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VSレオ
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僕の命令に従って、氷狼が飛び出す。
レオを守るように立ちふさがった火蜥蜴と、正面から衝突した。
耐久度は火蜥蜴の方が高いようで、氷狼の表面に小さな亀裂が走り、空気を震わせる重たい振動が地下室に響き渡る。
人であれば痛みで動きが鈍るけど、ゴーレムは違う。傷がついた程度では性能に影響はない。
距離を置いてから再び両者が攻撃する。
赤い鱗に覆われた尻尾と氷の爪が衝突し、部屋が崩れるんじゃないかと思うほど、大きな振動がおきた。それは一度だけではなく、何度も繰り返される。
再び火蜥蜴の尻尾が鞭のようにしなり、氷狼に向かう。回避しようと後ろに飛ぶけど、間に合わなかった。横っ腹に当たると吹き飛び、壁に衝突。
すぐに立ち上がったけど、氷狼の体にできた亀裂が大きくなり、他にも新しい傷がいくつもできていた。
僕が作った氷狼のゴーレムより確実に強い。
いや、正確に表現するのであれば少し違うか。氷狼が弱いだけなのだろう。
命令の理解度と柔軟性、戦闘能力、魔力の消費量、そのすべてが劣っているのだ。僕が作れたのはアーティファクトを真似たまがい物。劣化版ゴーレムといったと所か。
それでも現代の一般的なゴーレムより強いんだけどね。過去の人たちはどれほど高度な魔術を使っていたのか、興味が尽きないし、悪魔の脅威度がドンドン上がっていく。
と、そんなことを考えている暇はなかった。氷狼が頑張ってくれている間に、レオを倒さなければいけない。
「レオを倒して、アミーユお嬢様にかけられた魔術陣を破壊する」
「君は優秀だけど、私に勝てると思っているんですか?」
ここに来るまでに魔力を結構使ったので、まずは小手調べだ。
僕は答える代わりに手を前に出し、グローブに魔力を通す。魔術陣が浮かび上がり、間をおかずに《魔力弾》が飛び出した。
魔術文字を書かず、貴重なアーティファクトを使って放ったのだ。奇襲は成功したと思っていた。けど、レオは想像していたより強く、肉弾戦が苦手な付与師とは思えないほど、身軽な動きで回避した。
「その程度の攻撃があたると、思われたことが、屈辱です」
走り回るレオを狙って《魔力弾》を連発して攻撃を続けるけど、当たらない。思考を読まれているのか、それとも未来が予知できているのではないかと錯覚するほど、的確に避けられる。
ほら今も、急旋回して攻撃しようとした場所から離れていた。
攻撃を続けているので、反撃に転じる余裕はないみたいだけど、この状況は長く続くかないだろう。僕の魔力が尽きるほうが早そうだ。
横目でゴーレムの戦いを盗み見る。
氷狼は半壊状態だった。火蜥蜴が前足を食いちぎり、頭は半分吹き飛んでいた。透き通った氷の体は、無数のヒビが蜘蛛の巣のように刻み込まれ、触れれば崩れてしまいそうに見える。
後一撃でも攻撃が入れば、砕け散り、そして二対一の戦いに突入してしまうだろう。レオが反撃しないのは、僕の攻撃を潜り抜けられないのではなく、時間を稼いでいるだけなのかもしれない。
現状維持は悪手。レオと火蜥蜴、どちらかを先に倒す必要がある。レオは逃げに徹しているので、倒すどころか攻撃すら当てられない。アミーユお嬢様を片手で抱えているので、置き去りにすることはできない。であれば、狙いは一つか。
《魔力弾》を放ちながら、しゃがんでアミーユお嬢様を優しく床に置く。再び立ち上がると、空いた左手で魔術文字を書き始めた。
「魔力弾を放ちながら新しい魔術ですか! その器用さは驚嘆に値しますっ!」
「レオに褒められても嬉しくはないね!」
ホーミング機能をもった≪土槍≫を火蜥蜴に向かって十本放つが、驚くことにレオも同じ魔術を使って相殺した。
「ツッ!!!」
魔術が衝突した、土の欠片がほほを掠め、髪を乱す。チリチリと焼けるような痛みを感じるけど、気にはしてはいられない。
こちらに、数え切れないほどの≪魔力弾≫が一直線に飛んでくるからだ。
迎撃を試みるけど、徐々に押し込まれていく。こっちはアーティファクトを使ってノータイムで放っているのに、互角なんて信じられないッ!
