4 / 13
4
しおりを挟む
式が終わろうとしていた。
フレデリックは目の奥のギラギラを抑えられず、両肩が上がり、浮き足立つ。クラウディアをやっと”ものにした”という興奮が、式場の明かりでさらにあらわになるようだった。
フレデリックに誘われたクラウディアは、ただ一度うなずいた。その場をひとまずやりすごすようとして……。
(この方もイザベルと一緒だわ……。私にバレていないと思っているから誘ってくるのよ。良心の呵責はないのかしら。……私はあなたが好きだった。良縁というだけでなく、一人の女性としてあなたを好きでいようと思ってた。あなたにはそれだけの魅力があると……感じていたから。でも、勘違いだったようね。やっぱり平気で嘘をつく人は嫌。今までの愛の言葉がすべて……安っぽく、汚らしくさえ思えてくる……)
クラウディアの心は完全に閉ざされており、それをフレデリックが察することもなかった。フレデリックは悪気のない男だが根っからの不誠実なので、すでにイザベルのことは忘れていた。結婚式ではイザベルと目さえ合わせず、クラウディアに夢中だった。それは自分の妻だから大切にしようというよりかは、自分の性欲が夫婦関係という後ろ盾によって正当化されるような気がしたからだった。その程度にしか、フレデリックは成熟していなかった。
***
式が終わったその夜、クラウディアは言われた通りフレデリックの部屋を訪れた。第一王子の部屋だけあって、その広さは数十人規模でパーティーができるほどである。部屋の中には区切りが多くあり、寝室・遊戯スペース・食事スペースなど、用途別に分けられている。
中央には広場のようなスペースがあり、フレデリックは高級な皮でしつらわれた椅子に深く腰掛けていた。片手にはワイングラスを持ち、自分の生まれ年にできた赤い液体をくゆらせていた。
「待ちくたびれたよ、クラウディア。僕が今日をどれほど心待ちにしていたかわかるかい?」
フレデリックは勝ち誇った笑みを浮かべ、クラウディアを見つめた。そして彼女を向かいの椅子にすすめ、彼女もまたそれに従い腰掛けた。微妙な身体の震えが止まらず、視線はどことなく床を見つめたままだった。彼女の頬紅にはまだなんの覚悟ものっていなかった。
「ご冗談を……。フレデリック様が私のような者を待つはずがありません。病弱で長い間会えず、もはや呆れられていると存じております」
「そんなことはない。無事に式を挙げられて、どれほど安心したか。君にずっと会いたかった。毎夜君の住む屋敷の方角を眺め、星々にお願いしていたんだ。健康が戻るようにと……」
「お心遣いありがとうございます。フレデリック様は健康にお過ごしになっておられましたか?」
「うん。僕はずっと政務に邁進していたよ。君という素晴らしく美しい女性を迎えられる日を夢見ながら、己の仕事に集中していた。ありがとう。君は一人の女性を想い続ける大切さを僕に教えてくれた」
フレデリックは立ち上がり、クラウディアのそばまで来てひざまづいた。彼女の手を包み込むようにして触れると、震えに気がついた。
「緊張しているんだね。大丈夫だよ。僕たちは晴れて夫婦になったんだ。邪魔する者は誰もいない。僕に身を委ねてくれたらいい」
フレデリックはクラウディアを支えながら立ち上がらせた。優しく抱きしめ、頭を撫でた。
フレデリックは目の奥のギラギラを抑えられず、両肩が上がり、浮き足立つ。クラウディアをやっと”ものにした”という興奮が、式場の明かりでさらにあらわになるようだった。
フレデリックに誘われたクラウディアは、ただ一度うなずいた。その場をひとまずやりすごすようとして……。
(この方もイザベルと一緒だわ……。私にバレていないと思っているから誘ってくるのよ。良心の呵責はないのかしら。……私はあなたが好きだった。良縁というだけでなく、一人の女性としてあなたを好きでいようと思ってた。あなたにはそれだけの魅力があると……感じていたから。でも、勘違いだったようね。やっぱり平気で嘘をつく人は嫌。今までの愛の言葉がすべて……安っぽく、汚らしくさえ思えてくる……)
クラウディアの心は完全に閉ざされており、それをフレデリックが察することもなかった。フレデリックは悪気のない男だが根っからの不誠実なので、すでにイザベルのことは忘れていた。結婚式ではイザベルと目さえ合わせず、クラウディアに夢中だった。それは自分の妻だから大切にしようというよりかは、自分の性欲が夫婦関係という後ろ盾によって正当化されるような気がしたからだった。その程度にしか、フレデリックは成熟していなかった。
***
式が終わったその夜、クラウディアは言われた通りフレデリックの部屋を訪れた。第一王子の部屋だけあって、その広さは数十人規模でパーティーができるほどである。部屋の中には区切りが多くあり、寝室・遊戯スペース・食事スペースなど、用途別に分けられている。
中央には広場のようなスペースがあり、フレデリックは高級な皮でしつらわれた椅子に深く腰掛けていた。片手にはワイングラスを持ち、自分の生まれ年にできた赤い液体をくゆらせていた。
「待ちくたびれたよ、クラウディア。僕が今日をどれほど心待ちにしていたかわかるかい?」
フレデリックは勝ち誇った笑みを浮かべ、クラウディアを見つめた。そして彼女を向かいの椅子にすすめ、彼女もまたそれに従い腰掛けた。微妙な身体の震えが止まらず、視線はどことなく床を見つめたままだった。彼女の頬紅にはまだなんの覚悟ものっていなかった。
「ご冗談を……。フレデリック様が私のような者を待つはずがありません。病弱で長い間会えず、もはや呆れられていると存じております」
「そんなことはない。無事に式を挙げられて、どれほど安心したか。君にずっと会いたかった。毎夜君の住む屋敷の方角を眺め、星々にお願いしていたんだ。健康が戻るようにと……」
