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公爵令嬢クラウディアと王国第一王子フレデリックの結婚式当日。
フレデリックは落ち着かないでいた。三か月前から急に面会できなくなった婚約者クラウディアを心配していたからである。もともと病弱だと聞いていたものの、肺の調子が悪いと報告を受けていて、無事に結婚できるか半信半疑だった。
婚約が決まった二年前、フレデリックは相手としてイザベルを選ぶこともできた。しかしフレデリックは実際に姉妹と顔合わせし、妻にするならクラウディアだと確信していた。クラウディアの美貌はもちろんのこと、聡明さ、落ち着き、話し方など、品があって素晴らしいという印象を持っていた。アルトゥール公爵(姉妹の父親)から、健康的で快活なイザベルをとすすめられもしたが、拒否した。フレデリックの中でクラウディアの評価は高かったのだった。
しかし、姉の婚約に納得しなかったのがイザベル。フレデリックに選ばれなかったという屈辱と、次期王妃になるであろう姉への嫉妬で押しつぶされそうだった。加えて、もともとが性に奔放な性格で、他人の男を奪うことにもっぱら快感を感じていた。身体の女性的魅力が姉より勝っているという自信もあったため、フレデリックの婚約相手が姉に決まったとたん、彼を落とす算段を立て始めた。
フレデリックはフレデリックで、隙のある男だった。王族にありがちな人間不信に加え、年頃の男にありがちな性欲を持て余し、正式に結婚するまでは関係を持たないと主張するクラウディアの考えに理解を示しつつも、恋の刺激・背徳の誘惑を捨てきれなかった。結婚をすれば恋愛をすることは叶わないと強迫観念のように思っていたため、独身の焦りもあった。そこにイザベルという近い将来の義妹が現れたことで、青年の心が許されぬ恋に焦がされてしまった。イザベルとは互いに本気にすることはないと割り切れる気がした。その油断が軽率な行動を生み出していたのだった。
ウェディングドレスを着たクラウディアが式場に姿を見せる。
フレデリックは彼女の息をのむような透明感に圧倒され、こんな美しい人が自分の妻になるのだという喜びに満ちた。そして、雲一つない晴天の空と、式場から大海原へ流れるそよ風とが祝福してくれているように思えた。
(やっぱり、体調が悪かっただけなんだ。無事に式に来てくれて本当によかった。僕はこれからクラウディアを最愛の妻として守っていくんだ!)
馬車から降り立ったクラウディアに釘づけとなり、脳天気な浮気男フレデリックは足早に迎えに行く。駆け出したいという気持ちと、すぐにでも抱きしめたいという気持ちとが重なり合う。
「クラウディア、久しぶりだね! 元気になってくれてよかった。今日の君は世界で一番美しいよ。君に会いたくて会いたくて……」
フレデリックのほっとした笑顔とは対照的に、クラウディアは無表情だった。彼とは目も合わせず、返事もしない。ウェディングドレスの衣ずれの音だけが虚しく二人の間を行き来した。
(クラウディア……どうしたんだ? まだ体調がよくないのか? あの優しく慎ましやかな笑顔を見せてくれ!)
そしてフレデリックはクラウディアに手を差し伸べ、「さあ、みんなが僕たちの結婚を祝ってくれる。一緒に行こう」と言ったが……
フレデリックは落ち着かないでいた。三か月前から急に面会できなくなった婚約者クラウディアを心配していたからである。もともと病弱だと聞いていたものの、肺の調子が悪いと報告を受けていて、無事に結婚できるか半信半疑だった。
婚約が決まった二年前、フレデリックは相手としてイザベルを選ぶこともできた。しかしフレデリックは実際に姉妹と顔合わせし、妻にするならクラウディアだと確信していた。クラウディアの美貌はもちろんのこと、聡明さ、落ち着き、話し方など、品があって素晴らしいという印象を持っていた。アルトゥール公爵(姉妹の父親)から、健康的で快活なイザベルをとすすめられもしたが、拒否した。フレデリックの中でクラウディアの評価は高かったのだった。
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ウェディングドレスを着たクラウディアが式場に姿を見せる。
フレデリックは彼女の息をのむような透明感に圧倒され、こんな美しい人が自分の妻になるのだという喜びに満ちた。そして、雲一つない晴天の空と、式場から大海原へ流れるそよ風とが祝福してくれているように思えた。
(やっぱり、体調が悪かっただけなんだ。無事に式に来てくれて本当によかった。僕はこれからクラウディアを最愛の妻として守っていくんだ!)
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「クラウディア、久しぶりだね! 元気になってくれてよかった。今日の君は世界で一番美しいよ。君に会いたくて会いたくて……」
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(クラウディア……どうしたんだ? まだ体調がよくないのか? あの優しく慎ましやかな笑顔を見せてくれ!)
そしてフレデリックはクラウディアに手を差し伸べ、「さあ、みんなが僕たちの結婚を祝ってくれる。一緒に行こう」と言ったが……
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