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「すみません! 私のハンカチです!」
私がこう呼びかけて近づくと、ハンカチを手に取った男性は身を起こし、私を見ました。ブロンズの髪にすらっとした長身、整った鼻が印象的でした。
「イマバリ製のいいハンカチを使っていますね。僕も使ってるんですよ、吸水力が違います」
男性は思いのほか感じよく接してくれました。遠目から見た雰囲気では人を寄せ付けないように感じられたのですが、実際にはとても爽やかな笑顔を持つ人でした。
近づいて男性をよく見てみると、やはり身につけている衣服の品質が違います。(どこの高貴なお家の方なのだろう)と考えながら、ハンカチを受け取りました。
「そうなんですよね。小さい頃から気に入って使っています」
「よくこの丘には来るんですか? 僕は初めて来たんですよ。ここは街から近いのに人がいなくて、いい場所ですね」
「ええ、気分転換でたまに来ます」
本当はほぼ毎日来ていますが、そんなことまで言う必要はありません。
何かを察するようにして男性は微笑んでうなずくと、また石の上に寝そべり目を閉じました。
「お帰りになるのでしょう? 道中、お気をつけて」
彼は最低限のコミュニケーションをとっただけで、特に私に関心もないようでした。そしてその関心のなさが、私にとって居心地よく感じたのです。
「初めて来たとおっしゃっていましたが……閣下はどうしてここにいらしたのですか?」
身分もわからないため、私は当たり障りのない呼称で彼に問いかけました。彼は質問されると、目をぱちっと開け、意外そうな顔をしながら私に答えました。
「……僕も……気分転換ですよ。どこかもっと遠くに行きたい気持ちもありますが、そうするわけにもいきませんので……。適当に歩いていたら、ここを見つけました」
彼の顔は憂いを帯びていて、疲れているようにも見えました。しかし話している間は常に微笑をたたえていて、誠実な人柄が感じられます。
「私も……同じような気持ちです。実は毎日のように親にお見合いの話をされるのですが、それがどうも慣れなくて……」
お見合いというデリケートな問題を自ら口にしてしまったことにハッとしましたが、むしろそれは行きずりの人だからこそ出せる気安さだったと思います。
彼は沈んだ調子でいる私を気遣ってか、起き上がって私の目を見つめました。そして頬をぽりぽりとかき、リラックスした様子で長い足を組みました。
「奇遇ですね。僕も同じような状況にいるんです。親から結婚しろと言われ、次から次へと女性が紹介されます」
「男性にとっては素晴らしいことではありませんか? その中から好みの女性を選べばよいだけです」
彼は顔の前で手を横に振り、「いやいや、そんな簡単な話じゃないですよ」と笑いました。
「僕も困っているんです。家柄が少しいいばかりに……。お見合いも何度かしたことがありますが、みんなそれぞれの欲望に取り憑かれているだけです」
「欲望というと?」
「ええ。ある者は見栄のために、ある者は経済力のために、ある者は贅沢したいがために、お見合いに臨んで来るのです。恋も結婚も……馬鹿みたいだ」
「――お気持ちわかります。私も家の見栄のために嫁がなければならないのが、心底嫌なんです」
「でも結婚しないと……性格に問題があるのではないかと噂されて、もっと肩身を狭くさせられる。一時の気の迷いや、欲望に取り憑かれて結婚したような大半の連中に、どうしてごちゃごちゃ言われなければならないんだ!」
彼のことを大人しい人だと思っていたのですが、だんだん熱が上がってくる彼を見て、その見方が間違っていると気づきました。初対面の私にも気の置けない話をしてきて、可笑しくなりました。
「おっしゃるとおりですね。”先輩方”は結婚して、何を手に入れたと言うのでしょう? 私は結婚に何も求めていません。ただ周りから『結婚しろ』と言われたくないだけ」
「そのとおり!」
彼が声を張り上げて同意したあと、私たちは互いの顔を見て笑いました。そのあとも「結婚をいかに回避するか」というさまざまなシミュレーションをして、盛り上がったのでした。
私がこう呼びかけて近づくと、ハンカチを手に取った男性は身を起こし、私を見ました。ブロンズの髪にすらっとした長身、整った鼻が印象的でした。
「イマバリ製のいいハンカチを使っていますね。僕も使ってるんですよ、吸水力が違います」
男性は思いのほか感じよく接してくれました。遠目から見た雰囲気では人を寄せ付けないように感じられたのですが、実際にはとても爽やかな笑顔を持つ人でした。
近づいて男性をよく見てみると、やはり身につけている衣服の品質が違います。(どこの高貴なお家の方なのだろう)と考えながら、ハンカチを受け取りました。
「そうなんですよね。小さい頃から気に入って使っています」
「よくこの丘には来るんですか? 僕は初めて来たんですよ。ここは街から近いのに人がいなくて、いい場所ですね」
「ええ、気分転換でたまに来ます」
本当はほぼ毎日来ていますが、そんなことまで言う必要はありません。
何かを察するようにして男性は微笑んでうなずくと、また石の上に寝そべり目を閉じました。
「お帰りになるのでしょう? 道中、お気をつけて」
彼は最低限のコミュニケーションをとっただけで、特に私に関心もないようでした。そしてその関心のなさが、私にとって居心地よく感じたのです。
「初めて来たとおっしゃっていましたが……閣下はどうしてここにいらしたのですか?」
身分もわからないため、私は当たり障りのない呼称で彼に問いかけました。彼は質問されると、目をぱちっと開け、意外そうな顔をしながら私に答えました。
「……僕も……気分転換ですよ。どこかもっと遠くに行きたい気持ちもありますが、そうするわけにもいきませんので……。適当に歩いていたら、ここを見つけました」
彼の顔は憂いを帯びていて、疲れているようにも見えました。しかし話している間は常に微笑をたたえていて、誠実な人柄が感じられます。
「私も……同じような気持ちです。実は毎日のように親にお見合いの話をされるのですが、それがどうも慣れなくて……」
お見合いというデリケートな問題を自ら口にしてしまったことにハッとしましたが、むしろそれは行きずりの人だからこそ出せる気安さだったと思います。
彼は沈んだ調子でいる私を気遣ってか、起き上がって私の目を見つめました。そして頬をぽりぽりとかき、リラックスした様子で長い足を組みました。
「奇遇ですね。僕も同じような状況にいるんです。親から結婚しろと言われ、次から次へと女性が紹介されます」
「男性にとっては素晴らしいことではありませんか? その中から好みの女性を選べばよいだけです」
彼は顔の前で手を横に振り、「いやいや、そんな簡単な話じゃないですよ」と笑いました。
「僕も困っているんです。家柄が少しいいばかりに……。お見合いも何度かしたことがありますが、みんなそれぞれの欲望に取り憑かれているだけです」
「欲望というと?」
「ええ。ある者は見栄のために、ある者は経済力のために、ある者は贅沢したいがために、お見合いに臨んで来るのです。恋も結婚も……馬鹿みたいだ」
「――お気持ちわかります。私も家の見栄のために嫁がなければならないのが、心底嫌なんです」
「でも結婚しないと……性格に問題があるのではないかと噂されて、もっと肩身を狭くさせられる。一時の気の迷いや、欲望に取り憑かれて結婚したような大半の連中に、どうしてごちゃごちゃ言われなければならないんだ!」
彼のことを大人しい人だと思っていたのですが、だんだん熱が上がってくる彼を見て、その見方が間違っていると気づきました。初対面の私にも気の置けない話をしてきて、可笑しくなりました。
「おっしゃるとおりですね。”先輩方”は結婚して、何を手に入れたと言うのでしょう? 私は結婚に何も求めていません。ただ周りから『結婚しろ』と言われたくないだけ」
「そのとおり!」
彼が声を張り上げて同意したあと、私たちは互いの顔を見て笑いました。そのあとも「結婚をいかに回避するか」というさまざまなシミュレーションをして、盛り上がったのでした。
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