愛人を連れてきた夫とは当たり前ですが暮らせません。どうぞお幸せに。

Hibah

文字の大きさ
上 下
5 / 7

5

しおりを挟む
私は黙ってアドルフの目の前に立った。覚悟はすでに決まっていた。

アドルフは視線を落として急におどおどし始めた。


「な……なんだよ……何か言いたいことでもあるのか!?」



パシン!!!

ゔぉふぇっっっっ!!!



アドルフに思いっきりビンタをかましてやった。

ビンタの瞬間、手がアドルフの頬にめり込んだのがわかった。気持ちよくアドルフの顔が横に回転し、床に倒れた。意外に手が痛かった。

アドルフは頬を抑えながら叫んだ。


「痛いじゃないか! なにするんだ! お前は自分がやっていることの意味がわかっているのか!?」


アドルフがそう言い終えると、私の後ろから使用人のうちの一人のペーターがアドルフに近づき、思いっきり顔を蹴った。


ゔぉゔぉゔぉゔぉふぇっっっっっっっっ!!!


アドルフは顔を蹴られた挙げ句、壁にも身体をうちつけ床にもだえた。

あっけにとられた私は、はっと我に返ってペーターに言った。


「やめなさい。やりすぎよ」


ペーターは武闘派の使用人。いつも涼しい顔をしている。止められた後、私に頭を下げた。


「旦那様にアドルフの顔を蹴って来いと命令されたもので。失礼いたしました」


続けてペーターはアドルフの頭の髪を掴み、私の足元まで引きずってきて言った。


「おいアドルフ。クロエ様がお前みたいなクソ男に言いたいことがあるそうだ。ありがたく聞け」


父があえてペーターを指名していた理由がわかった。暴力は好きではないけど、私もアドルフへの思いを断ち切りたかったからちょうどよかった。すっきりした。


「アドルフ、あなたとは離縁させてもらうわ。私は小さい頃からずっとあなたと暮らしたかった。結婚して、子どもを産んで、一緒に歳を重ねて……。それなのに、愛人を作っていたなんて。ましてや愛人との共同生活は……耐えられない」


アドルフを見たけど、アドルフは目を合わせてくれなかった。


「ふん……相変わらずお前は過去のことばかり言うんだな。年を取れば人間は変わるんだよ。だからガキは嫌いなんだ。それにお前なんか、親の経済力がなければ何の取り柄もない女じゃないか」


ペーターがアドルフの頭を床に叩きつけたので、私は「やめて」と制した。ペーターは大人しく従って、アドルフをまた持ち上げた。


「アドルフ、確かにそうかもしれないわ。でも、少なくとも私はあなたの婚約者として誠実に過ごしてきたつもりよ。あなたのためにできることなら、何でもしてきた」


「お前はそれでよかったかもしれないけどな。俺は息苦しかったんだ。なんで他に好きな人を作っちゃいけないんだ。なんで小さい頃から当然のようにお前と結婚することになっている? 俺に自由はないのか? 仕事だけが俺の自由だった……」


「だったらその気持をもっと早く言ってくれたらよかったのに。無理して私と結婚して、平民の愛人まで連れ込んで、結局どうしようもないところまで来てしまったじゃない?」


「うるさい! お前に男の何がわかる? お前の実家がなければ俺の実家は立ち行かなくなる。本心なんて言えると思うか? だから表向きは夫婦円満ということにしておいて、恋がしたかったんだ」


「私のお父様は、あなたの家との取引をやめると言っているわ」


「え……そんな……嘘だろ……?」


顔にあざができて鼻血も出ているアドルフは、目を見開いた。まばたきをやめ、虚ろな瞳を見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私ではなく義妹を選んだ婚約者様

水月 潮
恋愛
セリーヌ・ヴォクレール伯爵令嬢はイアン・クレマン子爵令息と婚約している。 セリーヌは留学から帰国した翌日、イアンからセリーヌと婚約解消して、セリーヌの義妹のミリィと新たに婚約すると告げられる。 セリーヌが外国に短期留学で留守にしている間、彼らは接触し、二人の間には子までいるそうだ。 セリーヌの父もミリィの母もミリィとイアンが婚約することに大賛成で、二人でヴォクレール伯爵家を盛り立てて欲しいとのこと。 お父様、あなたお忘れなの? ヴォクレール伯爵家は亡くなった私のお母様の実家であり、お父様、ひいてはミリィには伯爵家に関する権利なんて何一つないことを。 ※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います ※最終話まで執筆済み 完結保証です *HOTランキング10位↑到達(2021.6.30) 感謝です*.* HOTランキング2位(2021.7.1)

どうやら旦那には愛人がいたようです

松茸
恋愛
離婚してくれ。 十年連れ添った旦那は冷たい声で言った。 どうやら旦那には愛人がいたようです。

【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます

水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。 ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。 ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。 しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。 ※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。 *HOTランキング1位到達(2021.8.17) ありがとうございます(*≧∀≦*)

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。 財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。 初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。 まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。 好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね? 実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。 侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

【完結】その程度の噂で私たちの関係を壊せると思ったの?

横居花琉
恋愛
マーガレットの悪評が広まっていた。 放置すれば自分だけでなく婚約者や家族へも迷惑がかかってしまう。 マーガレットは婚約者のガードナーと協力し、真実を明らかにすることにした。

私がいなくなって幸せですか?

新野乃花(大舟)
恋愛
カサル男爵はエレーナと婚約関係を持っていながら、自身の妹であるセレスの事を優先的に溺愛していた。そんなある日、カサルはあるきっかけから、エレーナに自分の元を出ていってほしいという言葉をつぶやく。それが巡り巡ってエレーナ本人の耳に入ることとなり、エレーナはそのまま家出してしまう。最初こそ喜んでいたカサルだったものの、彼女がいなくなったことによる代償を後々知って大きく後悔することとなり…。

「真実の愛と出会ったから」と王子に婚約を解消されましたが、私も今の夫と出会えたので幸せです!

kieiku
恋愛
「メルディこそが我が真実の相手。私とメルディは運命で結ばれた、決して離れられない二人なのだ」 「は、はあ」 これは処置なしです。私は婚約解消を受け入れて、気持ちを切り替え愛しい今の夫と結婚しました。

処理中です...