4 / 20
4
しおりを挟む
「婚約破棄なんていう提案は却下だな。レオンハルトと結婚しろ」
お茶会の話を聞いたお父様はこう言った。
想像以上に門前払いだった。
「どうしてですかお父様。レオンハルトは浮気もしたし、私のことを好きなわけでもないのですよ。お父様はそんな男と娘を結婚させて嫌じゃないんですか?」
お父様は微笑んだ。
「嫌とか嫌じゃないとかではないんだ。これは家と家との問題だ。お前の幸せとは関係ない」
「……そんなのひどすぎます。私だって一人の人間ですよ」
お父様は声をあげて笑った。
「ははははは! お前はまだまだ子どもだなあ! 結婚だけが幸せだと思っているのか?」
「だけとは言ってないです」
「じゃあなぜこだわる? お前も形だけは結婚しておいて、あとは好きにすればいいではないか。実際、浮気をしたレオンハルトのほうはお前との婚約破棄を望んでいないのだろう? やつはわかってるんだよ」
「夫婦とは、互いに愛し合い、支え合うものではないのですか?」
「そういう夫婦もいるだろうがな、そうじゃなくてもいい。レオンハルトのことは放っておいて、お前はお前の幸せを追い求めるといい。レオンハルトがそんなに好きだったのか?」
「いえ……別にそういうわけでは……」
「だったら、なおさらどうでもいいではないか。レオンハルトは女たらしではあるが優秀なやつだ。結婚しておけ」
確かに、私はレオンハルトが好きだったわけではない。でも、結婚して夫婦になれば、愛さなくてはいけない存在なのだと覚悟していた。愛するのが自分の義務だと思っていた。相手にだって、同じものを求めてしまう。たとえ私という存在が望まぬ妻だったとしても、夫は夫で妻を愛する。そういうものじゃないの?
「結婚さえすれば……あとは自由なのですか……」
ふと、フレデリカを思い出した。彼女も結婚してまだ半年なのに、恋の話をしていた。夫の話をするときといえば、愚痴や悪口だけ……。
お父様は笑顔を崩さなかった。
「なにをやってもいいというわけではないが……結婚とはそういうものだ。好きどうしで結婚する夫婦も中にはいるが、そのうち冷める。恋のために結婚した夫婦というのは脆いものだよ。その点、家どうしの結婚はそもそも家の都合なのだから、愛なんぞに期待しない。だから生活は安定して家が繁栄するし、結果生まれた心の余裕がその夫婦なりの愛のかたちをつくっていくものなのだ」
饒舌になったお父様はワインを開けて、グラスに注いだ。「話は以上だ」と言うと、剣を磨き始めたので、私はお父様の部屋を出た。
翌日、私はフレデリカとチェスをする約束をしていた。
今度はフレデリカが私の家に来た。
紅茶とお菓子を食べながら、チェスの駒を動かす。黙ってチェスをしている時間もあるけど、大体は途中でお互い話し始め、チェスはついでとなる。
私から口火を切った。
レオンハルトとの一部始終やお父様との話をした。いつになく興味津々で前のめりに聞いてくれたフレデリカは、私にこう言った。
「そんなに納得いかないなら……レオンハルト様に仕返ししてみない?」
お茶会の話を聞いたお父様はこう言った。
想像以上に門前払いだった。
「どうしてですかお父様。レオンハルトは浮気もしたし、私のことを好きなわけでもないのですよ。お父様はそんな男と娘を結婚させて嫌じゃないんですか?」
お父様は微笑んだ。
「嫌とか嫌じゃないとかではないんだ。これは家と家との問題だ。お前の幸せとは関係ない」
「……そんなのひどすぎます。私だって一人の人間ですよ」
お父様は声をあげて笑った。
「ははははは! お前はまだまだ子どもだなあ! 結婚だけが幸せだと思っているのか?」
「だけとは言ってないです」
「じゃあなぜこだわる? お前も形だけは結婚しておいて、あとは好きにすればいいではないか。実際、浮気をしたレオンハルトのほうはお前との婚約破棄を望んでいないのだろう? やつはわかってるんだよ」
「夫婦とは、互いに愛し合い、支え合うものではないのですか?」
「そういう夫婦もいるだろうがな、そうじゃなくてもいい。レオンハルトのことは放っておいて、お前はお前の幸せを追い求めるといい。レオンハルトがそんなに好きだったのか?」
「いえ……別にそういうわけでは……」
「だったら、なおさらどうでもいいではないか。レオンハルトは女たらしではあるが優秀なやつだ。結婚しておけ」
確かに、私はレオンハルトが好きだったわけではない。でも、結婚して夫婦になれば、愛さなくてはいけない存在なのだと覚悟していた。愛するのが自分の義務だと思っていた。相手にだって、同じものを求めてしまう。たとえ私という存在が望まぬ妻だったとしても、夫は夫で妻を愛する。そういうものじゃないの?
「結婚さえすれば……あとは自由なのですか……」
ふと、フレデリカを思い出した。彼女も結婚してまだ半年なのに、恋の話をしていた。夫の話をするときといえば、愚痴や悪口だけ……。
お父様は笑顔を崩さなかった。
「なにをやってもいいというわけではないが……結婚とはそういうものだ。好きどうしで結婚する夫婦も中にはいるが、そのうち冷める。恋のために結婚した夫婦というのは脆いものだよ。その点、家どうしの結婚はそもそも家の都合なのだから、愛なんぞに期待しない。だから生活は安定して家が繁栄するし、結果生まれた心の余裕がその夫婦なりの愛のかたちをつくっていくものなのだ」
饒舌になったお父様はワインを開けて、グラスに注いだ。「話は以上だ」と言うと、剣を磨き始めたので、私はお父様の部屋を出た。
翌日、私はフレデリカとチェスをする約束をしていた。
今度はフレデリカが私の家に来た。
紅茶とお菓子を食べながら、チェスの駒を動かす。黙ってチェスをしている時間もあるけど、大体は途中でお互い話し始め、チェスはついでとなる。
私から口火を切った。
レオンハルトとの一部始終やお父様との話をした。いつになく興味津々で前のめりに聞いてくれたフレデリカは、私にこう言った。
「そんなに納得いかないなら……レオンハルト様に仕返ししてみない?」
11
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。
百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」
私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。
この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。
でも、決して私はふしだらなんかじゃない。
濡れ衣だ。
私はある人物につきまとわれている。
イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。
彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。
「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」
「おやめください。私には婚約者がいます……!」
「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」
愛していると、彼は言う。
これは運命なんだと、彼は言う。
そして運命は、私の未来を破壊した。
「さあ! 今こそ結婚しよう!!」
「いや……っ!!」
誰も助けてくれない。
父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。
そんなある日。
思いがけない求婚が舞い込んでくる。
「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」
ランデル公爵ゴトフリート閣下。
彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。
これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

エデルガルトの幸せ
よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。
学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。
彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。
全5話。

そのご令嬢、婚約破棄されました。
玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。
婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。
その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。
よくある婚約破棄の、一幕。
※小説家になろう にも掲載しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド


聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。

妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる