「タイスは王立学院を卒業したら公爵家の令息と結婚させる。あと二年の辛抱だ。だからお前もこの家であと二年過ごしていたらいい」
「二年したら……戻らなくてはだめですか?」
「……わからん。今は王都の街で伝染病が流行っているからな。吐き気をもよおしたあとに、発熱するらしい。風邪のようなものだと思われていたが、最近は死者が出ていて、大変な騒ぎになりつつある。まもなく戒厳令が出るだろう。お前も王都へはしばらく行かないほうがいい」
私はドキッとした。ジルとタイスが抱き合っていた現場にいたとき、吐いてしまった。もしかして私も伝染病にかかっている……? いや、でも今は発熱していない……。こわいよ……。
「ちなみに……戒厳令が出るとどうなるのですか?」
「原則、外出禁止だ。現実的には歩いているからといって即捕まるわけじゃないが、遊び歩いて油断してると捕まるかもな」
「かしこまりました。タイスはよく街へ遊びに行くので、心配です」
「まあ王都警察には献金しているから大丈夫だとは思うが……。確かにタイスはじっとしていられない性格だからな。いちおう手紙を書いておくか、ほっつき歩くなと」
父はこうしてタイスに手紙を送ったけど、タイスは聞く耳をもたなかったらしい。
私もジルの屋敷の使用人とはたまに手紙のやり取りをした。タイスは私がいなくなってから遊びが激しくなったらしく、毎日のように夜遅く帰ってくるとのことだった。帰ってくるならまだましなほうで、街の中心部に住んでいる男の家に入り浸っていることもあるそうだ。
私が実家に戻り一年ほど経ったある日、父はタイスから来た手紙を見て激怒していた。
「なにをやっているんだこのアホ娘は!」
その手紙が、私の運命を変えることとなる……
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