愛人を連れてきた夫とは当たり前ですが暮らせません。どうぞお幸せに。

Hibah

文字の大きさ
上 下
1 / 7

1

しおりを挟む
私(クロエ)は伯爵令嬢と呼ばれる立場で、アドルフと婚約している。婚約自体は幼い頃に両親どうしが決めたのだけど、私はアドルフを愛している。アドルフのために家庭生活を営めると思うと、楽しみでしかたない。いよいよ結婚が近づいてきて、わくわくしている。

アドルフも伯爵家の令息で、私たちは仲良く育ってきた。両親どうしが仲が良かったというのもあるし、仕事においても密に関わるような両家の関係があった。


「ねえねえアドルフ、次はいつ会える?」


「あーわかんね。仕事忙しいんだよね。一分一秒が惜しい。今日もこうして時間作って会ってあげたんだからさ。次がどうとか今から言わないでくれよ」


「そうね……お仕事だからしかたない! うん、アドルフのこと応援してるからね! 今日はありがとう」


残念なことに……アドルフはここ数年でぐっと冷たくなった。仕事に一生懸命なのはいいと思うけど、古いしきたりをどんどん壊していくため、周りの反発も大きく、無理している感じがある。私はただ、アドルフが健康でいてくれたらなと願うばかり。

夫になるアドルフを支えるのは私の役割だし、小さい頃から言ってくれていた「クロエのことが大好きだよ」という言葉を忘れていない。アドルフは今忙しいのだろうけど、結婚して家庭を持てば変わるかもしれない。子どももできれば、もっと振り向いてくれるようになる……よね……? 彼は子どもの頃からみんなで遊ぶのが好きで、大きくなってからも近所の小さい子たちと遊んでいた。あの時の彼の純真な笑顔を、今でも鮮明に覚えている。

結婚に向かっているのは確かだし、アドルフもこうして会ってくれている。そう自分に言い聞かせた。人にはそれぞれ余裕がない時期だってあるし、そっとしておいてほしい時もある。そんな風に考えていた。




アドルフと何か月も会わないまま、結婚式を迎えた。

ずっと不安だったけど、アドルフは約束通り来てくれた。アドルフの姿を見たこの時ほど胸をなでおろした時はない。結婚式の数週間前からずっと悪夢を見ていた。「結婚はやめにしよう」と、もし言われたら……という最悪の事態が何度も頭を駆け巡った。

私にはアドルフしかいない。

小さいときから兄妹同然に過ごし、アドルフと結婚する以外の未来なんて考えていない。アドルフは私が愛する人。仕事をがんばっているのも私たちの将来のため。これからは妻たる私がアドルフに迷惑をかけないよう、精一杯がんばっていく。


「アドルフ、久しぶり! 今日やっと私たちは夫婦になるわね。昔からの夢が叶ったね」


「ああ……うん」


気のない返事だった。アドルフはやっぱり仕事で疲れているみたい。これから元気を取り戻してあげないと……!



無事に結婚式が終わった。

アドルフは首をさすりながら弱々しい声で私に言った。


「クロエ。俺たちは結婚したけど、あくまでかたちだけだよな?」


私は耳を疑った。聞き間違えかと思った。


「え……? それってどういうこと? かたちだけ?」


アドルフは半笑いで、少し馬鹿にするような感じだった。


「ほら、俺たちの結婚は両親が決めたことだし、仕事の関わり合いもあるから拒めなかっただけで……クロエだってそうなんだろ? 本当は俺との決められた結婚なんて嫌だったんだろ?」


「いや……私はそんなことない……けど……?」


「無理しなくていいよ。あくまでこの結婚は形式的。俺は夜も帰らないときがあるだろうし、夫らしいことを期待しないでくれ」


「……うん…………わかった……」


まさかこんなことを言われると思わず、心の準備ができていなかった。承知してしまったけど、それ以外に言葉も見つからなかった。


私が我慢すればいい。


アドルフも今は仕事が忙しくて、余裕がないだけなんだ。形式的っていうのも、私への愛情がないわけじゃなくて、私を傷つけないために言ってくれているんだ。夫婦の時間を長く持てそうにないから、予防線を張るというアドルフの優しさ……だよね……?




結婚式の翌日、私とアドルフは新居に移った。
しかしその日の夜、アドルフは愛人を連れてきた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

私がいなくなって幸せですか?

新野乃花(大舟)
恋愛
カサル男爵はエレーナと婚約関係を持っていながら、自身の妹であるセレスの事を優先的に溺愛していた。そんなある日、カサルはあるきっかけから、エレーナに自分の元を出ていってほしいという言葉をつぶやく。それが巡り巡ってエレーナ本人の耳に入ることとなり、エレーナはそのまま家出してしまう。最初こそ喜んでいたカサルだったものの、彼女がいなくなったことによる代償を後々知って大きく後悔することとなり…。

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。 財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。 初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。 まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。 好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね? 実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。 侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

私を婚約破棄後、すぐに破滅してしまわれた旦那様のお話

新野乃花(大舟)
恋愛
ルミアとの婚約関係を、彼女の事を思っての事だと言って破棄することを宣言したロッド。うれしそうな雰囲気で婚約破棄を実現した彼であったものの、その先で結ばれた新たな婚約者との関係は全くうまく行かず、ある理由からすぐに破滅を迎えてしまう事に…。

王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。

window
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。 「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」 もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。 先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。 結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。 するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。 ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。

【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます

水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。 ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。 ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。 しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。 ※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。 *HOTランキング1位到達(2021.8.17) ありがとうございます(*≧∀≦*)

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

幼馴染との真実の愛は、そんなにいいものでしたか?

新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアとの婚約関係を築いていたロッド侯爵は、自信の幼馴染であるレミラとの距離を急速に近づけていき、そしてついに関係を持つに至った。そして侯爵はそれを真実の愛だと言い張り、アリシアの事を追放してしまう…。それで幸せになると確信していた侯爵だったものの、その後に待っていたのは全く正反対の現実だった…。

処理中です...