浮気をする伯爵様、負けを認めてください。不誠実な男は嫌いです。

Hibah

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「婚約破棄なんていう提案は却下だな。レオンハルトと結婚しろ」

お茶会の話を聞いたお父様はこう言った。
想像以上に門前払いだった。

「どうしてですかお父様。レオンハルトは浮気もしたし、私のことを好きなわけでもないのですよ。お父様はそんな男と娘を結婚させて嫌じゃないんですか?」

お父様は微笑んだ。
「嫌とか嫌じゃないとかではないんだ。これは家と家との問題だ。お前の幸せとは関係ない」

「……そんなのひどすぎます。私だって一人の人間ですよ」

お父様は声をあげて笑った。
「ははははは! お前はまだまだ子どもだなあ! 結婚だけが幸せだと思っているのか?」

「だけとは言ってないです」

「じゃあなぜこだわる? お前も形だけは結婚しておいて、あとは好きにすればいいではないか。実際、浮気をしたレオンハルトのほうはお前との婚約破棄を望んでいないのだろう? やつはわかってるんだよ」

「夫婦とは、互いに愛し合い、支え合うものではないのですか?」

「そういう夫婦もいるだろうがな、そうじゃなくてもいい。レオンハルトのことは放っておいて、お前はお前の幸せを追い求めるといい。レオンハルトがそんなに好きだったのか?」

「いえ……別にそういうわけでは……」

「だったら、なおさらどうでもいいではないか。レオンハルトは女たらしではあるが優秀なやつだ。結婚しておけ」

確かに、私はレオンハルトが好きだったわけではない。でも、結婚して夫婦になれば、愛さなくてはいけない存在なのだと覚悟していた。愛するのが自分の義務だと思っていた。相手にだって、同じものを求めてしまう。たとえ私という存在が望まぬ妻だったとしても、夫は夫で妻を愛する。そういうものじゃないの?

「結婚さえすれば……あとは自由なのですか……」

ふと、フレデリカを思い出した。彼女も結婚してまだ半年なのに、恋の話をしていた。夫の話をするときといえば、愚痴や悪口だけ……。

お父様は笑顔を崩さなかった。
「なにをやってもいいというわけではないが……結婚とはそういうものだ。好きどうしで結婚する夫婦も中にはいるが、そのうち冷める。恋のために結婚した夫婦というのはもろいものだよ。その点、家どうしの結婚はそもそも家の都合なのだから、愛なんぞに期待しない。だから生活は安定して家が繁栄するし、結果生まれた心の余裕がその夫婦なりの愛のかたちをつくっていくものなのだ」

饒舌になったお父様はワインを開けて、グラスに注いだ。「話は以上だ」と言うと、剣を磨き始めたので、私はお父様の部屋を出た。



翌日、私はフレデリカとチェスをする約束をしていた。

今度はフレデリカが私の家に来た。

紅茶とお菓子を食べながら、チェスの駒を動かす。黙ってチェスをしている時間もあるけど、大体は途中でお互い話し始め、チェスはついでとなる。

私から口火を切った。
レオンハルトとの一部始終やお父様との話をした。いつになく興味津々で前のめりに聞いてくれたフレデリカは、私にこう言った。
「そんなに納得いかないなら……レオンハルト様に仕返ししてみない?」
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