5 / 9
5
しおりを挟む
ジルとタイスは裸で抱き合っていた。
もう言い逃れはできないはず。私が現場を見てしまったのだから。
私は二人に向かって叫んだ。
「これはどういうこと?」
二人は「ひ、ひぃぃぃ!」と驚きの声をあげて私を見た。
ジルは急いで掛け布団をタイスにかけた。ばれていないつもりかしら……? タイスは掛け布団の中にくるまって姿を隠した。
「びっくりした~! マリアンヌじゃないか! 今日は刺繍教室じゃなかったのか?」
「そうだったんだけど、先生が体調悪くてお休みになったから、早く帰ってきたの」
なんで私はジルと普通に話しているんだろう……。裸の夫と裸の妹が同じベッドの上にいるという異常事態に、もはや感覚が麻痺している。
ジルはおどおどしながら答えた。
「そ、そうか……。それは先生もお気の毒だな。今度お見舞いの品をお持ちしよう」
「そんなことより……どういうことか説明してもらえる? タイスも……くるまっていないで出てきなさい。もうわかっているんだから」
タイスは「なんだぁ~~、ばれてるのか~~」とヘラヘラしながら顔を出した。私は怒りのあまりこぶしにぐっと力が入った。
ジルは目をきょろきょろさせて、じっとしていられないようだった。小刻みに体が動いている。
「その……これはだなぁ……なんて言ったらいいのか……その……」
タイスは明るい顔をして私に言った。
「わたしがお姉ちゃんの代わりにジル様を癒やして差し上げていたの! お姉ちゃんも何かとお忙しい身分でしょ? 一人でジル様のお相手をするのは大変かなと思って!」
「はあ……?」
「ジル様は穏やかで優しそうに見えるけど、立派な殿方なのよ。お姉ちゃんは夜は淡白だって聞いたわ。ジル様は物足りないのよ。お姉ちゃんのメルヘンな恋愛脳に本当はついていけていないの」
「そんなことまでタイスに……?」
ジルは手を振り慌てふためいた。
「いやいやいや……まあちょっと……話の流れで……」
「私のことは……嫌いですか?」
「好きだよ、マリアンヌのことは人間的に好き。……でもそれは夫婦というかパートナーとしてであって……」
しびれを切らしたように妹は言った。
「ジル様、この馬鹿なお姉ちゃんに言ってやったらいいのよ。気持ちいいセックスなしに男の気持ちを掴んでおけると思うなよ、って。気持ちを伝え合っていたって、どうしようもない欲求不満が募るんだぞ、って」
妹はずけずけと痛いところを突いてきた。私はジルと夫婦としてうまくいっていると思っていた。それは互いに互いの存在を尊重し合い、言葉にすることだった。
私が悪いんだろうか? 肉体的な行為ももちろんしたことはあるけど、あまり誘われたことがないから、そういうのを求めない人なのかと……。
私はジルにきいた。
「タイスが言っているようなことを……あなたも思っているの?」
「そう……だね。この際だから言わせてもらうけど、僕たちは政略結婚だ。家のために結婚している。そういう意味で僕はマリアンヌのことを大切にしているんだ。本当はこんなこと言いたくない……」
「政略結婚だからといって、妻の妹を抱くのは許されることなの?」
夫は急に眉間にシワを寄せて、私を睨んだ。
「しかたないだろ! 仕事だって忙しいし、街では女性と歩くこともできない。辺境伯様の配下の者が常に僕を監視しているからな! 息苦しくってしかたない……」
「……あなたからタイスを誘ったの?」
「そうだよ。タイスが王立学院の勉強をしていたから、興味半分で覗いてみたんだ。そして勉強の話をするうちに……我慢できなくなった」
「気持ち悪……オェェ」
私は吐いてしまった。自分の知らないところでジルと妹が恋していたと想像すると、耐えられなかった。
もう言い逃れはできないはず。私が現場を見てしまったのだから。
私は二人に向かって叫んだ。
「これはどういうこと?」
二人は「ひ、ひぃぃぃ!」と驚きの声をあげて私を見た。
ジルは急いで掛け布団をタイスにかけた。ばれていないつもりかしら……? タイスは掛け布団の中にくるまって姿を隠した。
「びっくりした~! マリアンヌじゃないか! 今日は刺繍教室じゃなかったのか?」
「そうだったんだけど、先生が体調悪くてお休みになったから、早く帰ってきたの」
なんで私はジルと普通に話しているんだろう……。裸の夫と裸の妹が同じベッドの上にいるという異常事態に、もはや感覚が麻痺している。
ジルはおどおどしながら答えた。
「そ、そうか……。それは先生もお気の毒だな。今度お見舞いの品をお持ちしよう」
「そんなことより……どういうことか説明してもらえる? タイスも……くるまっていないで出てきなさい。もうわかっているんだから」
タイスは「なんだぁ~~、ばれてるのか~~」とヘラヘラしながら顔を出した。私は怒りのあまりこぶしにぐっと力が入った。
ジルは目をきょろきょろさせて、じっとしていられないようだった。小刻みに体が動いている。
「その……これはだなぁ……なんて言ったらいいのか……その……」
タイスは明るい顔をして私に言った。
