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小屋に移動するまで、私はいろんな人に慰められた。一番謝ってきたのはゲラルトの父親で、「本当にうちの息子がすまなかった」と言ってきた。ゲラルトの母親も「あの子は報いを受けて目を覚まさなくちゃいけないわ」と怒っていた。私にとっては義母なわけだけど、私に味方をして、息子を更生させようとしてくれるのが嬉しかった。
シルヴェスターも私に話しかけてきた。
「奥さん、ゲラルトとは別れたほうがいい。仕事でも使えないし、クビにしようかと思ってたんだ」
私は驚いた。ゲラルトはいつも自分がいかに頼りにされているか語っていたから。
「え……。いつもシルヴェスターさんの役に立っていると……鼻を高くしているのですよ」
シルヴェスターは(嘘だろ?)みたいな表情をした。
「いやいや。仕事関係者に聞いてみるといい。みんなゲラルトはクソだって言うはずだぜ。家庭の中では吠えているのかもしれんが、オリヴィアさんっていう奥さんがいるから、俺もクビにできないでいるだけなんだ」
「そうだったのですね……」
「それにあいつは……借金があるんだが……知っているのか?」
「ええ!?」
知らなかった。ゲラルトは節約に関してうるさいから、てっきりお金の管理はできていると思っていた。
シルヴェスターは同情するような眼差しを私に向けた。
「俺も金を貸してるし、あいつは質屋も使っているらしいぞ。首が回ってなさそうで、実は心配してたんだ。それなのに、以前に俺の部下があいつを指輪屋で見たって言った」
カタリーナにプレゼントしていた指輪のことだ! まさか借金までして買ってあげていたなんて……そこまでしてカタリーナを……?
「たぶん……カタリーナに買ってあげたのだと思います」
「だろうな。まったく……こんなに心配してくれる奥さんがいながら……あの馬鹿ゲラルトは……」
隣で歩きながら、シルヴェスターは拳をボキボキ鳴らした。
「今日は……私のために来てくださってありがとうございました」
シルヴェスターは指で鼻をさすりながら、照れくさそうにした。
「まあ……奥さんのためっていうよりも……ハンス先生のためだな。もしだけどよ……ゲラルトと離縁するっていうなら、そのあとは先生と結婚してくれねえかな?」
「え……ハンスと……?」
「先生は小さい頃からずっと、奥さんのことが好きだったみたいなんだ。稽古が終わって話しているとき、いつも奥さんを心配してた」
(ハンスが……私のことをそんなに思ってくれていたの……?)
「それは……本当ですか?」
「嘘なんかつくもんかい! 俺は先生に相談されたとき、嬉しかった。だから俺もみんなへの声掛けをがんばったんだ。今日こんなに集まってくれてよかったよ」
朝のクローゼットの中の出来事を思い出して、ドキドキした。ハンスが……私を好きでいてくれたなんて……。ハンスの手の感触、汗の匂い、吐息が記憶によみがえり、また顔が熱くなってしまった。
裏庭の倉庫についた。
みんなが集まったことを確認し、ハンスは倉庫の扉を開けた。
そこに……
ゲラルトとカタリーナの姿はなかった。
シルヴェスターも私に話しかけてきた。
「奥さん、ゲラルトとは別れたほうがいい。仕事でも使えないし、クビにしようかと思ってたんだ」
私は驚いた。ゲラルトはいつも自分がいかに頼りにされているか語っていたから。
「え……。いつもシルヴェスターさんの役に立っていると……鼻を高くしているのですよ」
シルヴェスターは(嘘だろ?)みたいな表情をした。
「いやいや。仕事関係者に聞いてみるといい。みんなゲラルトはクソだって言うはずだぜ。家庭の中では吠えているのかもしれんが、オリヴィアさんっていう奥さんがいるから、俺もクビにできないでいるだけなんだ」
「そうだったのですね……」
「それにあいつは……借金があるんだが……知っているのか?」
「ええ!?」
知らなかった。ゲラルトは節約に関してうるさいから、てっきりお金の管理はできていると思っていた。
シルヴェスターは同情するような眼差しを私に向けた。
「俺も金を貸してるし、あいつは質屋も使っているらしいぞ。首が回ってなさそうで、実は心配してたんだ。それなのに、以前に俺の部下があいつを指輪屋で見たって言った」
カタリーナにプレゼントしていた指輪のことだ! まさか借金までして買ってあげていたなんて……そこまでしてカタリーナを……?
「たぶん……カタリーナに買ってあげたのだと思います」
「だろうな。まったく……こんなに心配してくれる奥さんがいながら……あの馬鹿ゲラルトは……」
隣で歩きながら、シルヴェスターは拳をボキボキ鳴らした。
「今日は……私のために来てくださってありがとうございました」
シルヴェスターは指で鼻をさすりながら、照れくさそうにした。
「まあ……奥さんのためっていうよりも……ハンス先生のためだな。もしだけどよ……ゲラルトと離縁するっていうなら、そのあとは先生と結婚してくれねえかな?」
「え……ハンスと……?」
「先生は小さい頃からずっと、奥さんのことが好きだったみたいなんだ。稽古が終わって話しているとき、いつも奥さんを心配してた」
(ハンスが……私のことをそんなに思ってくれていたの……?)
「それは……本当ですか?」
「嘘なんかつくもんかい! 俺は先生に相談されたとき、嬉しかった。だから俺もみんなへの声掛けをがんばったんだ。今日こんなに集まってくれてよかったよ」
朝のクローゼットの中の出来事を思い出して、ドキドキした。ハンスが……私を好きでいてくれたなんて……。ハンスの手の感触、汗の匂い、吐息が記憶によみがえり、また顔が熱くなってしまった。
裏庭の倉庫についた。
みんなが集まったことを確認し、ハンスは倉庫の扉を開けた。
そこに……
ゲラルトとカタリーナの姿はなかった。
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