「クソッ!!」
「ふはははは!! 一度に発動できる量は、私の方が上のようですねっ!!」
ダメだ。もう押し切られてしまう。足下を見ればアミーユお嬢様の幼さが抜けきれない寝顔があり、走って逃げるわけにはいかなかった。
「守りを固めるしかないか」
左手で《球状結界》の魔術文字を書くと同時に、周囲に六重の薄い膜が出現。レオの≪魔力弾≫が衝突する。間一髪だったが、間に合った。半球状の結界はそう簡単には破壊できないけど、前回は上空から発生した《光柱》でピンチを招いてしまった。
このまま亀のように篭っていたら同じように、致命的な一撃を受けるのは間違いなく、反撃に転じなければいけない。
今回は僕がやり返す番だ。
結界を維持しつつ攻撃をするため、左手で魔術陣を描く。
その直後、上空から発生した《光柱》がレオを襲うと、強烈な光によって視界が白く塗りつぶされた。
「性格が悪いですね。公爵家の家庭教師としては失格です」
必殺のタイミングだったはずだ。
でも、視界が戻った僕の目には怪我一つ負っていないレオがいる。
不審に思い観察すると、身体に火蜥蜴の尻尾が巻きついていた。
「ゴーレムに助けられたのか」
伸びるとは思いもしなかった。
砕け散ってしまった氷狼を見ると、自分の能力のなさを実感して、悲しい気持ちになる。
そこまでの性能差があれば、一対一で戦えば負けてしまうのもうなずける。むしろ、よくここまで時間を稼いでくれたと、感謝の気持ちすら浮かんでくるほどだ。
「情勢は決しました。それが分からないほど、あなたは愚鈍ではないですよね?」
上から見下ろすような発言は変わらずか。
ゴーレムが加われば、勝ち目はほぼない。
魔力がもっと残っていれば、刺青の力を使ったんだけど、あれは燃費が悪いからな。このままだと使うのは難しそうだ。
戦わずに逃げ出せば、その隙に召喚の魔術が発動して、アミーユお嬢様の命の灯火は消えてしまう。
降伏しても僕の扱いが変わるだけで、結論は一緒だ。
「……ふぅ」
最後まで戦おう。一度目の人生を含めれば僕は十分生きたのだ。
後悔がないといえばうそになるけど、人生というものは堪能した。
生まれ変わったときは「なぜ自分が?」と戸惑ったときもあったけど、きっと、このときのためだったのだろう。
ここが僕の命の使い道だ。
一瞬の輝きのために、全てを捧げる覚悟はできた。
弱い僕はアミーユお嬢様を見てしまうと、まだ生きたいと思ってしまう。
レオだけを、まっすぐ見つめることにした。
「僕は、まだ戦えるよ」
「ほぅ。まだ戦意を保ちますか」
「もちろん。生徒を守るのが家庭教師の役目ですから」
「公爵家を恨むことはあっても、命をかけるほどの恩があるとは思えませんが?」
僕の両親のことを指しているのだろう。
国の上層部は何か知っている。その確信は得られたけど、ちょっと遅かったかな。
残念だけど、真相の究明は諦めるよ。向こうで本人に聞くことにするさ。
「公爵家は関係ない。アミーユお嬢様だから助けるんだッ」
球状結界を解除すると、両手で魔術文字を書く。短文なので数秒で終わった。
原理はアミーユお嬢様に使われている魔術と似たようなも。もしくはこの部屋にある血で満たされた魔術陣か。
人の命を魔力に変換する。
人生を諦めることで使える外道技であり、だからこそ強力だ。
「死ぬ気、ですか」
禁術を使っているレオは、当然、僕が何をするのか、すぐに分かったようだ。
「覚悟しろよ、僕の命は安くないぞ」
身体が熱を帯びる。脳内には全身がきしむ音が鳴り響く。
削り取られ、魔力に変換される、魂の悲鳴だ。
痛みで意識を保つのが辛い。
でも、魔術を止めるわけにはいかない。
「最後まで私に刃向かうとは愚かな。所詮、平民には理解できない、高次元の話でしたかッ!」
僕の魔力に反応して刺青がまぶしく光る。
魔力は満タンどころか、オーバーしているので、ようやく全力が出せる。
「煩いよ。さっさと、死んで」
瞬間移動とも言えるほどの速さで、レオに向かって走り出した。