「お心遣いありがとうございます。フレデリック様は健康にお過ごしになっておられましたか?」
「うん。僕はずっと政務に邁進していたよ。君という素晴らしく美しい女性を迎えられる日を夢見ながら、己の仕事に集中していた。ありがとう。君は一人の女性を想い続ける大切さを僕に教えてくれた」
フレデリックは立ち上がり、クラウディアのそばまで来てひざまづいた。彼女の手を包み込むようにして触れると、震えに気がついた。
「緊張しているんだね。大丈夫だよ。僕たちは晴れて夫婦になったんだ。邪魔する者は誰もいない。僕に身を委ねてくれたらいい」
フレデリックはクラウディアを支えながら立ち上がらせた。優しく抱きしめ、頭を撫でた。
47
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私の、虐げられていた親友の幸せな結婚
オレンジ方解石
ファンタジー
女学院に通う、女学生のイリス。
彼女は、親友のシュゼットがいつも妹に持ち物や見せ場を奪われることに怒りつつも、何もできずに悔しい思いをしていた。
だがある日、シュゼットは名門公爵令息に見初められ、婚約する。
「もう、シュゼットが妹や両親に利用されることはない」
安堵したイリスだが、親友の言葉に違和感が残り…………。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された令嬢は、それでも幸せな未来を描く
瑞紀
恋愛
伯爵の愛人の連れ子であるアイリスは、名ばかりの伯爵令嬢の地位を与えられていたが、長年冷遇され続けていた。ある日の夜会で身に覚えのない婚約破棄を受けた彼女。婚約者が横に連れているのは義妹のヒーリーヌだった。
しかし、物語はここから急速に動き始める……?
ざまぁ有の婚約破棄もの。初挑戦ですが、お楽しみいただけると幸いです。
予定通り10/18に完結しました。
※HOTランキング9位、恋愛15位、小説16位、24hポイント10万↑、お気に入り1000↑、感想などなどありがとうございます。初めて見る数字に戸惑いつつ喜んでおります。
※続編?後日談?が完成しましたのでお知らせ致します。
婚約破棄された令嬢は、隣国の皇女になりました。(https://www.alphapolis.co.jp/novel/737101674/301558993)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王女と婚約するからという理由で、婚約破棄されました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のミレーヌと侯爵令息のバクラは婚約関係にあった。
しかしある日、バクラは王女殿下のことが好きだという理由で、ミレーヌと婚約破棄をする。
バクラはその後、王女殿下に求婚するが精神崩壊するほど責められることになる。ミレーヌと王女殿下は仲が良く婚約破棄の情報はしっかりと伝わっていたからだ。
バクラはミレーヌの元に戻ろうとするが、彼女は王子様との婚約が決まっており──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染との真実の愛は、そんなにいいものでしたか?
新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアとの婚約関係を築いていたロッド侯爵は、自信の幼馴染であるレミラとの距離を急速に近づけていき、そしてついに関係を持つに至った。そして侯爵はそれを真実の愛だと言い張り、アリシアの事を追放してしまう…。それで幸せになると確信していた侯爵だったものの、その後に待っていたのは全く正反対の現実だった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄~さようなら、私の愛した旦那様~
星ふくろう
恋愛
レオン・ウィンダミア子爵は若くして、友人であるイゼア・スローン卿と共に財産を築いた資産家だ。
そんな彼にまだ若い没落貴族、ギース侯爵令嬢マキナ嬢との婚約の話が持ち上がる。
しかし、新聞社を経営するイゼア・スローン卿はレオンに警告する。
彼女には秘密がある、気を付けろ、と。
小説家になろう、ノベリズムでも掲載しています。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者を奪っていった彼女は私が羨ましいそうです。こちらはあなたのことなど記憶の片隅にもございませんが。
松ノ木るな
恋愛
ハルネス侯爵家令嬢シルヴィアは、将来を嘱望された魔道の研究員。
不運なことに、親に決められた婚約者は無類の女好きであった。
研究で忙しい彼女は、女遊びもほどほどであれば目をつむるつもりであったが……
挙式一月前というのに、婚約者が口の軽い彼女を作ってしまった。
「これは三人で、あくまで平和的に、話し合いですね。修羅場は私が制してみせます」
※7千字の短いお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する事はないと言ってくれ
ひよこ1号
恋愛
とある事情で、侯爵の妻になってしまった伯爵令嬢の私は、白い結婚を目指そうと心に決めた。でも、身分差があるから、相手から言い出してくれないと困るのよね。勝率は五分。だって、彼には「真実の愛」のお相手、子爵令嬢のオリビア様がいるのだから。だからとっとと言えよな!
※誤字脱字ミスが撲滅できません(ご報告感謝です)
※代表作「悪役令嬢?何それ美味しいの?」は秋頃刊行予定です。読んで頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる