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「狩り」の当日となった。
私はライナス様と話をするタイミングを見計らっていた。クリフォード様は先へ先へ行く癖があるので、今日も会話をするにはちょうどよかった。
ライナス様に聞きたいことがある。
「ライナス様。バイロンはクリフォード様のことについて知らないふりをしましたが、どうしてなのでしょう? しかも、最終的に陛下はバイロンを責めませんでした」
「……それはね……国王だからといって、好き放題できるわけではないからだよ。バイロンは城の政治の舵取りをしている。バイロンを処罰して、仮に宰相をやめさせたとしよう。そのあとの政治の運営はどうする? 国王というのは見た目よりもずっと弱い立場でね。いつも自分が国王を降ろされるんじゃないかとビクビクしているものなんだ」
そうか……だからあのとき国王陛下はバイロンの知らないふりを”飲み込んだ”のか。バイロンが知っていることはわかっていても、別段バイロンの直接的な罪でもない。バイロンを責めるより、次の一手にバイロンを使うほうが得策だと判断したのか。
「私にも理解できました……ありがとうございます、ライナス様」
「込み入った政治事情をこうして理解してくれるからこそ、エリザベスは王太子妃にふさわしいんだよ。俺も……がんばるね」
「はい。お支えします」
森の小屋に着き、いつもどおりクリフォード様とモニカの”愛の時間”が始まった。小屋から少し離れていても、モニカの甲高いあえぎ声が聞こえてくる。ちょうどそのとき、国王陛下とバイロンが合流した。
国王陛下は真剣な顔をして言った。
「激しく……ヤッとるようじゃのお」
バイロンは真剣な顔をして答えた。
「さようでございますね」
国王陛下はズカズカと小屋へ近づき、扉を開けた。私も国王陛下の後ろを付いていき、扉の向こうを覗いた。
クリフォード様とモニカは、裸で抱き合っていた。クリフォード様は扉側に背を向けていた。はじめに私たちの存在に気づいたのはモニカだった。
「きゃ、きゃあああああ!!!!!!!!」
クリフォード様もビクッとしてこちらを振り返る。
「……! 父上ぇぇぇ!?」
国王陛下は小屋の入り口に頭が当たらないよう、巨体をかがめて中へ入った。
「クリフォード! お前はここで何をしている!? その女は誰だ?」
クリフォード様とモニカは急いで脱いだものをかき集め、身体を覆った。裸のクリフォード様が焦る姿は、はっきり言って無様だった。今までこの小屋で好き放題し、「絶対に入るなよ」と私を脅していたクリフォード様が、ベッドの上でおどおどしている。勝手に平民を愛するだけならともかく、私たちを陥れようとした罰が下ったのだ。
クリフォード様はあたふたしながら頭を下げて、国王陛下に言った。
「この女は……戯れでございます。なんでもない行きずりの女です」
「ほう? そうなのか? どうなんだ、ライナス、エリザベス」
国王陛下は私たちを振り返りこうきいた。私たちはもちろん「クリフォード様が狩りのたびに会っていた女は、その女です」と答えた。
クリフォード様は顔を苦しそうにゆがめ「貴様ら……」とぼやいた。
国王陛下はクリフォード様に問うた。
「クリフォードよ。そこにいる女は、お前の子を身ごもったのではないのか?」
クリフォード様はうなだれた。
「はい……そのとおりです」
「王族は平民との結婚も子作りも許されておらん。わかっておるな?」
クリフォード様はありったけの力を振り絞るようにして国王陛下に向き直った。
「わかりません! なぜ身分が違えば愛し合ってはいけないのでしょう? ここにいるモニカは、かつてわたくしが川で溺れているところを助けてくれた者です。命の恩人なのです。わたくしはモニカと再会し、こうして会うたびに、より愛しく思うようになりました。人を好きになることが罪だというのなら、世界にいるすべての人が罪人です」
クリフォード様がそこまで言ったところで、バイロンが小屋の中に遅れて入ってきた。そしてモニカを見ると、首を傾げた。
バイロンは息のようにかすかな声を出した。
「あれ……? おかしいぞ……?」
