1 / 17
1
しおりを挟む
私エリザベスは王妃教育を経て、王太子妃になった。この国の王妃教育は、数ある名家の令嬢たちから一人を王太子妃として選ぶ仕組みである。幼少期より選抜されて激しい競争をし、脱落した者から実家に帰される。
晴れて王太子妃となった今日、私は王太子のクリフォード様と初めて会う。クリフォード様は国の第一王子。次の国王に最も近い方だ。ただ、この国は競争を好むため、王太子といえども油断ならない。国王の一存で簡単に次の国王候補が変わる。王族にも常にピリピリした雰囲気が漂い、城は緊張感に満ちていた。
応接室で待機していた私に、城の使用人が言った。
「エリザベス様、大変お待たせしました。クリフォード様の準備が整いました。これからクリフォード様のお部屋で対面していただきます。ご案内します」
「ありがとう。よろしくお願いします」
待ちに待った日がようやく来たかと思うと、感慨深いものがあった。クリフォード様がどんな方であれ、乗り越えていける自信はある。なぜなら今日に至るまでの王妃教育があまりにもきつかったからだ。礼儀作法や歩き方、振る舞いや言葉づかいまで、ありとあらゆることに神経をすり減らした。王太子妃になる嬉しさよりも、王妃教育を逃れることができた嬉しさのほうが上回っているかもしれない。
私を案内する使用人がクリフォード様の部屋の扉をノックし、クリフォード様を呼ぶ。
「入れ」
クリフォード様の返事が聞こえた。
クリフォード様の部屋に入れる人はそうそういない。王太子妃になったからこそ入れるとも言える。普通の貴族であれば城の応接室すらめったに呼ばれないのに、王太子の部屋に入れるという優越感は相当なものだった。何がなんでも王太子妃として務め、苦労して手に入れたこの立場を奪われないようにしなければならない。
私はクリフォード様にご挨拶した。
「お初お目にかかります。このたび王太子妃になりましたエリザベスです。末永くよろしくお願いします」
クリフォード様は椅子に腰を掛け、足を組みながらゆったり座っていた。
「やあエリザベス、話には聞いてるよ。王妃教育を勝ち抜いてご苦労さま。もう君は立派な王太子妃だ、よかったね」
「はい。ねぎらいのお言葉感謝します」
クリフォード様はニコッと笑うと、自分の座る椅子の正面にもう一個椅子を置き、立っていた私を手招きした。手で椅子を指し示し「どうぞ」と言った。
「ありがとうございます。失礼します」
今まで座ったことのないような上質な椅子だった。クリフォード様の部屋にある家具一つひとつが華美で、目移りをしないようにするのがやっとである。
クリフォード様は正面に座った私の顔を覗き込むようにして言った。
「エリザベス。君には言っておくことがある。僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」
晴れて王太子妃となった今日、私は王太子のクリフォード様と初めて会う。クリフォード様は国の第一王子。次の国王に最も近い方だ。ただ、この国は競争を好むため、王太子といえども油断ならない。国王の一存で簡単に次の国王候補が変わる。王族にも常にピリピリした雰囲気が漂い、城は緊張感に満ちていた。
応接室で待機していた私に、城の使用人が言った。
「エリザベス様、大変お待たせしました。クリフォード様の準備が整いました。これからクリフォード様のお部屋で対面していただきます。ご案内します」
「ありがとう。よろしくお願いします」
待ちに待った日がようやく来たかと思うと、感慨深いものがあった。クリフォード様がどんな方であれ、乗り越えていける自信はある。なぜなら今日に至るまでの王妃教育があまりにもきつかったからだ。礼儀作法や歩き方、振る舞いや言葉づかいまで、ありとあらゆることに神経をすり減らした。王太子妃になる嬉しさよりも、王妃教育を逃れることができた嬉しさのほうが上回っているかもしれない。
私を案内する使用人がクリフォード様の部屋の扉をノックし、クリフォード様を呼ぶ。
「入れ」
クリフォード様の返事が聞こえた。
クリフォード様の部屋に入れる人はそうそういない。王太子妃になったからこそ入れるとも言える。普通の貴族であれば城の応接室すらめったに呼ばれないのに、王太子の部屋に入れるという優越感は相当なものだった。何がなんでも王太子妃として務め、苦労して手に入れたこの立場を奪われないようにしなければならない。
私はクリフォード様にご挨拶した。
「お初お目にかかります。このたび王太子妃になりましたエリザベスです。末永くよろしくお願いします」
クリフォード様は椅子に腰を掛け、足を組みながらゆったり座っていた。
「やあエリザベス、話には聞いてるよ。王妃教育を勝ち抜いてご苦労さま。もう君は立派な王太子妃だ、よかったね」
「はい。ねぎらいのお言葉感謝します」
クリフォード様はニコッと笑うと、自分の座る椅子の正面にもう一個椅子を置き、立っていた私を手招きした。手で椅子を指し示し「どうぞ」と言った。
「ありがとうございます。失礼します」
今まで座ったことのないような上質な椅子だった。クリフォード様の部屋にある家具一つひとつが華美で、目移りをしないようにするのがやっとである。
クリフォード様は正面に座った私の顔を覗き込むようにして言った。
「エリザベス。君には言っておくことがある。僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」
13
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説
離婚って、こちらからも出来るって知ってました?
