束縛の激しい夫にずっと騙されていました。許せないので浮気現場に乗り込みます。

5

計画実行日の朝、私はいつもどおり庭の掃除をした。庭には趣味の花をたくさん植えている。花の管理は私に許された貴重な自由で、毎朝の楽しみだった。

「オリヴィア、僕だよ、来たよ」

庭の塀からひょこんと顔を出すハンスが目に入る。
ちゃんと予定の時間に来てくれたようね。

「おはようハンス。右手にある勝手口を開けるから、入ってきてくれる？」

ハンスは心配そうな顔をしてきょろきょろした。勝手口のほうへ回ってきたので、私は勝手口を開けた。

「誰にも見られていないかな？　ゲラルトはいない？」

ハンスは明らかに挙動不審だった。

「大丈夫よ。ゲラルトは朝の支度をしてるから」

ハンスは軽くうなずいて落ち着くと、私にひそひそ話をするように言った。
「僕が協力したら、本当にうちはお金を払わなくていいんだよね？」

私は浮気の証拠さえ掴めば、ゲラルトにもカタリーナにも慰謝料を請求できる立場にある。ただカタリーナに請求した場合、結局はカタリーナの両親が払うことになり、ひいてはハンスへのダメージとなる。だからカタリーナには慰謝料を請求しない代わりに、ハンスの協力を得たのだ。

「あなたとあなたの両親に恨みはないもの。請求しないから安心して。今日は必ず成功させるわよ」

ゲラルトと破局することへの不安はない。私は今までどうかしていたのよ。ゲラルトに本物の愛情なんてなかった。だって私を真に愛してくれているなら、カタリーナと浮気しないはず。当たり前な理論かもしれないけど、妻を閉じ込めておきながら他の女と浮気する男の精神に愛があるわけがない。

ハンスは安心した表情をして大げさにうなずいた。
「妹は今日早起きしたよ。まさかゲラルトと会う日は早起きしてたなんて、思ってもみなかったよ」

「今日までいろいろありがとう。助かったわ」

ハンスには今日に至るまで、ゲラルトの浮気の裏取り調査をしてもらっていた。調査の結果を記した紙は塀から手の届く庭の木の枝に挟んでもらい、私は朝にそれを抜き取っていたのだった。逆にこちらからも同じ方法でハンスに伝言した。

「いやいや。家族として申し訳ない限りだよ。じゃあ僕はこのあと家の中に隠れて待機するんだよね」

「そうよ。ゲラルトが家を出たら、リビングの机の引き出しを開けてね。たぶん、そこにしまってあると思うから」

ハンスは不安そうな顔をした。
「ちゃんと鍵があればいいけど……」

もし鍵がなければ私は部屋から出られないので、今回の計画は頓挫とんざしてしまう。でも、私には自信があった。

「大丈夫よ」

もし鍵をしまわないなら、部屋の鍵を閉めた後にそのまま玄関に行くはず。でも、朝に足音を聞く限り、ゲラルトはいったんリビングに戻っている。

「……がんばってみる。オリヴィアも幸運を祈っててね」

「当たり前よ。あなたにかかっているんだから！　しっかりしてよ！」

相変わらずおどおどしたハンスを裏手から家の中へ招いた。まず私が静かに家の中を歩き、夫の現在地を探った。やはりまだ自室にいるようなので、私は引き返してハンスをリビングへ連れて行った。

「ここがリビングか。素敵だね。さすがオリヴィアだ」

ハンスは今まで私の家に来たことがなかった。リビングを褒めてくれたのは嬉しかった。ゲラルトは家の中の整理整頓や飾り付けには無頓着で、せっかく部屋を綺麗にしても張り合いがなかった。



「オリヴィア、リビングにいるのか？」



ゲラルトの声が聞こえた。