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フレデリックは、いたずらをたしなめられた子どものように「ふふふ」と笑うだけだった。違法なのは当たり前。ただ可愛らしい心配をされているだけだと思って、クラウディアを見ている。

クラウディアはこのときやっとまともにフレデリックの目を見た。よく観察すると、目の下にくまが見え、頬は少しやせこけているような気がした。婚約時には見られなかった特徴である。


「今後、この薬を使わないと約束してください。そうでなければ私はあなたの妻を続けるつもりはありません。本気ですよ……。お願いだから……すぐに捨てて……」


フレデリックはクラウディアの説得を聞いてきょとんとしたが、少しの間をおいてから微笑んだ。困った子だなとでも言いたげに。


「クラウディア……君は勘違いしているようだね。僕はこの薬を調査のために保持しているにすぎない。決して依存していないし、特別な日に少量使うだけなら、極めて優れた官能を得られる薬なのだよ」


「では……イザベルと関係を持ったあの日も、特別な日だったとおっしゃるんですか!」


クラウディアは目を真っ赤にしてフレデリックを睨んだ。フレデリックはクラウディアの鋭い剣幕にたじろいだ。


「ん……? イザベル……? え……あ……なんのことだ?」フレデリックが目線をそらす。


「しらばっくれても無駄です。庭園の倉庫でなさっているところを見ました。婚約者の妹と関係を持つなんて、どんなおつもりなのですか?」


「え、いやあ、あれは、いやあ、その……わからないな」フレデリックは動揺を隠せず、目が泳いだ。クラウディアは哀れな夫が視界に入らないよう、床に目を凝らした。我慢ならなかった。


「そうですか、あくまでとぼけるのですね。いいでしょう。では妹と関係を持った件もヒガンバナの件も公にします」


「ちょっと待て! そんなことをすれば第一王子の妻たる君だって困るだろ!」


フレデリックの怒鳴り声を聞いて、クラウディアの頬に涙がつたる。目を赤くしたクラウディアを覗き込み、フレデリックはようやく自分の行いを振り返り始めた。バレなければいいと思ってやっていたことがバレている。第一王子として振る舞ってきた自分の過去がすべて吹き飛んでしまう。懸命に励んできた政務も(彼は浮気者ではあるが、仕事もよくする。性愛の不誠実さは必ずしも仕事の誠実さとは直結しない)、水の泡となる。

フレデリックの心に寒風が吹いた。美しく謙虚な理想の女性としてのクラウディアが、一転して自分を落とし入れる悪魔のように見えてきた。クラウディアをなんとか協力者にするしかない。さもなければ……。
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