夫は愛人のもとへ行きました。「幸せ」の嘘に気づいた私は王子様と結ばれます。

Hibah

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私(フローラ)は夫ドミニクと仲の良い夫婦生活を送っている。政略結婚ではあったけど、かたちだけじゃない愛があった。私もドミニクも貴族の小家の出身で、ささやかな領地を運営していた。

ドミニクは私と違い社交的な性格をしている。お茶会や舞踏会に出かけ、おしゃべりをするのが好き。いつも私をリードして助けてくれる、頼もしい人だ。

そんなドミニクの一番の趣味は剣集め。街で珍しい剣を買ってきてはすぐに飽きてしまうんだけど、とにかく熱心に出かけては新しい剣を片手に帰ってくる。私はドミニクの好奇心旺盛なところも好きなのである。


そんな夫を支え、家を守っていくのが役目だと思っていた。夫婦関係は、愛し愛されるのが理想だった。



でも、私たち夫婦はあることをきっかけに大きく変わってしまう。



そのきっかけは何かというと、教主様が「世界の滅亡」を宣言したのだ。教主様が預言を受けたということで、この国は騒然となっている。なぜなら、七日後には世界が滅亡し、人類もまた滅んでしまうらしいから。世界滅亡宣言はあっという間に国中に広まった。

子どもでも冗談だとわかるような話だ。でも、国中の人たちがパニックになり、あたふたしている。世界が急に滅亡することなんてありえないと考えていた私は、不安になっている友人に「きっと大丈夫よ、落ち着いて」と言いに回った。けど、無駄だった。みんなは七日後の「世界の滅亡」に向けて動き出している。借金まみれだった人は借金を返さなくてよくなったから歓喜していたし、子どもが生まれたばかりの人は世界が終わることを嘆いて泣いていた。

私は剣のコレクションを整理するドミニクに話しかけた。


「みんなどうしてわかってくれないのかしら。世界が滅亡するはずないのに」


ドミニクはちらと私のほうを見ただけで、すぐに手元の剣に視線を戻した。


「フローラ。本当にそう思ってるのか? 七日後に世界が滅亡したら後悔するぜ? 俺は友達からたくさん貴重な剣をもらった。頼み込んだらオッケーしてくれた。世界が滅亡するのに剣を持っていてもしかたないって思ってるんだろうな」


「あなたは世の中がこんなに騒いでいても剣を集めるのね。その剣なんて、曲がっているじゃない?」


「これは曲がってるんじゃなくて、あえて曲げたデザインなんだよ。剣はそれ自体が美だからね。オシャレなほうがいいのさ。ほら……こうして腰につけていると目立つだろ?」


ドミニクは曲がった剣を身につけて誇らしげに立った。世界の滅亡に向けて動いているわりには、悲壮感がなかった。ドミニクが冷静なことが嬉しかった。


「そうね。よく似合ってるわ。ところで……あなたも友人たちを説得してくれないかしら? 私だけじゃ力不足で……。一生懸命説明しても、みんな世界が滅亡すると思っているの。ドミニクと私で訪問すれば、心変わりする人もいるかもしれないわ」


ドミニクはあからさまに面倒くさそうな顔をした。


「わざわざお願いに行くなんてだるいよ。俺だって世界が滅亡するって信じてるよ。だからこうして好きな剣を手に入れてるわけだし、最高だよ」


(この人は「世界の滅亡」に乗じてコレクション集めに専念するってことね……。まあ他人から無理やり奪うわけじゃないんだし、それもありなのかしら)


「わかったわよ……。じゃあ私たち夫婦は今までと変わらず過ごして七日目を迎えましょうね。せっかくの機会だし、美味しいごはんを食べて贅沢するのもいいわね!」


私はドミニクが剣に夢中になっている姿に安心した。世界の滅亡を前にして理性を失い、好き放題している連中もいると聞いたから。


ところが、少し間をおいてドミニクは私に言った。


「悪いんだけど、俺には好きな人がいるんだ。俺は七日目をその人と迎えたい。世界が滅亡するってのに、嘘ついてもしかたないだろ? だから明日出ていくよ」


え……?
いや、待ってよ!

それって、ドミニクには愛人がいたってこと? 嘘でしょ? 気づかなかった。社交場によく行っていたのは愛人がいるから?


「ちょっと! どういうことよ! 愛人がいるなんて聞いてない!」


「そりゃ知らなくて当然さ。お前がこうして怒るじゃないか。でももう隠しておく必要ないだろ?」


私は一気に激しい怒りを感じた。許せなかった。剣を集めて純粋そうなふりをしながら、実のところ他に女をつくっていたなんて。私たち夫婦は貴族社会の中でもまれにみる相思相愛だと思っていたのに、こんなにあっさり踏みにじられるとは。

でも、言い争っても無駄な気がした。私は疲れていた。


「わかりました。じゃあ正式に離縁状を書いてください。領地と家もください。そうすれば私も快く七日後が迎えられます」


ドミニクはまた面倒くさそうな顔をした。


「どうせ世界は滅亡するんだから離縁もなにもないと思うけど……。まあいいよ、それでお前が納得するっていうんなら」


ドミニクは紙を出して、離縁状を書き始めた。
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