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ビンタって、もっとパシンと綺麗に鳴るのかと思っていたけど、意外にそんなことはなかった。
シルヴェスターはニヤリと笑ったあと、またゲラルトの髪を掴み直した。
「おいゲラルト。俺に金借りてるよなあ? すぐ返せよ?」
ゲラルトは絶望した顔をしている。
「そ、そんな……急には無理です」
「あん? なんで無理なんだよ。ほら、奥さんの前ではっきり言ってみろよ。俺以外にもいろんなところに金借りて、質屋にも行って、『僕は首が回っていましぇ~~ん』って言ってみろよ」
ゲラルトはうつむいたまま「すみません」を繰り返した。
状況を見かねたゲラルトの両親がシルヴェスターの前で土下座をした。
「そのへんで勘弁してやってもらえませんか? 息子もこれに懲りて反省すると思います。お金は私が建て替えますので……」
ゲラルトの父親は頭を床にこすりつけるようにして言った。
そのときだった。
シルヴェスターの手の力が緩んだ隙に、ゲラルトは立ち上がって逃げ出し、窓を開けた。
「おい!!!」
シルヴェスターは焦って止めようとしたが、ゲラルトは窓に身を乗り出している。
「すみません。もうこうするしかないんです!」
ゲラルトが今にも飛び降りようとしたそのとき、ゲラルトに異変が起きた。急に部屋に戻り、鼻をおさえている。
「く、臭いぞ! うんこの臭いがする!!!」
そう言ってゲラルトは部屋の床でむせた。その場をシルヴェスターとハンスが確保し、ゲラルトは捕まった。
「そんなわけないじゃない!」
私はつい叫んでしまった。私がこの部屋の外壁に”あれ”を投げたのは随分前の昼食会の話。今も臭っているはずなんてない!
「どうかしたの……? オリヴィア」
ハンスがきょとんとした顔でこちらを見ている。
「な、なんでもないわよ!」
さすがに私が”あれ”を外壁に投げつけたとは言えない。でも、まさかこんなときに役立つとは思わなかった。これでゲラルトを捕まえられたし、ゲラルトは怪我せずに済んだ。
私はゲラルトの前に立って言った。
「あなたとは離縁させていただきます。慰謝料はたっぷり払ってもらいますからね!」
「どうか……どうか許してくれ……お情けを……」
「お情けなんてあるわけないじゃない! しかも……臭いってなによ! 失礼ね!」
「……?」
「もういいから。離縁よ離縁。慰謝料はビタ一文まけません」
シルヴェスターとハンスに両脇を固められたゲラルトは力無くうなずき、この場は一件落着となった。
その後、ゲラルトと私の離縁手続きは無事に済み、晴れて独身の身となった。感謝を伝えにハンスのもとへ行くと、ハンスからプロポーズされた。私はもちろんオッケーした。
ゲラルトは街での立場を完全に失い、街の奴隷のような身分に落ちた。私に払う慰謝料もあるため、永年タダ働きのようなものである。それでもシルヴェスターはゲラルトを見捨てず、あくまで仕事で使ってくれた。だからこそ私には慰謝料が入ってくる。
カタリーナも結局のところ街にはいられなくなり、異国で娼婦をしているという噂がある。勝手に出て行ったため、ハンスの両親もカタリーナを勘当してしまった。他人の家庭の愛を奪う女にふさわしい末路ね。
ゲラルトの慰謝料をもらいつつ、私は新しい夫ハンスとともに幸せな家庭を築いていくのだった。
シルヴェスターはニヤリと笑ったあと、またゲラルトの髪を掴み直した。
「おいゲラルト。俺に金借りてるよなあ? すぐ返せよ?」
ゲラルトは絶望した顔をしている。
「そ、そんな……急には無理です」
「あん? なんで無理なんだよ。ほら、奥さんの前ではっきり言ってみろよ。俺以外にもいろんなところに金借りて、質屋にも行って、『僕は首が回っていましぇ~~ん』って言ってみろよ」
ゲラルトはうつむいたまま「すみません」を繰り返した。
状況を見かねたゲラルトの両親がシルヴェスターの前で土下座をした。
「そのへんで勘弁してやってもらえませんか? 息子もこれに懲りて反省すると思います。お金は私が建て替えますので……」
ゲラルトの父親は頭を床にこすりつけるようにして言った。
そのときだった。
シルヴェスターの手の力が緩んだ隙に、ゲラルトは立ち上がって逃げ出し、窓を開けた。
「おい!!!」
シルヴェスターは焦って止めようとしたが、ゲラルトは窓に身を乗り出している。
「すみません。もうこうするしかないんです!」
ゲラルトが今にも飛び降りようとしたそのとき、ゲラルトに異変が起きた。急に部屋に戻り、鼻をおさえている。
「く、臭いぞ! うんこの臭いがする!!!」
そう言ってゲラルトは部屋の床でむせた。その場をシルヴェスターとハンスが確保し、ゲラルトは捕まった。
「そんなわけないじゃない!」
私はつい叫んでしまった。私がこの部屋の外壁に”あれ”を投げたのは随分前の昼食会の話。今も臭っているはずなんてない!
「どうかしたの……? オリヴィア」
ハンスがきょとんとした顔でこちらを見ている。
「な、なんでもないわよ!」
さすがに私が”あれ”を外壁に投げつけたとは言えない。でも、まさかこんなときに役立つとは思わなかった。これでゲラルトを捕まえられたし、ゲラルトは怪我せずに済んだ。
私はゲラルトの前に立って言った。
「あなたとは離縁させていただきます。慰謝料はたっぷり払ってもらいますからね!」
「どうか……どうか許してくれ……お情けを……」
「お情けなんてあるわけないじゃない! しかも……臭いってなによ! 失礼ね!」
「……?」
「もういいから。離縁よ離縁。慰謝料はビタ一文まけません」
シルヴェスターとハンスに両脇を固められたゲラルトは力無くうなずき、この場は一件落着となった。
その後、ゲラルトと私の離縁手続きは無事に済み、晴れて独身の身となった。感謝を伝えにハンスのもとへ行くと、ハンスからプロポーズされた。私はもちろんオッケーした。
ゲラルトは街での立場を完全に失い、街の奴隷のような身分に落ちた。私に払う慰謝料もあるため、永年タダ働きのようなものである。それでもシルヴェスターはゲラルトを見捨てず、あくまで仕事で使ってくれた。だからこそ私には慰謝料が入ってくる。
カタリーナも結局のところ街にはいられなくなり、異国で娼婦をしているという噂がある。勝手に出て行ったため、ハンスの両親もカタリーナを勘当してしまった。他人の家庭の愛を奪う女にふさわしい末路ね。
ゲラルトの慰謝料をもらいつつ、私は新しい夫ハンスとともに幸せな家庭を築いていくのだった。
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