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
元商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。
私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。
悪態をつく姑。
私を妻と扱わない夫。
夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
それでも私は三年我慢した。
この復讐のため、だけに。
私をコマとしか見ない父も、私を愛さない夫も、ただ嫌がらせするだけの姑も全部いりません。
姑の介護?
そんなの愛人さんにやってもらって、下さい?
あなたの魂胆など、初めから知ってましたからーー
足が不自由な令嬢、ドジはいらないと捨てられたのであなたの足を貰います
あんみつ豆腐
恋愛
足が不自由であり車いす生活の令嬢アリシアは、婚約者のロドリックに呼ばれたため、頑張って彼の屋敷へ向かった。
だが、待っていたのは婚約破棄というの事実。
アリシアは悲しみのどん底に落ちていく。
そして決意した。
全ての不自由を彼に移す、と。
あらまあ夫人の優しい復讐
藍田ひびき
恋愛
温厚で心優しい女性と評判のカタリナ・ハイムゼート男爵令嬢。彼女はいつもにこやかに微笑み、口癖は「あらまあ」である。
そんなカタリナは結婚したその夜に、夫マリウスから「君を愛する事は無い。俺にはアメリアという愛する女性がいるんだ」と告げられる。
一方的に結ばされた契約結婚は二年間。いつも通り「あらまあ」と口にしながらも、カタリナには思惑があるようで――?
※ なろうにも投稿しています。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
離婚したらどうなるのか理解していない夫に、笑顔で離婚を告げました。
Mayoi
恋愛
実家の財政事情が悪化したことでマティルダは夫のクレイグに相談を持ち掛けた。
ところがクレイグは過剰に反応し、利用価値がなくなったからと離婚すると言い出した。
なぜ財政事情が悪化していたのか、マティルダの実家を失うことが何を意味するのか、クレイグは何も知らなかった。
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
モラハラ王子の真実を知った時
こことっと
恋愛
私……レーネが事故で両親を亡くしたのは8歳の頃。
父母と仲良しだった国王夫婦は、私を娘として迎えると約束し、そして息子マルクル王太子殿下の妻としてくださいました。
王宮に出入りする多くの方々が愛情を与えて下さいます。
王宮に出入りする多くの幸せを与えて下さいます。
いえ……幸せでした。
王太子マルクル様はこうおっしゃったのです。
「実は、何時までも幼稚で愚かな子供のままの貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話があがっているのです。 理解……できますよね?」
(完結)浮気の証拠を見つけたので、離婚を告げてもいいですか?
アイララ
恋愛
教会の孤児院で働く夫のフラミーの為に、私は今日も夫の為に頑張っていました。
たとえ愛のない政略結婚であろうと、頑張れば夫は振り向いてくれると思ったからです。
それなのに……私は夫の部屋から浮気の証拠を見つけてしまいました。
こんなものを見つけたのなら、もう我慢の限界です。
私は浮気の証拠を突き付けて、もっと幸せな人生を歩もうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる