御者ファビオの恋

Hibah

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木の反応を得たファビオは、目を大きく見開いた。この日を待っていたように思った。


「木よ。なぜだ。お前は以前、人間の都合で切られてたまるかと言っていたではないか」


木は枝を揺らし続ける。その所作は悠々としていたが、かつての姿と比べると見るかげもなく衰えていた。


「その通りだ。今も考えは変わっていない。人間の都合のために何かをするつもりはない――。だが、感謝している」


「……感謝? ……なぜ? お前に何かをしてやった覚えはないぞ」


「以前、『お前は何のためにこの森で生きている?』と問うてきたな。覚えているか?」


「それがどうした」


「俺は何かのために生きているわけではなかった。考えたこともなかった。もし人間が俺を切るなら、それに抵抗することはできないだろう。与えられた体と環境で、命ある限り生きているだけの存在。ただ静かに死を待っているだけの存在だった」


「……?」


「お前と話してから、俺は生きる意味を考え始めたんだ。すると、苦しくなったよ。何の意味もないからな。生きていてもどうせいつかは枯れる。この花畑から移動したくても移動できない。こんなに苦しいとは思わなかったよ」


「そうか。苦しめるつもりはなかったよ。余計なことを言ってすまなかったな。あの時は奥様のために必死だった」


「いや、いいんだ! 聞いてほしい。この苦しみこそ俺の幸せになったんだ! 苦しみを知らなかった頃に戻れと言われても、いまさら戻れないぞ。決められた生き方をしているだけなら、苦しくなかった。今苦しいのは、俺の意志が自由だからだ! そしてその報われない意志を抱えた全身が、俺に喜びをもたらしている!」


「……木よ。君は知らないだろうが、人は誰もが苦しみから逃れようとしている。喉が渇いたら水を飲むし、飲めなければ何としてでも水を探す。水分を欲した木が地中に根を伸ばし続けるのと同じように、人間もまた苦しみから逃れようとして、また苦しみの淵に沈む。その連鎖のどこに喜びがある?」


「お前は俺の話を聞いていなかったのか? 意志を持たなければ、苦しまなくて済むだろう? 簡単なことだ。俺がかつてそうだったようにな」
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