レオを守るように立ちふさがった火蜥蜴と、正面から衝突した。
耐久度は火蜥蜴の方が高いようで、氷狼の表面に小さな亀裂が走り、空気を震わせる重たい振動が地下室に響き渡る。
人であれば痛みで動きが鈍るけど、ゴーレムは違う。傷がついた程度では性能に影響はない。
距離を置いてから再び両者が攻撃する。
赤い鱗に覆われた尻尾と氷の爪が衝突し、部屋が崩れるんじゃないかと思うほど、大きな振動がおきた。それは一度だけではなく、何度も繰り返される。
再び火蜥蜴の尻尾が鞭のようにしなり、氷狼に向かう。回避しようと後ろに飛ぶけど、間に合わなかった。横っ腹に当たると吹き飛び、壁に衝突。
すぐに立ち上がったけど、氷狼の体にできた亀裂が大きくなり、他にも新しい傷がいくつもできていた。
僕が作った氷狼のゴーレムより確実に強い。
いや、正確に表現するのであれば少し違うか。氷狼が弱いだけなのだろう。
命令の理解度と柔軟性、戦闘能力、魔力の消費量、そのすべてが劣っているのだ。僕が作れたのはアーティファクトを真似たまがい物。劣化版ゴーレムといったと所か。
それでも現代の一般的なゴーレムより強いんだけどね。過去の人たちはどれほど高度な魔術を使っていたのか、興味が尽きないし、悪魔の脅威度がドンドン上がっていく。
と、そんなことを考えている暇はなかった。氷狼が頑張ってくれている間に、レオを倒さなければいけない。
「レオを倒して、アミーユお嬢様にかけられた魔術陣を破壊する」
「君は優秀だけど、私に勝てると思っているんですか?」
ここに来るまでに魔力を結構使ったので、まずは小手調べだ。
僕は答える代わりに手を前に出し、グローブに魔力を通す。魔術陣が浮かび上がり、間をおかずに《魔力弾》が飛び出した。
魔術文字を書かず、貴重なアーティファクトを使って放ったのだ。奇襲は成功したと思っていた。けど、レオは想像していたより強く、肉弾戦が苦手な付与師とは思えないほど、身軽な動きで回避した。
「その程度の攻撃があたると、思われたことが、屈辱です」
走り回るレオを狙って《魔力弾》を連発して攻撃を続けるけど、当たらない。思考を読まれているのか、それとも未来が予知できているのではないかと錯覚するほど、的確に避けられる。
ほら今も、急旋回して攻撃しようとした場所から離れていた。
攻撃を続けているので、反撃に転じる余裕はないみたいだけど、この状況は長く続くかないだろう。僕の魔力が尽きるほうが早そうだ。
横目でゴーレムの戦いを盗み見る。
氷狼は半壊状態だった。火蜥蜴が前足を食いちぎり、頭は半分吹き飛んでいた。透き通った氷の体は、無数のヒビが蜘蛛の巣のように刻み込まれ、触れれば崩れてしまいそうに見える。
後一撃でも攻撃が入れば、砕け散り、そして二対一の戦いに突入してしまうだろう。レオが反撃しないのは、僕の攻撃を潜り抜けられないのではなく、時間を稼いでいるだけなのかもしれない。
現状維持は悪手。レオと火蜥蜴、どちらかを先に倒す必要がある。レオは逃げに徹しているので、倒すどころか攻撃すら当てられない。アミーユお嬢様を片手で抱えているので、置き去りにすることはできない。であれば、狙いは一つか。
《魔力弾》を放ちながら、しゃがんでアミーユお嬢様を優しく床に置く。再び立ち上がると、空いた左手で魔術文字を書き始めた。
「魔力弾を放ちながら新しい魔術ですか! その器用さは驚嘆に値しますっ!」
「レオに褒められても嬉しくはないね!」
ホーミング機能をもった≪土槍≫を火蜥蜴に向かって十本放つが、驚くことにレオも同じ魔術を使って相殺した。
「ツッ!!!」
魔術が衝突した、土の欠片がほほを掠め、髪を乱す。チリチリと焼けるような痛みを感じるけど、気にはしてはいられない。
こちらに、数え切れないほどの≪魔力弾≫が一直線に飛んでくるからだ。
迎撃を試みるけど、徐々に押し込まれていく。こっちはアーティファクトを使ってノータイムで放っているのに、互角なんて信じられないッ!
