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クラウディアは大きな怒りを感じた。


「私も困るですって? 当たり前じゃないですか。……でも、このままあなたの浮気を認めることもできませんし、ましてや罪までかばえません。信頼できない王子を支えて国王とし、自分がその妃になるなんて……恐ろしい。国民を裏切ることになります」


「国民だと? 笑えるな! やっと王族になった分際で国を語るのか? イザベルとはただの遊びだし、僕は本気で君のことが好きだったんだぞ! 僕の気持ちも知らずによくそんなことが言えるな!」


「イザベルは私の妹ですよ? もし関係がばれたときに、私たちの信頼関係が粉々になることくらい想像できなかったんですか? 私を大切にする気持ちがあるなら、仮にイザベルに惹かれたとしても……我慢できなかったのですか? どうして? 少しの辛抱だったでしょ……」


「そ、それは……うぅ……すまない。軽はずみな行動だった」



…………。


重い沈黙が二人にのしかかる。



言葉がうまく出なくなったフレデリックは、どうしてイザベルを抱いてしまったのかと後悔した。こんなに美しい女性が妻になるというのに、自分はどうして性欲を抑えらなかったのだろう。いや、性欲だけでなく、スリルを追い求める気持ちに抗えなかった。どうせばれないだろうと思い、こんな事態になるリスクを考えていなかった。最も大事な信頼関係を失ってまでしたかったことなのだろうか。クラウディアのことが頭になかったわけではない。自分は本当に馬鹿だったのだ! クラウディアを傷つける想像すらせず、そのときの欲情に突き動かされていただけの、愚かな男だった!


「クラウディア! 心から謝罪する! 二度と浮気はしない。君を一生大切にすると誓う……。だから、もう一度チャンスがほしい。君を愛するチャンスを……」


フレデリックはひざまずき、クラウディアに精一杯懇願した。頭を低くもたげ、何度も謝罪し、そして……傲慢にも……その思いにかなうだけの彼女のまなざしを求めた。許しと慈愛を望んだ。

一方のクラウディアは、そんなフレデリックを見ても心動かされなかった。むしろ、フレデリックの顔が怯えた子犬のようになっていて、そればかり冷静に眺めた。彼女はフレデリックが謝罪している間、なんとか自分の心が変わらないものかと努力したくらいである。フレデリックの謝罪を受け入れて仲直りし、新たな関係を築いていけるならそれもよいではないか。将来は王国を支える妃になれるのだし、ここでお灸をすえておけば思うままだ。

しかしクラウディアにとって一番引っ掛かったのは、やはりヒガンバナを自分にすすめてきたことだった。国で禁止されている物を無知な者に与えようとしている軽薄さは、許せないと考えた。王子として、夫として、男として……以前に、人間として……。


「ごめんなさい、フレデリック様。私はあなたを信じられないと思います。これからもずっと……。そして、あなたは国王陛下のもとへ自首するべきです」


クラウディアが落ち着いた様子でこう言うと、フレデリックは一転して顔を上げ、ギロッと彼女を睨んだ。頭に血がのぼったのだ。

今まで第一王子としてほとんど思うままになってきたフレデリックにとって、自分がこれほどお願いしているのに拒まれるという経験はなかった。自分の謝罪が当然受け入れられ、仲直りし、すべてはなかったということになって、夫婦円満……そんな勝手な想像をしていたのだった。

切羽詰まったフレデリックは部屋の扉へ向かって大声で叫んだ。


「おい、近衛兵! クラウディアを逮捕しろ! こいつはヒガンバナを持っているぞ!」
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