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私(クロエ)は伯爵令嬢と呼ばれる立場で、アドルフと婚約している。婚約自体は幼い頃に両親どうしが決めたのだけど、私はアドルフを愛している。アドルフのために家庭生活を営めると思うと、楽しみでしかたない。いよいよ結婚が近づいてきて、わくわくしている。
アドルフも伯爵家の令息で、私たちは仲良く育ってきた。両親どうしが仲が良かったというのもあるし、仕事においても密に関わるような両家の関係があった。
「ねえねえアドルフ、次はいつ会える?」
「あーわかんね。仕事忙しいんだよね。一分一秒が惜しい。今日もこうして時間作って会ってあげたんだからさ。次がどうとか今から言わないでくれよ」
「そうね……お仕事だからしかたない! うん、アドルフのこと応援してるからね! 今日はありがとう」
残念なことに……アドルフはここ数年でぐっと冷たくなった。仕事に一生懸命なのはいいと思うけど、古いしきたりをどんどん壊していくため、周りの反発も大きく、無理している感じがある。私はただ、アドルフが健康でいてくれたらなと願うばかり。
夫になるアドルフを支えるのは私の役割だし、小さい頃から言ってくれていた「クロエのことが大好きだよ」という言葉を忘れていない。アドルフは今忙しいのだろうけど、結婚して家庭を持てば変わるかもしれない。子どももできれば、もっと振り向いてくれるようになる……よね……? 彼は子どもの頃からみんなで遊ぶのが好きで、大きくなってからも近所の小さい子たちと遊んでいた。あの時の彼の純真な笑顔を、今でも鮮明に覚えている。
結婚に向かっているのは確かだし、アドルフもこうして会ってくれている。そう自分に言い聞かせた。人にはそれぞれ余裕がない時期だってあるし、そっとしておいてほしい時もある。そんな風に考えていた。
アドルフと何か月も会わないまま、結婚式を迎えた。
ずっと不安だったけど、アドルフは約束通り来てくれた。アドルフの姿を見たこの時ほど胸をなでおろした時はない。結婚式の数週間前からずっと悪夢を見ていた。「結婚はやめにしよう」と、もし言われたら……という最悪の事態が何度も頭を駆け巡った。
私にはアドルフしかいない。
小さいときから兄妹同然に過ごし、アドルフと結婚する以外の未来なんて考えていない。アドルフは私が愛する人。仕事をがんばっているのも私たちの将来のため。これからは妻たる私がアドルフに迷惑をかけないよう、精一杯がんばっていく。
「アドルフ、久しぶり! 今日やっと私たちは夫婦になるわね。昔からの夢が叶ったね」
「ああ……うん」
気のない返事だった。アドルフはやっぱり仕事で疲れているみたい。これから元気を取り戻してあげないと……!
無事に結婚式が終わった。
アドルフは首をさすりながら弱々しい声で私に言った。
「クロエ。俺たちは結婚したけど、あくまでかたちだけだよな?」
私は耳を疑った。聞き間違えかと思った。
「え……? それってどういうこと? かたちだけ?」
アドルフは半笑いで、少し馬鹿にするような感じだった。
「ほら、俺たちの結婚は両親が決めたことだし、仕事の関わり合いもあるから拒めなかっただけで……クロエだってそうなんだろ? 本当は俺との決められた結婚なんて嫌だったんだろ?」
「いや……私はそんなことない……けど……?」
「無理しなくていいよ。あくまでこの結婚は形式的。俺は夜も帰らないときがあるだろうし、夫らしいことを期待しないでくれ」
「……うん…………わかった……」
まさかこんなことを言われると思わず、心の準備ができていなかった。承知してしまったけど、それ以外に言葉も見つからなかった。
私が我慢すればいい。
アドルフも今は仕事が忙しくて、余裕がないだけなんだ。形式的っていうのも、私への愛情がないわけじゃなくて、私を傷つけないために言ってくれているんだ。夫婦の時間を長く持てそうにないから、予防線を張るというアドルフの優しさ……だよね……?
結婚式の翌日、私とアドルフは新居に移った。
しかしその日の夜、アドルフは愛人を連れてきた……。
アドルフも伯爵家の令息で、私たちは仲良く育ってきた。両親どうしが仲が良かったというのもあるし、仕事においても密に関わるような両家の関係があった。
「ねえねえアドルフ、次はいつ会える?」
「あーわかんね。仕事忙しいんだよね。一分一秒が惜しい。今日もこうして時間作って会ってあげたんだからさ。次がどうとか今から言わないでくれよ」
「そうね……お仕事だからしかたない! うん、アドルフのこと応援してるからね! 今日はありがとう」
残念なことに……アドルフはここ数年でぐっと冷たくなった。仕事に一生懸命なのはいいと思うけど、古いしきたりをどんどん壊していくため、周りの反発も大きく、無理している感じがある。私はただ、アドルフが健康でいてくれたらなと願うばかり。
夫になるアドルフを支えるのは私の役割だし、小さい頃から言ってくれていた「クロエのことが大好きだよ」という言葉を忘れていない。アドルフは今忙しいのだろうけど、結婚して家庭を持てば変わるかもしれない。子どももできれば、もっと振り向いてくれるようになる……よね……? 彼は子どもの頃からみんなで遊ぶのが好きで、大きくなってからも近所の小さい子たちと遊んでいた。あの時の彼の純真な笑顔を、今でも鮮明に覚えている。
結婚に向かっているのは確かだし、アドルフもこうして会ってくれている。そう自分に言い聞かせた。人にはそれぞれ余裕がない時期だってあるし、そっとしておいてほしい時もある。そんな風に考えていた。
アドルフと何か月も会わないまま、結婚式を迎えた。
ずっと不安だったけど、アドルフは約束通り来てくれた。アドルフの姿を見たこの時ほど胸をなでおろした時はない。結婚式の数週間前からずっと悪夢を見ていた。「結婚はやめにしよう」と、もし言われたら……という最悪の事態が何度も頭を駆け巡った。
私にはアドルフしかいない。
小さいときから兄妹同然に過ごし、アドルフと結婚する以外の未来なんて考えていない。アドルフは私が愛する人。仕事をがんばっているのも私たちの将来のため。これからは妻たる私がアドルフに迷惑をかけないよう、精一杯がんばっていく。
「アドルフ、久しぶり! 今日やっと私たちは夫婦になるわね。昔からの夢が叶ったね」
「ああ……うん」
気のない返事だった。アドルフはやっぱり仕事で疲れているみたい。これから元気を取り戻してあげないと……!
無事に結婚式が終わった。
アドルフは首をさすりながら弱々しい声で私に言った。
「クロエ。俺たちは結婚したけど、あくまでかたちだけだよな?」
私は耳を疑った。聞き間違えかと思った。
「え……? それってどういうこと? かたちだけ?」
アドルフは半笑いで、少し馬鹿にするような感じだった。
「ほら、俺たちの結婚は両親が決めたことだし、仕事の関わり合いもあるから拒めなかっただけで……クロエだってそうなんだろ? 本当は俺との決められた結婚なんて嫌だったんだろ?」
「いや……私はそんなことない……けど……?」
「無理しなくていいよ。あくまでこの結婚は形式的。俺は夜も帰らないときがあるだろうし、夫らしいことを期待しないでくれ」
「……うん…………わかった……」
まさかこんなことを言われると思わず、心の準備ができていなかった。承知してしまったけど、それ以外に言葉も見つからなかった。
私が我慢すればいい。
アドルフも今は仕事が忙しくて、余裕がないだけなんだ。形式的っていうのも、私への愛情がないわけじゃなくて、私を傷つけないために言ってくれているんだ。夫婦の時間を長く持てそうにないから、予防線を張るというアドルフの優しさ……だよね……?
結婚式の翌日、私とアドルフは新居に移った。
しかしその日の夜、アドルフは愛人を連れてきた……。
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