上 下
3 / 20

3

しおりを挟む
ローレンス様を招く今日、お父様に呼ばれた私は書斎に行った。

「ジュリエッタ。もう身支度は済んでいるな」

「はい、お父様。準備できております」

うちの屋敷で昼食会を催すために、一家総出で準備してきた。今日はまさに本番当日といった感じで、使用人たちも緊張感を漂わせている。

「お嬢様はローレンス様に会う今日を楽しみにしておられたんですよ。毎日わたしとローレンス様について話していたくらいなんです」

隣のリリアンがお父様にこう言った。
なんとなく照れくさかったけど、事実だからしかたない。お父様だって、娘が嫌がっているよりかはいいだろう。

「はっは。そうなのか。ジュリエッタも若い娘なのだな。なにはともあれリリアン、お前の働きも見事だ。ご苦労さま」

「ありがとうございます」

お父様との挨拶が終わり、私はリリアンを連れて自分の部屋に戻った。

「やっとお会いできますねお嬢様。街で偶然見かけて以来、毎日妄想が止まりませんでしたね」

「妄想とは失礼ね! シミュレーションしてただけよ」

リリアンにそう返すと、二人で笑い合った。

ローレンス様の横顔と後ろ姿がずっと忘れられなかった。夜寝るときも、いつもローレンス様を思いながら寝た。街に出かけたときには、ローレンス様を見かけた店の前をわざわざゆっくり歩いてみたり、それとなく店内を見たりしてみた。でも、あの日以来ローレンス様を見かけることはなかった。




「ローレンス様がいらっしゃいました」

使用人から報告を受けた私とリリアンは、お出迎えのために玄関を出た。

(やっと……会えるのね……!)

心臓がドキドキしてきた。

お化粧は大丈夫だろうか、服は変になっていないだろうか。何度も確認したはずなのに、いろんなところが気になってくる。リリアンに「完璧です、お嬢様。あとは会うだけです」と励まされる。リリアン……! あなたがいなきゃ私ひとりでは何もできなかったわ。



ローレンス様とお付きの人たちが目に入った。



あれ……?



私は立ち止まった。リリアンの耳元で、
「あの方……ローレンス様じゃないわよね?」
ときいた。

リリアンも遠目で彼らを凝視し、
「ですね……ローレンス様はもっと長身のはずです。あそこにいらっしゃる殿方は……中肉中背のように見えます」
と答えた。

私が間違っているわけではなさそうだった。
「そうよね。あの方は誰なのかしら?」

「もしかしたら使用人の勘違いかもしれません。ローレンス様ではないお客様なのかも。確認してきますね」

そう言い残してリリアンは”ローレンス様”と名乗る訪問客たちのもとへ行った。



(きっと……人違いよ……横顔の雰囲気も違うし……)


リリアンは挨拶をして少し話した後、うやうやしく頭を下げていた。そしてこちらへ戻ってきた。

「どうしたのリリアン? 誰だったの?」

リリアンは暗いというか、戸惑っているというか、なんとも言えない不可解な表情をしている。




「あの方が……ローレンス様だそうです」




リリアンは伏し目がちで返事をした。

するとそのとき、お父様が私たちの横を通り過ぎざまに「お前たち何をしている!? ローレンス様がいらっしゃっているではないか!」と言いながら、小走りで”ローレンス様”に駆け寄って行った。

やっぱり……あそこにいる人がローレンス様……街で見かけた人とは別人……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。

百谷シカ
恋愛
「私より大きな女を妻と呼べるか! 鏡を見ろ、デブ!!」 私は伯爵令嬢オーロラ・カッセルズ。 大柄で太っているせいで、たった今、公爵に婚約を破棄された。 将軍である父の名誉を挽回し、私も誇りを取り戻さなくては。 1年間ダイエットに取り組み、運動と食事管理で30キロ痩せた。 すると痩せた私は絶世の美女だったらしい。 「お美しいオーロラ嬢、ぜひ私とダンスを!」 ただ体形が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるなんて。 1年間努力して得たのは、軟弱な男たちの鼻息と血走った視線? 「……私は着せ替え人形じゃないわ」 でも、ひとりだけ変わらない人がいた。 毎年、冬になると砂漠の別荘地で顔を合わせた幼馴染の伯爵令息。 「あれっ、オーロラ!? なんか痩せた? ちゃんと肉食ってる?」 ダニエル・グランヴィルは、変わらず友人として接してくれた。 だから好きになってしまった……友人のはずなのに。 ====================== (他「エブリスタ」様に投稿)

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

悪役令嬢の幸せ

深月カナメ
恋愛
いつもは側に来ない貴方がなぜか、側にいた。

(完結)浮気の証拠を見つけたので、離婚を告げてもいいですか?

アイララ
恋愛
教会の孤児院で働く夫のフラミーの為に、私は今日も夫の為に頑張っていました。 たとえ愛のない政略結婚であろうと、頑張れば夫は振り向いてくれると思ったからです。 それなのに……私は夫の部屋から浮気の証拠を見つけてしまいました。 こんなものを見つけたのなら、もう我慢の限界です。 私は浮気の証拠を突き付けて、もっと幸せな人生を歩もうと思います。

[完結]離婚したいって泣くくらいなら、結婚する前に言ってくれ!

日向はび
恋愛
「離婚させてくれぇ」「泣くな!」結婚してすぐにビルドは「離婚して」とフィーナに泣きついてきた。2人が生まれる前の母親同士の約束により結婚したけれど、好きな人ができたから別れたいって、それなら結婚する前に言え! あまりに情けなく自分勝手なビルドの姿に、とうとう堪忍袋の尾が切れた。「慰謝料を要求します」「それは困る!」「困るじゃねー!」

処理中です...