「わたしがお姉ちゃんの代わりにジル様を癒やして差し上げていたの! お姉ちゃんも何かとお忙しい身分でしょ? 一人でジル様のお相手をするのは大変かなと思って!」
「はあ……?」
「ジル様は穏やかで優しそうに見えるけど、立派な殿方なのよ。お姉ちゃんは夜は淡白だって聞いたわ。ジル様は物足りないのよ。お姉ちゃんのメルヘンな恋愛脳に本当はついていけていないの」
「そんなことまでタイスに……?」
ジルは手を振り慌てふためいた。
「いやいやいや……まあちょっと……話の流れで……」
「私のことは……嫌いですか?」
「好きだよ、マリアンヌのことは人間的に好き。……でもそれは夫婦というかパートナーとしてであって……」
しびれを切らしたように妹は言った。
「ジル様、この馬鹿なお姉ちゃんに言ってやったらいいのよ。気持ちいいセックスなしに男の気持ちを掴んでおけると思うなよ、って。気持ちを伝え合っていたって、どうしようもない欲求不満が募るんだぞ、って」
妹はずけずけと痛いところを突いてきた。私はジルと夫婦としてうまくいっていると思っていた。それは互いに互いの存在を尊重し合い、言葉にすることだった。
私が悪いんだろうか? 肉体的な行為ももちろんしたことはあるけど、あまり誘われたことがないから、そういうのを求めない人なのかと……。
私はジルにきいた。
「タイスが言っているようなことを……あなたも思っているの?」
「そう……だね。この際だから言わせてもらうけど、僕たちは政略結婚だ。家のために結婚している。そういう意味で僕はマリアンヌのことを大切にしているんだ。本当はこんなこと言いたくない……」
「政略結婚だからといって、妻の妹を抱くのは許されることなの?」
夫は急に眉間にシワを寄せて、私を睨んだ。
「しかたないだろ! 仕事だって忙しいし、街では女性と歩くこともできない。辺境伯様の配下の者が常に僕を監視しているからな! 息苦しくってしかたない……」
「……あなたからタイスを誘ったの?」
「そうだよ。タイスが王立学院の勉強をしていたから、興味半分で覗いてみたんだ。そして勉強の話をするうちに……我慢できなくなった」
「気持ち悪……オェェ」
私は吐いてしまった。自分の知らないところでジルと妹が恋していたと想像すると、耐えられなかった。
33
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
愛はひとつが良いと思うの
聖 りんご
恋愛
結婚三年目の記念日。
ラブラブ新婚生活からそろそろ可愛い子共をつくって幸せファミリーにシフトチェンジしようと薔薇色の未来をみていたララは現実を見てしまった。
夫であるリックの楽しそうなデート現場。
「はああああ?!」
※平日更新
【短編】浮気夫を追い出しました。泣き寝入りなんていたしません。
みねバイヤーン
恋愛
「エリザ、許してくれ。気の迷いだった、本気じゃなかった。愛してるのは君だけだ」
ブラッドリーがエリザの手を握って、目をのぞき込む。
「さようでございますの。私の集めた情報からはそうは思えませんけれど。では、読んでみましょうかしら」
エリザは夫が恋人たちに送った手紙を読み上げる。
エリザは浮気夫を裕福なマーゴット公爵夫人に売り飛ばすことにした。
こんな男は自分にも娘にも必要ない。
夫に裏切られ、傷ついたエリザが幸せになる道を模索し、未来を切り開くためにあがく物語。
あぁ、妹よ、私のことなんてどうでもいい夫を奪ってくれて、ありがとう。これで離婚できます
ヘロディア
恋愛
自分より優れている妹に、ずっと劣等感を抱いていた主人公シャルル・マロン。そして、政略結婚でとある伯爵のアルベール・ダンドレジーに嫁いだ。
しかし、彼はシャルルに「妻」としてしか扱ってもらえず、「女」として見てくれるのは夜だけだった。次第に不満が募っていく。
ある日、シャルルの妹、マルゴが自身の成人の挨拶にやってきた。彼女と同時に事件はひっそりと迫っていた…
婚約者を親友に寝取られた王太子殿下〜洗脳された婚約者は浮気相手の子供を妊娠したので一緒に育てようと言ってきたので捨てました
window
恋愛
王太子オリバー・ロビンソンは最愛の婚約者のアイラ・ハンプシャー公爵令嬢との
結婚生活に胸を弾ませていた。
だがオリバー殿下は絶望のどん底に突き落とされる。
さようなら、あなたとはもうお別れです
四季
恋愛
十八の誕生日、親から告げられたアセインという青年と婚約した。
幸せになれると思っていた。
そう夢みていたのだ。
しかし、婚約から三ヶ月ほどが経った頃、異変が起こり始める。
あたし、妊娠してるの!夫の浮気相手から衝撃告白された私は事実を調べて伝えてやると驚きの結末が・・・
白崎アイド
大衆娯楽
夫の子供を妊娠していると浮気相手の女性から突然電話がかかってきた。
衝撃的な告白に私はパニックになるが、夫と話し合いをしてほしいと伝える。
しかし、浮気相手はお金を払えと催促してきて・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる