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(あの人……ローレンス様って言った……?)
私とリリアンは顔を見合わせて立ち止まった。
ローレンス様に会うのは来月。
それまで会ってはならないということはないと思うけど……偶然なのだし……。
ただこちらから話しかけるのも変よね。
私は小声でリリアンに話しかけた。
「今からローレンス様が出てくるのかしら……?」
リリアンも驚いていた。
「わたしも”ローレンス様”と言っているのが聞こえました」
「あなたは会ったことあるの?」
「いえ、お目にかかったことはありません。旦那様から、優しくて素晴らしい方だという話は聞いていますが……」
お父様も私にそう言っていた。
ローレンス様がどんな方なのか……気になる……けど、さすがにこんな店前で待ち構えて顔をジロジロ見るのは品がないわよね。
我慢してもう帰ろうかしら。
「ねえリリアン。どうする? あなただって見てみたいでしょ?」
自分が見たいだけなのに、なんとなくリリアンになすりつけてしまった……。
リリアンは困った顔をした。
「それはそうですけど……失礼にあたってもいけませんし……」
そのとき、一つのアイデアが浮かんだ。
「リリアン! あそこから見ましょう!」
私は店と店の間にある路地を指差した。真正面から見るのは無理でも、少し離れた陰からなら見れるかもしれない。
リリアンの手を引いて、走って物陰に隠れた。リリアンは気が進まなさそうだったのに、いざ隠れたあとは乗り気だった。
リリアンは小さい声の中にも興奮を忍ばせて、
「どんな方なんでしょうね」
と目を輝かせていた。
「なによ、あなたも見たかったんじゃない」
私がからかうように笑いながらこう言うと、リリアンは恥ずかしそうに頬を掻いた。
「あっ! お嬢様。出てきますよ」
私とリリアンはごくりと唾を飲み込み、ローレンス様を待った。
使用人の手引きで店を出てきたのは、立派なお召し物を着た男性だった。風貌からして貴族に間違いない。すらっとしたかなりの長身で、姿勢には自信が満ちているように見えた。
「あの方が……ローレンス様。かっこいいわね」
運がよかったのか悪かったのか、ローレンス様は私たちがいる方向とは反対に歩み始めた。横顔がちらっと見えただけなので、どんな顔かはっきりと見ることはできなかった。
「リリアン。ちゃんと見れた?」
「いえ、さすがにここからでは……」
隠れた場所が悪かったかしら。もう少しちゃんと見たかったけど、贅沢は言えない。
とても素敵な方だった。さすがお父様が見つけてきただけあるわ。オーラが違うし、使用人への態度も丁寧で、謙虚そう。ああいう方はきっと、結婚してから暴力を振るったりひどいことをしたりしない。
「リリアン。私、あの方がお相手でよかったわ」
「えっ?」
リリアンは眉を上げてびっくりしたように私の顔を見つめた。
「あの……お嬢様、わたしには一瞬横顔が見えただけで、あとは後ろ姿を眺めるばかりだったのですが……」
「私だってそうよ。でもね、直感でわかるの。きっと素敵な人よ」
「なるほど……」
リリアンは腑に落ちていないみたいだったけど、私は気にしなかった。ローレンス様は青色のお召し物を着ていたから、青色が好きなのかしら。趣味はどんなことをするのだろう。
その日から私は毎日毎時間のようにローレンス様の姿を思い出した。私のことを気に入ってくれるだろうかという不安も大きかった。実際に会ったときには何を話せばいいのだろうかと何度もシミュレーションした。ローレンス様と暮らし始めた場合、ローレンス様はどんな生活を送り、私と関わってくれるのかしら。
そうしていよいよ、ローレンス様と初めて顔合わせする日を迎えるのであった。
私とリリアンは顔を見合わせて立ち止まった。
ローレンス様に会うのは来月。
それまで会ってはならないということはないと思うけど……偶然なのだし……。
ただこちらから話しかけるのも変よね。
私は小声でリリアンに話しかけた。
「今からローレンス様が出てくるのかしら……?」
リリアンも驚いていた。
「わたしも”ローレンス様”と言っているのが聞こえました」
「あなたは会ったことあるの?」
「いえ、お目にかかったことはありません。旦那様から、優しくて素晴らしい方だという話は聞いていますが……」
お父様も私にそう言っていた。
ローレンス様がどんな方なのか……気になる……けど、さすがにこんな店前で待ち構えて顔をジロジロ見るのは品がないわよね。
我慢してもう帰ろうかしら。
「ねえリリアン。どうする? あなただって見てみたいでしょ?」
自分が見たいだけなのに、なんとなくリリアンになすりつけてしまった……。
リリアンは困った顔をした。
「それはそうですけど……失礼にあたってもいけませんし……」
そのとき、一つのアイデアが浮かんだ。
「リリアン! あそこから見ましょう!」
私は店と店の間にある路地を指差した。真正面から見るのは無理でも、少し離れた陰からなら見れるかもしれない。
リリアンの手を引いて、走って物陰に隠れた。リリアンは気が進まなさそうだったのに、いざ隠れたあとは乗り気だった。
リリアンは小さい声の中にも興奮を忍ばせて、
「どんな方なんでしょうね」
と目を輝かせていた。
「なによ、あなたも見たかったんじゃない」
私がからかうように笑いながらこう言うと、リリアンは恥ずかしそうに頬を掻いた。
「あっ! お嬢様。出てきますよ」
私とリリアンはごくりと唾を飲み込み、ローレンス様を待った。
使用人の手引きで店を出てきたのは、立派なお召し物を着た男性だった。風貌からして貴族に間違いない。すらっとしたかなりの長身で、姿勢には自信が満ちているように見えた。
「あの方が……ローレンス様。かっこいいわね」
運がよかったのか悪かったのか、ローレンス様は私たちがいる方向とは反対に歩み始めた。横顔がちらっと見えただけなので、どんな顔かはっきりと見ることはできなかった。
「リリアン。ちゃんと見れた?」
「いえ、さすがにここからでは……」
隠れた場所が悪かったかしら。もう少しちゃんと見たかったけど、贅沢は言えない。
とても素敵な方だった。さすがお父様が見つけてきただけあるわ。オーラが違うし、使用人への態度も丁寧で、謙虚そう。ああいう方はきっと、結婚してから暴力を振るったりひどいことをしたりしない。
「リリアン。私、あの方がお相手でよかったわ」
「えっ?」
リリアンは眉を上げてびっくりしたように私の顔を見つめた。
「あの……お嬢様、わたしには一瞬横顔が見えただけで、あとは後ろ姿を眺めるばかりだったのですが……」
「私だってそうよ。でもね、直感でわかるの。きっと素敵な人よ」
「なるほど……」
リリアンは腑に落ちていないみたいだったけど、私は気にしなかった。ローレンス様は青色のお召し物を着ていたから、青色が好きなのかしら。趣味はどんなことをするのだろう。
その日から私は毎日毎時間のようにローレンス様の姿を思い出した。私のことを気に入ってくれるだろうかという不安も大きかった。実際に会ったときには何を話せばいいのだろうかと何度もシミュレーションした。ローレンス様と暮らし始めた場合、ローレンス様はどんな生活を送り、私と関わってくれるのかしら。
そうしていよいよ、ローレンス様と初めて顔合わせする日を迎えるのであった。
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