浮気をする伯爵様、負けを認めてください。不誠実な男は嫌いです。

Hibah

文字の大きさ
上 下
12 / 20

12

しおりを挟む
フランケンは頭を下げ「申し訳ありません」と繰り返した。

レオンハルトがもう一発フランケンを叩こうとしていたので、私が間に入った。

「暴力はやめて! ださいわよ」

レオンハルトのことを睨んでやった。口で言えばいいのに、どうして叩くのかしら。

頬をおさえるフランケンは「いいのです、エリーゼ様。わたしが悪いのです」と弱々しく言った。その声を聞いて、私はなおのことフランケンを守らなければと思った。

「私からフランケンを裏庭に誘ったのよ! 文句があるわけ? あなたは女とイチャイチャしてなさいよ」

レオンハルトはたじろいだ。
さっきまでの自信満々な表情はどこかにいったみたい。

「エリーゼ……君のことはいいんだ。僕はフランケンを責めている! どいてくれ!」

「どくわけないでしょ? 私はね、フランケンと一緒にいたいの。あなたといるより百倍楽しいわよ」

レオンハルトは「え……」と声をもらし、縮こまった。私の目を見なくなって、くちびるが震えている。

ざまぁみろ。あなたになびかない女だっているのよ。

レオンハルトはフランケンを指差して「こんなブサイクの何がいいんだ。少し頭がいいだけの怪物だぞ」と言った。”怪物だぞ”の語尾は震えていて、消え入るような声だった。

「自分で自分の従者を怪物呼ばわりするなんて、最低ね。恥を知りなさい。フランケンは怪物なんかじゃないわ。優しくて、物知りで、誰よりもあなたのことを考えているのよ」

私は再びフランケンの手を握って引っ張った。
「ついてきなさい。レオンハルトは置いていきましょう」と言うと、フランケンは「いえ……だめですよ……」と言いながら私についてきた。フランケンの困った表情でさえ、今の私には愛しく感じる。

振り返ると、レオンハルトはその場でうつむいて立ち尽くし、わなわなと屈辱に震えているようだった。婚約者の気持ちを従者に取られて、どんな気持ちかしら? あなたは私のことを何とも思っていないのだろうけど、従者に婚約者の気持ちを奪われるのは、プライドが許さないわよね? つまらない男のプライドをずたずたにするって、なんて気分がいいのかしら!



中庭に戻ったあと、しばらくしてレオンハルトもトボトボと中庭に帰ってきた。女たちはレオンハルトを歓迎していたけど、レオンハルトは落ち込んでいるようで、すぐに帰る支度をした。

焦ってレオンハルトに駆け寄るフランケン。
レオンハルトは
「近づくな!」
と中庭に響き渡るような怒鳴り声をあげる。

みんながぎょっとした目でレオンハルトに注目した。レオンハルトが怒っているところなんて、ほとんどの人は見たことがないだろう。

いい気味だわ。こうしてあの男の薄っぺらさが広まって、誰にも相手されなくなったらいいのよ。

レオンハルトの暗い顔に気づいたフレデリカが「エリーゼ。あなた何したの!? フランケンと裏庭に行ってたみたいだけど」とたずねてきた。

「勘違い男に真実を告げてやっただけ。フランケンは素敵な男性だったわよ」

「レオンハルト様……かわいそう……」

フレデリカがレオンハルトの小さくなっていく後ろ姿を眺めながらこう言ったので、私は「どこがよ」と突き放した。




今日の出来事は、今日一日のこととして終わるはずだった。でも、日々が過ぎ去っていっても……四つ葉のクローバーとともにいるフランケンの横顔が、私の脳裏に焼き付いて離れなかった。

不意に生じてしまったこの燃えるような気持ちをきっかけに、レオンハルト、私、フランケンの三人は、新たな事件へ身を埋めていくのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。

百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」 私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。 この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。 でも、決して私はふしだらなんかじゃない。 濡れ衣だ。 私はある人物につきまとわれている。 イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。 彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。 「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」 「おやめください。私には婚約者がいます……!」 「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」 愛していると、彼は言う。 これは運命なんだと、彼は言う。 そして運命は、私の未来を破壊した。 「さあ! 今こそ結婚しよう!!」 「いや……っ!!」 誰も助けてくれない。 父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。 そんなある日。 思いがけない求婚が舞い込んでくる。 「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」 ランデル公爵ゴトフリート閣下。 彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。 これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

エデルガルトの幸せ

よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。 学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。 彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。 全5話。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...