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エマニュエル伯爵はバーナード伯爵の言葉をこの上ない愛情の現れだと解した。まだ若いバーナード伯爵に対し、なんとか励ませないものかと考えた。


「バーナード卿……。そうだな、クラリスは旅行に出たんだ。それか、ピクニックにでも行ったんだ。あいつは緑や花が大好きだったからな。まだ小さかったとき、わたしもよくせがまれて山へ連れて行ったもんだ。まるで昨日のことのように思い出すよ。『パパ』と呼んでくれる小鳥のような声、柔らかな手の温もり、凛としたまなざし。――きっとまた会える。わたしのほうが君より年上だから、会うのはわたしが先かな……」


「そうか……ピクニック……。もしお義父上が先に会ったら、伝えていただけますか。屋敷で待っていると。何もかもそのままで待っていると。毎日ご飯を用意しておくから、いつ帰ってきてもいいと……」


「わかった。ありがとう……バーナード卿。いや、愛する息子よ……」


バーナード伯爵はまだ三十代の男であり、身分も財産もあるためすぐに再婚できる身の上だった。エマニュエル伯爵もそれを承知していて、いつかは再婚するだろうと考えたのだが、その後の彼の生活はまったく異なるものとなった。



   ***



「エドガー。お前以外の使用人たちに暇を出してくれ。向こう五年分の給与を前払いする。退職金だ」


クラリスが亡くなって一か月後、バーナード伯爵は老僕エドガーにこのように命じた。やっと主人が喋れるようになったかと思えば、唐突な命令だった。


「旦那様……。恐れ入りますが、どのようなお考えのもとで……? 何か気に障ることでもありましたか?」


バーナード伯爵は書斎の窓際で外を眺めながら、胸いっぱいのため息をついた。確かにエドガーも、使用人たちがバーナード伯爵を恐れるようになっていたことは気づいていた。しかし、屋敷の空気が悪くなったとしてもそれは一過性であり、時が解決してくれるものと思っていた。


「みんなクラリスが亡くなったなどと陰で言っている。直接言ってきたやつもいた。死者に朝昼晩の食事を用意するのはおかしいだとか、部屋も整理して片付けたほうがいいとか、見当違いなことばかり話している。クラリスはもうこの屋敷に帰ってきたというのに……」


「……さようでございますか。そうです、奥様は旅行から帰られて、今はお部屋でくつろいでおります。使用人の皆にはきつく申し上げておきますので、暇を出されるのはどうか今しばらくのご検討を……」


「いや、ならん。さっさと追い出してくれ。この屋敷はもともと質素な造りをしている。お前だけで十分だ」


エドガーはバーナード伯爵の目を見つめた。バーナード伯爵はまっすぐ迷いのない瞳をしていた。妻の死によって一時的に動揺していたのかと思っていたが、本格的にどうかしてしまったのかもしれない……。エドガーは返答に困ったが、やはりこのまま自分にも暇を出される事態は避けたい。それこそ、バーナード伯爵がクラリスを追いかけるという最悪の事態になりかねないから――。


「かしこまりました。仰せの通りに致します。ただ一点お願いがあります。わたしの孫のコルテオが最近使用人として仕え始めました。孫もどうか旦那様に仕えさせてはいただけませんでしょうか?」


「…………コルテオか。ふむ……まあコルテオならよかろう。しっかり教育して、お前の助けになるくらいには育てよ」




こうしてバーナード伯爵、エドガー、コルテオの三人暮らしが始まった。高級貴族にとってはありえないほどの質素さだった。

この粛々とした生活ぶりは貴族の間でも話題になったが、バーナード伯爵はクラリスの死以来、社交界にまったく顔を出さなくなった。私的な会のみならず王家の呼び出しにも応じなかったため、もはや政治生命が危ぶまれる事態に陥った。しかし、政務は弟がかろうじて引き継いでいたし、国王は彼に対して同情的だったため、当面のあいだ不問とされたのである。

結果、伯爵邸は客人の受付を禁止する孤独な要塞となり、不気味さを増していった。バーナード伯爵は狂人になったのではないか、という噂も立ち始めた。エドガーは奮闘したものの、少しずつ庭園の手入れも行き届かなくなった。屋敷の裏手など目立たない部分では、雑草が無造作に伸びていた。

バーナード伯爵が外出する場所は、クラリスとよくピクニックをした丘だけだった。彼は妻が生きていると心の底から信じていて、屋敷にクラリスがいないとわかると、丘へ探しに行った。この行動はエドガーとコルテオの助けによってある程度の秘密が保たれた。主人が狂ったという噂が広まり過ぎては、家自体がお取り潰しになりかねないからである。

そんな日々が三か月以上続く中、バーナード伯爵の許可なく客人を招いた人物がいた。エドガーの孫、コルテオである。
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