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クラウディアはフレデリックの手を取らず、無視して所定の位置に向かった。
フレデリックは予想外の冷たい態度に一瞬ひるんだものの、彼女のくっきりとした目鼻立ち、宝石のような青い瞳を見て、胸の高鳴りを感じた。
(きっとクラウディアは緊張しているんだ。急ぐことはない。今日からは毎日会えるんだし、こんなにいい女が自分のものになるなんて、最高じゃないか! もうイザベルなんかと危険な橋を渡る必要ないし、クラウディアと……めちゃくちゃな夜を過ごそう! あのウェディングドレスの中身はきっと……妹と同じワンダフルワールドに違いない)
式の最中、クラウディアが目を合わせることはなかった。式を進行させるために最低限の振る舞いだけをして、あとはどこに焦点を合わせるでもなく、澄ましていた。そんな彼女の態度にフレデリックはむしろ興奮を感じた。公の場と私的な場とのギャップがあればあるほど燃える。ああ! フレデリックが盛り上がったのは気持ちだけではなかった。
妹イザベルが挨拶のためクラウディアに声をかけた。
「お姉様。ご結婚おめでとうございます。お姉様の美貌はまさに第一王子様にふさわしく輝いております。お姉様が王国で一番幸せな女性なら、わたしは喜んで二番目になりましょう」
イザベルの笑みの噓臭さがクラウディアに吐き気をもよおさせた。あの日、二人がひそかに愛し合っていた裏切りの光景をクラウディアは思い出した。
(イザベル……あなたとフレデリックの関係を私が知らないと思っているようね。なんて浅はかなのでしょう……)
クラウディアは平然を装った。
「イザベル。ありがとう。あなたも婚約者が決まって、結婚の準備をしているそうね。一つのところに落ち着く覚悟ができたのかしら?」
「ふふふ。おかしなことをおっしゃいますね、お姉様は。わたしはわたしですよ。結婚したって何も変えるつもりはありません」
「あなたはそれでもいいかもしれないけど……周りの大切な人を傷つけていることもあるのよ。知らないうちにね……」
「お姉様はいつもわたしを心配してくださいますね。ありがとうございます。でも、わたしは大切な人を傷つけたりしませんし、もちろんお姉様だって大切な家族よ。お姉様を泣かせたら、たとえフレデリック様といえど許しません!」
イザベルは両手をグーにして胸の前に持ち上げ、ファイティングポーズのような姿勢をとった。その白々しいぶりっ子の態度に、クラウディアは咳をするふりをしてため息をついた。
(イザベルは何も反省していないわね。私がどれだけショックだったかも知らずに、平気で笑顔を向けてくる。どんな神経をしてるの? 実の妹に婚約者を奪われた気持ちを考えたことがあって? ああ……許せない)
***
式に参加した貴族たちは、クラウディアの物言わぬ様子をむしろ威厳ある姿として捉えていた。将来の王妃があまりにも立派であることに涙する者さえいた。
そんな中、色めきだったフレデリックはクラウディアにささやく。
「クラウディア……疲れているかもしれないが……今夜僕の部屋に来てくれないか? 時間が来たら、使いをやるよ。ずっと話したくてしかたなかった」
フレデリックは予想外の冷たい態度に一瞬ひるんだものの、彼女のくっきりとした目鼻立ち、宝石のような青い瞳を見て、胸の高鳴りを感じた。
(きっとクラウディアは緊張しているんだ。急ぐことはない。今日からは毎日会えるんだし、こんなにいい女が自分のものになるなんて、最高じゃないか! もうイザベルなんかと危険な橋を渡る必要ないし、クラウディアと……めちゃくちゃな夜を過ごそう! あのウェディングドレスの中身はきっと……妹と同じワンダフルワールドに違いない)
式の最中、クラウディアが目を合わせることはなかった。式を進行させるために最低限の振る舞いだけをして、あとはどこに焦点を合わせるでもなく、澄ましていた。そんな彼女の態度にフレデリックはむしろ興奮を感じた。公の場と私的な場とのギャップがあればあるほど燃える。ああ! フレデリックが盛り上がったのは気持ちだけではなかった。
妹イザベルが挨拶のためクラウディアに声をかけた。
「お姉様。ご結婚おめでとうございます。お姉様の美貌はまさに第一王子様にふさわしく輝いております。お姉様が王国で一番幸せな女性なら、わたしは喜んで二番目になりましょう」
イザベルの笑みの噓臭さがクラウディアに吐き気をもよおさせた。あの日、二人がひそかに愛し合っていた裏切りの光景をクラウディアは思い出した。
(イザベル……あなたとフレデリックの関係を私が知らないと思っているようね。なんて浅はかなのでしょう……)
クラウディアは平然を装った。
「イザベル。ありがとう。あなたも婚約者が決まって、結婚の準備をしているそうね。一つのところに落ち着く覚悟ができたのかしら?」
「ふふふ。おかしなことをおっしゃいますね、お姉様は。わたしはわたしですよ。結婚したって何も変えるつもりはありません」
「あなたはそれでもいいかもしれないけど……周りの大切な人を傷つけていることもあるのよ。知らないうちにね……」
「お姉様はいつもわたしを心配してくださいますね。ありがとうございます。でも、わたしは大切な人を傷つけたりしませんし、もちろんお姉様だって大切な家族よ。お姉様を泣かせたら、たとえフレデリック様といえど許しません!」
イザベルは両手をグーにして胸の前に持ち上げ、ファイティングポーズのような姿勢をとった。その白々しいぶりっ子の態度に、クラウディアは咳をするふりをしてため息をついた。
(イザベルは何も反省していないわね。私がどれだけショックだったかも知らずに、平気で笑顔を向けてくる。どんな神経をしてるの? 実の妹に婚約者を奪われた気持ちを考えたことがあって? ああ……許せない)
***
式に参加した貴族たちは、クラウディアの物言わぬ様子をむしろ威厳ある姿として捉えていた。将来の王妃があまりにも立派であることに涙する者さえいた。
そんな中、色めきだったフレデリックはクラウディアにささやく。
「クラウディア……疲れているかもしれないが……今夜僕の部屋に来てくれないか? 時間が来たら、使いをやるよ。ずっと話したくてしかたなかった」
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