私はライナス様と話をするタイミングを見計らっていた。クリフォード様は先へ先へ行く癖があるので、今日も会話をするにはちょうどよかった。
ライナス様に聞きたいことがある。
「ライナス様。バイロンはクリフォード様のことについて知らないふりをしましたが、どうしてなのでしょう? しかも、最終的に陛下はバイロンを責めませんでした」
「……それはね……国王だからといって、好き放題できるわけではないからだよ。バイロンは城の政治の舵取りをしている。バイロンを処罰して、仮に宰相をやめさせたとしよう。そのあとの政治の運営はどうする? 国王というのは見た目よりもずっと弱い立場でね。いつも自分が国王を降ろされるんじゃないかとビクビクしているものなんだ」
そうか……だからあのとき国王陛下はバイロンの知らないふりを”飲み込んだ”のか。バイロンが知っていることはわかっていても、別段バイロンの直接的な罪でもない。バイロンを責めるより、次の一手にバイロンを使うほうが得策だと判断したのか。
「私にも理解できました……ありがとうございます、ライナス様」
「込み入った政治事情をこうして理解してくれるからこそ、エリザベスは王太子妃にふさわしいんだよ。俺も……がんばるね」
「はい。お支えします」
森の小屋に着き、いつもどおりクリフォード様とモニカの”愛の時間”が始まった。小屋から少し離れていても、モニカの甲高いあえぎ声が聞こえてくる。ちょうどそのとき、国王陛下とバイロンが合流した。
国王陛下は真剣な顔をして言った。
「激しく……ヤッとるようじゃのお」
バイロンは真剣な顔をして答えた。
「さようでございますね」
国王陛下はズカズカと小屋へ近づき、扉を開けた。私も国王陛下の後ろを付いていき、扉の向こうを覗いた。
クリフォード様とモニカは、裸で抱き合っていた。クリフォード様は扉側に背を向けていた。はじめに私たちの存在に気づいたのはモニカだった。
「きゃ、きゃあああああ!!!!!!!!」
クリフォード様もビクッとしてこちらを振り返る。
「……! 父上ぇぇぇ!?」
国王陛下は小屋の入り口に頭が当たらないよう、巨体をかがめて中へ入った。
「クリフォード! お前はここで何をしている!? その女は誰だ?」
クリフォード様とモニカは急いで脱いだものをかき集め、身体を覆った。裸のクリフォード様が焦る姿は、はっきり言って無様だった。今までこの小屋で好き放題し、「絶対に入るなよ」と私を脅していたクリフォード様が、ベッドの上でおどおどしている。勝手に平民を愛するだけならともかく、私たちを陥れようとした罰が下ったのだ。
クリフォード様はあたふたしながら頭を下げて、国王陛下に言った。
「この女は……戯れでございます。なんでもない行きずりの女です」
「ほう? そうなのか? どうなんだ、ライナス、エリザベス」
国王陛下は私たちを振り返りこうきいた。私たちはもちろん「クリフォード様が狩りのたびに会っていた女は、その女です」と答えた。
クリフォード様は顔を苦しそうにゆがめ「貴様ら……」とぼやいた。
国王陛下はクリフォード様に問うた。
「クリフォードよ。そこにいる女は、お前の子を身ごもったのではないのか?」
クリフォード様はうなだれた。
「はい……そのとおりです」
「王族は平民との結婚も子作りも許されておらん。わかっておるな?」
クリフォード様はありったけの力を振り絞るようにして国王陛下に向き直った。
「わかりません! なぜ身分が違えば愛し合ってはいけないのでしょう? ここにいるモニカは、かつてわたくしが川で溺れているところを助けてくれた者です。命の恩人なのです。わたくしはモニカと再会し、こうして会うたびに、より愛しく思うようになりました。人を好きになることが罪だというのなら、世界にいるすべての人が罪人です」
クリフォード様がそこまで言ったところで、バイロンが小屋の中に遅れて入ってきた。そしてモニカを見ると、首を傾げた。
バイロンは息のようにかすかな声を出した。
「あれ……? おかしいぞ……?」
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