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国王陛下もバイロンの言葉に気づいた。
「何がおかしいのだバイロン?」
「いえ……その……私はかつてクリフォード様に、命の恩人を探してくれと依頼されたのです」
「お前が見つけてきたのがこの女なのだろう?」
「いえ、てっきりそうだと思っていたのですが、クリフォード様の命の恩人は黒髪の女でした」
「なんだと!? じゃあこの女は誰なんだ?」
クリフォード様が固まった。顔から血の気が引いていき、身動き一つとれていない。
クリフォード様は声を絞り出すようにして言った。
「ちょっと待てバイロン……。僕は約束の日、お前が探しだした女がこの小屋にいると聞いて来たんだ。小屋にいたのはモニカだったぞ」
バイロンはクリフォード様に答えた。
「なぜこの女がいたのでしょう……? 私はクリフォード様の命の恩人たる黒髪の女を見つけました。この小屋はかつて私が狩りで使っていた拠点ですが、ちょうどよい待ち合わせ場所だと考え指定しました」
国王陛下、クリフォード様、ライナス様、私は一斉にモニカを見た。やはりこの女はクリフォード様の恩人でも何でもなく、得体の知れない女だった。
モニカは急に「ヒヒ……ヒヒヒ」と静かに笑い始めた。顔は下に向けたままだったので、どんな顔をしているのかわからなかった。
モニカの不気味な声が小屋に反響した。
モニカが顔を上げた。ニンマリと大きく口を開け、まるで悪魔のような微笑みを見せる。
「あんたたちが言う黒髪の女はね……あたしの親友だったのよ。あの子はね……クリフォードと待ち合わせしてるっていう話を嬉しそうにしていたわ。だからね……殺してやったのよ」
背筋に寒気がした。
なぜわざわざ自分で罪を告白するの?
モニカは命の恩人になりすまして、クリフォード様に近づいたんだ。そして何年も……クリフォード様を騙し続けた。
クリフォード様はモニカを見て、震えていた。
「モニカ……嘘だと言ってくれ。君が僕を助けてくれたんだろ? そうなんだろ? 僕を救ってくれた君が、僕の子を産み、僕と国を治めていくんだろ? そうなんだろ?」
モニカは涙を目に浮かべて笑顔でうなずいた。
「そうよ、あたしこそ妻にふさわしいのよ。あんたといるために親友でさえ殺したんだから。そんな罪悪感に耐えてまであんたといたいと思った女が、他にいる? 長い間こうして小屋にも来てあげたでしょ? 愛情だけは……本物なんだから。あんたを支えてきたあたしを褒めてよ。あたしはあんたのために人が殺せるほど、あんたを愛してるのよ……ねえ……なんで泣いてるの」
歪んだ愛だった。親友を殺しておいてクリフォード様に理解を求めるのは無理がある……けど……モニカの言葉には強い意思があった。それだけは確かだった。
クリフォード様は鼻をすすり、泣いているようだった。クリフォード様の後ろ姿がこんなにさびしそうに見えたことはない。
「うぅ……うぅ……ダメだよモニカ……さすがに人を殺しては……僕たちは一緒になれないよ……」
モニカはぐわっと両眉をつり上げた。その瞬間、モニカの目からぼろぼろと涙が落ちた。
「なんでよ! あたしはたとえ一人になっても、あんたの子を産むからね! なにがなんでもね!」
そう言いながらモニカはベッドから崩れ落ちるように降りた。そして私たちを押しのけて小屋を出た。そのとき、国王陛下はバイロンに「やれ」と命令した。その声はわずかに掠れていた。
バイロンも小屋を出る。
「放て!」バイロンの声。
「ぎゃあああああ!!!!!」
モニカの絶叫だった。
「何がおかしいのだバイロン?」
「いえ……その……私はかつてクリフォード様に、命の恩人を探してくれと依頼されたのです」
「お前が見つけてきたのがこの女なのだろう?」
「いえ、てっきりそうだと思っていたのですが、クリフォード様の命の恩人は黒髪の女でした」
「なんだと!? じゃあこの女は誰なんだ?」
クリフォード様が固まった。顔から血の気が引いていき、身動き一つとれていない。
クリフォード様は声を絞り出すようにして言った。
「ちょっと待てバイロン……。僕は約束の日、お前が探しだした女がこの小屋にいると聞いて来たんだ。小屋にいたのはモニカだったぞ」
バイロンはクリフォード様に答えた。
「なぜこの女がいたのでしょう……? 私はクリフォード様の命の恩人たる黒髪の女を見つけました。この小屋はかつて私が狩りで使っていた拠点ですが、ちょうどよい待ち合わせ場所だと考え指定しました」
国王陛下、クリフォード様、ライナス様、私は一斉にモニカを見た。やはりこの女はクリフォード様の恩人でも何でもなく、得体の知れない女だった。
モニカは急に「ヒヒ……ヒヒヒ」と静かに笑い始めた。顔は下に向けたままだったので、どんな顔をしているのかわからなかった。
モニカの不気味な声が小屋に反響した。
モニカが顔を上げた。ニンマリと大きく口を開け、まるで悪魔のような微笑みを見せる。
「あんたたちが言う黒髪の女はね……あたしの親友だったのよ。あの子はね……クリフォードと待ち合わせしてるっていう話を嬉しそうにしていたわ。だからね……殺してやったのよ」
背筋に寒気がした。
なぜわざわざ自分で罪を告白するの?
モニカは命の恩人になりすまして、クリフォード様に近づいたんだ。そして何年も……クリフォード様を騙し続けた。
クリフォード様はモニカを見て、震えていた。
「モニカ……嘘だと言ってくれ。君が僕を助けてくれたんだろ? そうなんだろ? 僕を救ってくれた君が、僕の子を産み、僕と国を治めていくんだろ? そうなんだろ?」
モニカは涙を目に浮かべて笑顔でうなずいた。
「そうよ、あたしこそ妻にふさわしいのよ。あんたといるために親友でさえ殺したんだから。そんな罪悪感に耐えてまであんたといたいと思った女が、他にいる? 長い間こうして小屋にも来てあげたでしょ? 愛情だけは……本物なんだから。あんたを支えてきたあたしを褒めてよ。あたしはあんたのために人が殺せるほど、あんたを愛してるのよ……ねえ……なんで泣いてるの」
歪んだ愛だった。親友を殺しておいてクリフォード様に理解を求めるのは無理がある……けど……モニカの言葉には強い意思があった。それだけは確かだった。
クリフォード様は鼻をすすり、泣いているようだった。クリフォード様の後ろ姿がこんなにさびしそうに見えたことはない。
「うぅ……うぅ……ダメだよモニカ……さすがに人を殺しては……僕たちは一緒になれないよ……」
モニカはぐわっと両眉をつり上げた。その瞬間、モニカの目からぼろぼろと涙が落ちた。
「なんでよ! あたしはたとえ一人になっても、あんたの子を産むからね! なにがなんでもね!」
そう言いながらモニカはベッドから崩れ落ちるように降りた。そして私たちを押しのけて小屋を出た。そのとき、国王陛下はバイロンに「やれ」と命令した。その声はわずかに掠れていた。
バイロンも小屋を出る。
「放て!」バイロンの声。
「ぎゃあああああ!!!!!」
モニカの絶叫だった。
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