上 下
3 / 13

3

しおりを挟む
クラウディアはフレデリックの手を取らず、無視して所定の位置に向かった。

フレデリックは予想外の冷たい態度に一瞬ひるんだものの、彼女のくっきりとした目鼻立ち、宝石のような青い瞳を見て、胸の高鳴りを感じた。


(きっとクラウディアは緊張しているんだ。急ぐことはない。今日からは毎日会えるんだし、こんなにいい女が自分のものになるなんて、最高じゃないか! もうイザベルなんかと危険な橋を渡る必要ないし、クラウディアと……めちゃくちゃな夜を過ごそう! あのウェディングドレスの中身はきっと……妹と同じワンダフルワールドに違いない)




式の最中、クラウディアが目を合わせることはなかった。式を進行させるために最低限の振る舞いだけをして、あとはどこに焦点を合わせるでもなく、澄ましていた。そんな彼女の態度にフレデリックはむしろ興奮を感じた。公の場と私的な場とのギャップがあればあるほど燃える。ああ! フレデリックが盛り上がったのは気持ちだけではなかった。

妹イザベルが挨拶のためクラウディアに声をかけた。


「お姉様。ご結婚おめでとうございます。お姉様の美貌はまさに第一王子様にふさわしく輝いております。お姉様が王国で一番幸せな女性なら、わたしは喜んで二番目になりましょう」


イザベルの笑みの噓臭さがクラウディアに吐き気をもよおさせた。あの日、二人がひそかに愛し合っていた裏切りの光景をクラウディアは思い出した。


(イザベル……あなたとフレデリックの関係を私が知らないと思っているようね。なんて浅はかなのでしょう……)


クラウディアは平然を装った。


「イザベル。ありがとう。あなたも婚約者が決まって、結婚の準備をしているそうね。一つのところに落ち着く覚悟ができたのかしら?」


「ふふふ。おかしなことをおっしゃいますね、お姉様は。わたしはわたしですよ。結婚したって何も変えるつもりはありません」


「あなたはそれでもいいかもしれないけど……周りの大切な人を傷つけていることもあるのよ。知らないうちにね……」


「お姉様はいつもわたしを心配してくださいますね。ありがとうございます。でも、わたしは大切な人を傷つけたりしませんし、もちろんお姉様だって大切な家族よ。お姉様を泣かせたら、たとえフレデリック様といえど許しません!」


イザベルは両手をグーにして胸の前に持ち上げ、ファイティングポーズのような姿勢をとった。その白々しいぶりっ子の態度に、クラウディアは咳をするふりをしてため息をついた。


(イザベルは何も反省していないわね。私がどれだけショックだったかも知らずに、平気で笑顔を向けてくる。どんな神経をしてるの? 実の妹に婚約者を奪われた気持ちを考えたことがあって? ああ……許せない)



   ***



式に参加した貴族たちは、クラウディアの物言わぬ様子をむしろ威厳ある姿として捉えていた。将来の王妃があまりにも立派であることに涙する者さえいた。

そんな中、色めきだったフレデリックはクラウディアにささやく。

「クラウディア……疲れているかもしれないが……今夜僕の部屋に来てくれないか? 時間が来たら、使いをやるよ。ずっと話したくてしかたなかった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約していたのに、第二王子は妹と浮気しました~捨てられた私は、王太子殿下に拾われます~

マルローネ
ファンタジー
「ごめんなさいね、姉さん。王子殿下は私の物だから」 「そういうことだ、ルアナ。スッキリと婚約破棄といこうじゃないか」 公爵令嬢のルアナ・インクルーダは婚約者の第二王子に婚約破棄をされた。 しかも、信用していた妹との浮気という最悪な形で。 ルアナは国を出ようかと考えるほどに傷ついてしまう。どこか遠い地で静かに暮らそうかと……。 その状態を救ったのは王太子殿下だった。第二王子の不始末について彼は誠心誠意謝罪した。 最初こそ戸惑うルアナだが、王太子殿下の誠意は次第に彼女の心を溶かしていくことになる。 まんまと姉から第二王子を奪った妹だったが、王太子殿下がルアナを選んだことによりアドバンテージはなくなり、さらに第二王子との関係も悪化していき……。

(完結)浮気の証拠を見つけたので、離婚を告げてもいいですか?

アイララ
恋愛
教会の孤児院で働く夫のフラミーの為に、私は今日も夫の為に頑張っていました。 たとえ愛のない政略結婚であろうと、頑張れば夫は振り向いてくれると思ったからです。 それなのに……私は夫の部屋から浮気の証拠を見つけてしまいました。 こんなものを見つけたのなら、もう我慢の限界です。 私は浮気の証拠を突き付けて、もっと幸せな人生を歩もうと思います。

結婚式一時間前なのに婚約破棄された令嬢の周りはザマァにまみれて追放される

甘い秋空
恋愛
 結婚式一時間前の親族の顔合わせの席なのに、婚約破棄された令嬢。周りはザマァにまみれて次々に追放されていく。タイムリミットが迫る中、新郎がいない令嬢は、果たして結婚式を挙げられるのか! (全四話完結)

妹の婚約者自慢がウザいので、私の婚約者を紹介したいと思います~妹はただ私から大切な人を奪っただけ~

マルローネ
恋愛
侯爵令嬢のアメリア・リンバークは妹のカリファに婚約者のラニッツ・ポドールイ公爵を奪われた。 だが、アメリアはその後に第一王子殿下のゼラスト・ファーブセンと婚約することになる。 しかし、その事実を知らなかったカリファはアメリアに対して、ラニッツを自慢するようになり──。

傷物にされた私は幸せを掴む

コトミ
恋愛
エミリア・フィナリーは子爵家の二人姉妹の姉で、妹のために我慢していた。両親は真面目でおとなしいエミリアよりも、明るくて可愛い双子の妹である次女のミアを溺愛していた。そんな中でもエミリアは長女のために子爵家の婿取りをしなくてはいけなかったために、同じく子爵家の次男との婚約が決まっていた。その子爵家の次男はルイと言い、エミリアにはとても優しくしていた。顔も良くて、エミリアは少し自慢に思っていた。エミリアが十七になり、結婚も近くなってきた冬の日に事件が起き、大きな傷を負う事になる。 (ここまで読んでいただきありがとうございます。妹ざまあ、展開です。本編も読んでいただけると嬉しいです)

イケメンな幼馴染と婚約したのですが、美人な妹に略奪されてしまいました。

ほったげな
恋愛
私はイケメン幼馴染のヴィルと婚約した。しかし、妹のライラがヴィルとの子を妊娠。私とヴィルの婚約は破棄となった。その後、私は伯爵のエウリコと出会い…。

足が不自由な令嬢、ドジはいらないと捨てられたのであなたの足を貰います

あんみつ豆腐
恋愛
足が不自由であり車いす生活の令嬢アリシアは、婚約者のロドリックに呼ばれたため、頑張って彼の屋敷へ向かった。 だが、待っていたのは婚約破棄というの事実。 アリシアは悲しみのどん底に落ちていく。 そして決意した。 全ての不自由を彼に移す、と。

婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
第一皇太子のセヴラン殿下の誕生パーティーの真っ最中に、突然ノエリア令嬢に対する嫌がらせの濡れ衣を着せられたシリル。 シリルの話をろくに聞かないまま、婚約者だった第二皇太子ガイラスは婚約破棄を言い渡す。 その横にはたったいまシリルを陥れようとしているノエリア令嬢が並んでいた。 そんな2人の姿が思わず溢れた涙でどんどんぼやけていく……。 ざまぁ展開のハピエンです。

処理中です...