「クソッ!!」
「ふはははは!! 一度に発動できる量は、私の方が上のようですねっ!!」
ダメだ。もう押し切られてしまう。足下を見ればアミーユお嬢様の幼さが抜けきれない寝顔があり、走って逃げるわけにはいかなかった。
「守りを固めるしかないか」
左手で《球状結界》の魔術文字を書くと同時に、周囲に六重の薄い膜が出現。レオの≪魔力弾≫が衝突する。間一髪だったが、間に合った。半球状の結界はそう簡単には破壊できないけど、前回は上空から発生した《光柱》でピンチを招いてしまった。
このまま亀のように篭っていたら同じように、致命的な一撃を受けるのは間違いなく、反撃に転じなければいけない。
今回は僕がやり返す番だ。
結界を維持しつつ攻撃をするため、左手で魔術陣を描く。
その直後、上空から発生した《光柱》がレオを襲うと、強烈な光によって視界が白く塗りつぶされた。
「性格が悪いですね。公爵家の家庭教師としては失格です」
必殺のタイミングだったはずだ。
でも、視界が戻った僕の目には怪我一つ負っていないレオがいる。
不審に思い観察すると、身体に火蜥蜴の尻尾が巻きついていた。
「ゴーレムに助けられたのか」
伸びるとは思いもしなかった。
砕け散ってしまった氷狼を見ると、自分の能力のなさを実感して、悲しい気持ちになる。
そこまでの性能差があれば、一対一で戦えば負けてしまうのもうなずける。むしろ、よくここまで時間を稼いでくれたと、感謝の気持ちすら浮かんでくるほどだ。
「情勢は決しました。それが分からないほど、あなたは愚鈍ではないですよね?」
上から見下ろすような発言は変わらずか。
ゴーレムが加われば、勝ち目はほぼない。
魔力がもっと残っていれば、刺青の力を使ったんだけど、あれは燃費が悪いからな。このままだと使うのは難しそうだ。
戦わずに逃げ出せば、その隙に召喚の魔術が発動して、アミーユお嬢様の命の灯火は消えてしまう。
降伏しても僕の扱いが変わるだけで、結論は一緒だ。
「……ふぅ」
最後まで戦おう。一度目の人生を含めれば僕は十分生きたのだ。
後悔がないといえばうそになるけど、人生というものは堪能した。
生まれ変わったときは「なぜ自分が?」と戸惑ったときもあったけど、きっと、このときのためだったのだろう。
ここが僕の命の使い道だ。
一瞬の輝きのために、全てを捧げる覚悟はできた。
弱い僕はアミーユお嬢様を見てしまうと、まだ生きたいと思ってしまう。
レオだけを、まっすぐ見つめることにした。
「僕は、まだ戦えるよ」
「ほぅ。まだ戦意を保ちますか」
「もちろん。生徒を守るのが家庭教師の役目ですから」
「公爵家を恨むことはあっても、命をかけるほどの恩があるとは思えませんが?」
僕の両親のことを指しているのだろう。
国の上層部は何か知っている。その確信は得られたけど、ちょっと遅かったかな。
残念だけど、真相の究明は諦めるよ。向こうで本人に聞くことにするさ。
「公爵家は関係ない。アミーユお嬢様だから助けるんだッ」
球状結界を解除すると、両手で魔術文字を書く。短文なので数秒で終わった。
原理はアミーユお嬢様に使われている魔術と似たようなも。もしくはこの部屋にある血で満たされた魔術陣か。
人の命を魔力に変換する。
人生を諦めることで使える外道技であり、だからこそ強力だ。
「死ぬ気、ですか」
禁術を使っているレオは、当然、僕が何をするのか、すぐに分かったようだ。
「覚悟しろよ、僕の命は安くないぞ」
身体が熱を帯びる。脳内には全身がきしむ音が鳴り響く。
削り取られ、魔力に変換される、魂の悲鳴だ。
痛みで意識を保つのが辛い。
でも、魔術を止めるわけにはいかない。
「最後まで私に刃向かうとは愚かな。所詮、平民には理解できない、高次元の話でしたかッ!」
僕の魔力に反応して刺青がまぶしく光る。
魔力は満タンどころか、オーバーしているので、ようやく全力が出せる。
「煩いよ。さっさと、死んで」
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