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モニカの絶叫を聞いたクリフォード様は、私たちの横をいずるようにして外へ出た。

私も小屋を出ると、そこには何本もの矢が刺さったモニカが倒れていた。少し先には、弓を引き下げた国王軍の兵が見えた。

わずかに、モニカの指先が動いている。クリフォード様はモニカに駆け寄り、身体を起こし抱きかかえた。

「モニカ……ごめんよ……ごめんよ。僕がしっかりしていなかったせいで、ごめんよ」

「……クリフォード……もっと一緒にいたかったなぁ」

「……僕もだよモニカ……黒髪の女なんかじゃなくて、君がよかった。君がいたから、僕は小屋に来るのがいつも楽しみだったんだ。君だったから、僕は国王になりたかったんだ」

「なれるわよ…………。あたしもお菓子……いっぱい食べれる……かな」

「うん……うん……食べれるよ。お菓子いっぱい食べれるから、だから……目を開けてモニカ……」

モニカの手がぐったり垂れ下がった。クリフォード様は泣き叫んだ。「モニカ!」と叫び続けて離れなかった。

クリフォード様の様子を見届けた国王陛下は、
「クリフォード。お前を廃太子とする。平民の身分に落とし、金輪際こんりんざい、入城を禁ずる。必要なものは届けさせる。しばらくこの小屋で待っていろ」と言った。

国王陛下は全く同情の色を見せなかった。自分が命じたことの重み、クリフォード様の気持ち、すべてを背負っているかのような威厳があった。

クリフォード様以外のみんなが小屋から去ろうとしたとき、クリフォード様は「あああああああ!!!!!」という怒号を発し、モニカの背中に刺さった矢を抜いた。そしてその矢を自分の首に刺してしまった。

私はあまりの衝撃で気を失いそうになった。地面に膝をついてモニカを悼んでいたクリフォード様の身体がモニカの遺体に重なるようにして倒れた。あまりにも悲惨な最期だった。

国王陛下とバイロンも、さすがにクリフォード様の最期の行為には動揺を隠せていなかった。しかし、国王陛下はすぐにバイロンに対し「遺体を丁重に城まで運ぶようにしろ。クリフォードは西の戦地で名誉の戦死を遂げたことにする」と言った。


私は、とんでもないところに来てしまった。


国王になる人間というのは、冷静さを失わないのか……? 目の前で、息子が自ら死を選んだとしても……。

ライナス様は私を見て、つらそうにした。そのつらそうな顔を見て、私はどこかほっとした。ライナス様とはこの愛の悲しさと虚しさを共有できている気がした。私たちは、クリフォード様とモニカの逢瀬を見てきた。結末も見た。言い尽くせないこの寂寞感せきばくかんが、私たちの確かな繋がりとなった。



森では小鳥たちが無邪気に鳴いている。
国王陛下はバイロンとこの場を去ろうとしたけど、途中で立ち止まった。そして、私たちのもとへ引き返してきた。
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