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ジルとタイスは裸で抱き合っていた。
もう言い逃れはできないはず。私が現場を見てしまったのだから。

私は二人に向かって叫んだ。
「これはどういうこと?」

二人は「ひ、ひぃぃぃ!」と驚きの声をあげて私を見た。
ジルは急いで掛け布団をタイスにかけた。ばれていないつもりかしら……? タイスは掛け布団の中にくるまって姿を隠した。

「びっくりした~! マリアンヌじゃないか! 今日は刺繍教室じゃなかったのか?」

「そうだったんだけど、先生が体調悪くてお休みになったから、早く帰ってきたの」

なんで私はジルと普通に話しているんだろう……。裸の夫と裸の妹が同じベッドの上にいるという異常事態に、もはや感覚が麻痺している。

ジルはおどおどしながら答えた。
「そ、そうか……。それは先生もお気の毒だな。今度お見舞いの品をお持ちしよう」

「そんなことより……どういうことか説明してもらえる? タイスも……くるまっていないで出てきなさい。もうわかっているんだから」

タイスは「なんだぁ~~、ばれてるのか~~」とヘラヘラしながら顔を出した。私は怒りのあまりこぶしにぐっと力が入った。

ジルは目をきょろきょろさせて、じっとしていられないようだった。小刻みに体が動いている。
「その……これはだなぁ……なんて言ったらいいのか……その……」

タイスは明るい顔をして私に言った。
「わたしがお姉ちゃんの代わりにジル様を癒やして差し上げていたの! お姉ちゃんも何かとお忙しい身分でしょ? 一人でジル様のお相手をするのは大変かなと思って!」

「はあ……?」

「ジル様は穏やかで優しそうに見えるけど、立派な殿方なのよ。お姉ちゃんは夜は淡白だって聞いたわ。ジル様は物足りないのよ。お姉ちゃんのメルヘンな恋愛脳に本当はついていけていないの」

「そんなことまでタイスに……?」

ジルは手を振り慌てふためいた。
「いやいやいや……まあちょっと……話の流れで……」

「私のことは……嫌いですか?」

「好きだよ、マリアンヌのことは人間的に好き。……でもそれは夫婦というかパートナーとしてであって……」

しびれを切らしたように妹は言った。
「ジル様、この馬鹿なお姉ちゃんに言ってやったらいいのよ。気持ちいいセックスなしに男の気持ちを掴んでおけると思うなよ、って。気持ちを伝え合っていたって、どうしようもない欲求不満が募るんだぞ、って」

妹はずけずけと痛いところを突いてきた。私はジルと夫婦としてうまくいっていると思っていた。それは互いに互いの存在を尊重し合い、言葉にすることだった。
私が悪いんだろうか? 肉体的な行為ももちろんしたことはあるけど、あまり誘われたことがないから、そういうのを求めない人なのかと……。

私はジルにきいた。
「タイスが言っているようなことを……あなたも思っているの?」

「そう……だね。この際だから言わせてもらうけど、僕たちは政略結婚だ。家のために結婚している。そういう意味で僕はマリアンヌのことを大切にしているんだ。本当はこんなこと言いたくない……」

「政略結婚だからといって、妻の妹を抱くのは許されることなの?」

夫は急に眉間にシワを寄せて、私を睨んだ。
「しかたないだろ! 仕事だって忙しいし、街では女性と歩くこともできない。辺境伯様の配下の者が常に僕を監視しているからな! 息苦しくってしかたない……」

「……あなたからタイスを誘ったの?」

「そうだよ。タイスが王立学院の勉強をしていたから、興味半分で覗いてみたんだ。そして勉強の話をするうちに……我慢できなくなった」

「気持ち悪……オェェ」

私は吐いてしまった。自分の知らないところでジルと妹が恋していたと想像すると、耐えられなかった。
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