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「フィリップはおそらく、お前に劣等感を抱いていたんじゃなかろうか。結婚してすぐに家が没落し、浮いたことをする間もなく、仕事だけをしてきた。言い訳にはならんだろうが、恋も女も知らない男なんだよ。貴族に真面目なやつは少ないからな、相対的に出世できたが、それもお前の支えのおかげ……。フィリップは自分の力を確認したくて、自分で手に入れたものがほしくて、あの訳のわからん愛人を連れてきたんじゃないか」

「私が夫を支えたことが、夫の仇になっていたということでしょうか?」

「それは違う。違うが……フィリップという男は想像以上に自尊心や支配心の強い男だったんだな。だからカフェで働く平民の女を連れてきたんだろう。哀れな男だ。さらなる高み、さらなる栄光に向けて歩む覚悟ができなかったんだな」

「お父様……私はどうすればよかったのでしょうか? 夫のしたいようにさせ、私自身は奥に引っ込んでいたらよかったのでしょうか?」

父は静かに首を横に振り、微笑みを浮かべた。
「お前は最高の仕事をした。外国との交渉も、疫病の沈静化も、お前の貢献度は計り知れない。国王陛下はじめ、王家がお前を認めているのだ。そしてお前には新しい話がある――」

「……何でしょうか?」

「去年、不幸なことに王太子妃様が疫病でお亡くなりになったな」

「はい。もちろん存じております」

「お前が王太子妃にならないかという話がきている」

私は耳を疑った。
「え……!? 私が王太子妃……?」
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