夫は愛人のもとへ行きました。「幸せ」の嘘に気づいた私は王子様と結ばれます。

Hibah

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見覚えのある男の人だと思った。

どこで会ったんだろう……。

私は訪問客に答えた。


「私がフローラです。ご用件は何でしょうか?」


その人は喜んだ。


「やっぱりフローラだよね! 懐かしい! 僕のこと覚えてないかな? 貴族学院で同級生だったレオポルドだよ」


記憶の奥底から貴族学院時代の光景がふわっとよみがえり、目の前にいる訪問客と重なり合った。


「レオポルド!? やっぱり見たことある人だなと思った! 元気だった?」


「うん、元気だったよ。フローラも変わりなさそうだね」


「そんなことないわ。変わりまくりよ。世界滅亡宣言があってから夫は出ていくし、使用人なんてもっと早くいなくなった。この家で今は一人で暮らしてるのよ」


「そっか……旦那さん、出て行ったんだね……」


私は机の引き出しから離縁状を出してきて、レオポルドに見せた。


「ほら、わざわざ離縁状もこうして書いてもらったのよ。あいつが愛人のところへ行くって言うから」


「そうだったんだね。フローラも世界滅亡宣言で大変な目に合ったんだね」


「みんな慌てふためいていてバカみたい……。私は最初から信じていないんだけど、街も畑もどんどん荒れていて、本当に世界は滅亡しちゃうんだなって感じになってくる」


「わかるよ。自暴自棄になっている人やヤケになっている人が大勢いる。でも僕はこういう緊急事態だからこそ、人間としての尊厳を失わないで生きていたいんだ」


レオポルドは貴族学院の同級生だったとき、地味であまりしゃべらない生徒だった気がする。いつも本を読んでいるか勉強していて、人と話すよりかは自分で考えごとをしているようなタイプ。だけどこうして話していると、しっかりとした芯を持っていて素敵な人だなと思った。

私はレオポルドとの会話を続けた。


「まあ人それぞれなんじゃないの? みんな本当は我慢していただけで、鬱憤が溜まってたのよ。好き放題したくても、生活が壊れるのは怖いし。世界が滅亡すると聞いて安心したんじゃないかしら」


レオポルドは私に理解を示すように、静かに相槌を打った。


「確かにフローラの言ってることも正しいかもしれないが、僕は嫌だね。世界が崩壊するからといって欲望をむき出しにして生きるなんてできない」


こんな状況でも頑固を貫くレオポルドが面白かった。見栄もこだわりも必要なくなった世界で、レオポルドはそれでも信念を持っているように見えた。


「レオポルド……学院にいたときにはわからなかったけど、あなたって面白い人なのね。せっかく家まで来たんだし、お茶していかない?」

レオポルドは照れくさそうに笑った。嬉しそうだった。


「うん、フローラ。お茶しよう。話したかったんだ」
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