婚約者の浮気現場を目撃した公爵令嬢は、最後に勝利する。

Hibah

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式が終わろうとしていた。

フレデリックは目の奥のギラギラを抑えられず、両肩が上がり、浮き足立つ。クラウディアをやっと”ものにした”という興奮が、式場の明かりでさらにあらわになるようだった。

フレデリックに誘われたクラウディアは、ただ一度うなずいた。その場をひとまずやりすごすようとして……。


(この方もイザベルと一緒だわ……。私にバレていないと思っているから誘ってくるのよ。良心の呵責はないのかしら。……私はあなたが好きだった。良縁というだけでなく、一人の女性としてあなたを好きでいようと思ってた。あなたにはそれだけの魅力があると……感じていたから。でも、勘違いだったようね。やっぱり平気で嘘をつく人は嫌。今までの愛の言葉がすべて……安っぽく、汚らしくさえ思えてくる……)


クラウディアの心は完全に閉ざされており、それをフレデリックが察することもなかった。フレデリックは悪気のない男だが根っからの不誠実なので、すでにイザベルのことは忘れていた。結婚式ではイザベルと目さえ合わせず、クラウディアに夢中だった。それは自分の妻だから大切にしようというよりかは、自分の性欲が夫婦関係という後ろ盾によって正当化されるような気がしたからだった。その程度にしか、フレデリックは成熟していなかった。



   ***



式が終わったその夜、クラウディアは言われた通りフレデリックの部屋を訪れた。第一王子の部屋だけあって、その広さは数十人規模でパーティーができるほどである。部屋の中には区切りが多くあり、寝室・遊戯スペース・食事スペースなど、用途別に分けられている。

中央には広場のようなスペースがあり、フレデリックは高級な皮でしつらわれた椅子に深く腰掛けていた。片手にはワイングラスを持ち、自分の生まれ年にできた赤い液体をくゆらせていた。


「待ちくたびれたよ、クラウディア。僕が今日をどれほど心待ちにしていたかわかるかい?」


フレデリックは勝ち誇った笑みを浮かべ、クラウディアを見つめた。そして彼女を向かいの椅子にすすめ、彼女もまたそれに従い腰掛けた。微妙な身体の震えが止まらず、視線はどことなく床を見つめたままだった。彼女の頬紅にはまだなんの覚悟ものっていなかった。


「ご冗談を……。フレデリック様が私のような者を待つはずがありません。病弱で長い間会えず、もはや呆れられていると存じております」


「そんなことはない。無事に式を挙げられて、どれほど安心したか。君にずっと会いたかった。毎夜君の住む屋敷の方角を眺め、星々にお願いしていたんだ。健康が戻るようにと……」


「お心遣いありがとうございます。フレデリック様は健康にお過ごしになっておられましたか?」


「うん。僕はずっと政務に邁進していたよ。君という素晴らしく美しい女性を迎えられる日を夢見ながら、己の仕事に集中していた。ありがとう。君は一人の女性を想い続ける大切さを僕に教えてくれた」


フレデリックは立ち上がり、クラウディアのそばまで来てひざまづいた。彼女の手を包み込むようにして触れると、震えに気がついた。


「緊張しているんだね。大丈夫だよ。僕たちは晴れて夫婦になったんだ。邪魔する者は誰もいない。僕に身を委ねてくれたらいい」


フレデリックはクラウディアを支えながら立ち上がらせた。優しく抱きしめ、頭を撫でた。
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