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我々にそのような蔑称を使うな!
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「お嬢ちゃん! 一人で突っ走るな!」
今度は敵が三人もいるのだ。共闘しなければ負けると思い、置いてけぼりにされたボンドの護衛――プルベルが走り出す。
戦いは既に始まっていて、メーデゥは二人相手に互角以上の戦いをしている。プルベルはハラディンだけでなく背の低い女性すらも己より強いかもしれないと気づく。
裏商人ごときが雇えるレベルではない。
どうして仲間になっているのか気になるが、詮索すれば今は頼もしい味方がこちらに牙をむくかもしれない。
首を横に振って雑念を振り払うと、プルベルはメーデゥの背後を狙っている襲撃犯に斬りかかる。奇襲ではあったが気づかれてしまい、短槍で受け止められてしまった。
押し込もうとして体重をかけて顔を近づける。
離れていたときには気づけなかったが、敵がまとっている霊力の色が二色だ。
この特徴を持つ存在は一つだけである。
「もしかしてお前も魔物付きか!?」
「我々にそのような蔑称を使うな」
霊力がたかまった襲撃犯は、短槍を振るって剣ごとプルベルを吹き飛ばした。転倒まではしなかったが、バランスを崩して足が止まる。
間を置かずに放たれた突きをかわすため、仰向けに倒れると目の前に穂先が通り過ぎた。
数秒遅れていたら貫かれていただろう。
短槍を引き戻した襲撃犯は、再び突きを放とうとする。
「アブねぇ!!」
立ち上がる暇なんて与えられず、横に転がる。二度、三度と攻撃がきたので回転数も増える。
目が回りそうだ。正常な平衡感覚は失われてしまい、立ち上がったとしてもしばらくはフラつくことだろう。
明らかに劣勢……いや、絶体絶命と行っても良い状況だ。
魔物付きは人間よりも身体能力等に秀でてはいるが、まともな教育は受けられないので普通はこれほどまでの実力は発揮できない。
どこかで戦いの技術を学んだことは、疑いの余地はなかった。
「さっさと死ねッ!!」
床を転がりながら無様な姿をさらしても生き残ろうとするプルベルに苛立った襲撃犯が叫んだ。
技術は学んでも経験は浅い。焦りによって周囲の警戒がおろそかになってしまっていた。
二人の襲撃犯を斬り殺したメーデゥが、背後に近づいているのに気づけない。
「ガハッ、ボゴッ」
胸から青と黒が混ざった霊力をまとう刀身が生えた。
肺や食道が貫かれて鬼の仮面から血が吹き出る。吐血したのだ。
青い剣が引き抜かれた。
襲撃犯は恨みをこもった目で振り返ると、メーデゥと目が合った。
「お前……なぜ……人間に味方を…………」
同じ魔物付きなのに、なぜ敵対する。
そう言いたかったのだが、途中で力尽きて倒れてしまった。
「師匠のためだから」
相手は息をしていないのだが律儀に答えると、メーデゥはプルベルの前に立つ。
「生きてる?」
「助かったが……」
視線は青い剣に向いている。二色の霊力から、今更助けてくれた相手も魔物付きだと気づいた。
「嬢ちゃんも魔物付きだったのか」
「戦う?」
血がしたたり落ちる刀身をプルベルに向けた。
正体がばれてしまえば、仲間も敵になる。メーデゥは覚悟をするまでもなく自然と誰でも殺せる心理状態であり、例え相手が貴族、同族、友人、恋人が相手でも眉一つ動かさずに手を下せる。例外はハラディンだけだ。
「俺はぼっちゃんを守るのが仕事で、それ以外は業務外だ」
「どういうこと? 戦う?」
察しの悪いメーデゥには伝わらなかった。
刀身が数センチほどプルベルに近づく。
「違うって! 戦わない! 一緒に襲撃してきたバカたちを倒すぞ! これで伝わったか!?」
勘違いで殺されたくはない。
命乞いするかのごとく必死に叫んだ。
「わかった」
ストレートな言葉で、ようやくメーデゥは目の前にいる男が何を求めているのかわかった。
青い剣を降ろすと手を差し出した。
数瞬悩んだプルベルだったが握ると引っ張り上げられる。気を使ってもらった。礼を言おうとしたが、出口に殺到していた商人たちの悲鳴によって実現しなかった。
「助けて――」
命乞いをしていた中年の男性は、霊力で創られた赤黒い槍に貫かれて死んだ。隣にいた女性も同じである。次々と串刺しにされてしまい倒れていく。
幸い後ろにいた貴族は生き残っているが、逃げようとしてもパーティー会場には鬼の仮面を付けた侵入者が騎士と戦っている。助けは期待できない。
どこに行っても結果は変わらないだろう。
「醜く逃げまとえば生き残れるかもしれないぞ!」
周囲に赤黒い槍を浮かべたクレイアがパーティー会場に入ってきた。商人や上級平民たちを殺していたのは彼女だ。
体から赤黒い霊力がオーラのようにまとっている。それを見ただけで周囲に強いプレッシャーを与え、絶望させてしまう。
ドラゴン族よりも恐ろしい。
本当に人間なのか。
あんなのに勝てるはずないだろ。
戦おうとしていたプルベルの心は折れてしまった。
共闘を持ちかけた男が戦意喪失したと気づいたメーデゥがつぶやく。
「諦めたら死ぬだけ。私は生きたい」
生まれてから自らに言い聞かせてきた言葉だ。
どんな困難が襲ってきても心を奮い立たせることができてきた。絶望的な状況なんて一度や二度じゃない。それでも乗り越えられたのだから大丈夫。
体の震えをおさえ、メーデゥは一人でクレイアに立ち向かっていく。
今度は敵が三人もいるのだ。共闘しなければ負けると思い、置いてけぼりにされたボンドの護衛――プルベルが走り出す。
戦いは既に始まっていて、メーデゥは二人相手に互角以上の戦いをしている。プルベルはハラディンだけでなく背の低い女性すらも己より強いかもしれないと気づく。
裏商人ごときが雇えるレベルではない。
どうして仲間になっているのか気になるが、詮索すれば今は頼もしい味方がこちらに牙をむくかもしれない。
首を横に振って雑念を振り払うと、プルベルはメーデゥの背後を狙っている襲撃犯に斬りかかる。奇襲ではあったが気づかれてしまい、短槍で受け止められてしまった。
押し込もうとして体重をかけて顔を近づける。
離れていたときには気づけなかったが、敵がまとっている霊力の色が二色だ。
この特徴を持つ存在は一つだけである。
「もしかしてお前も魔物付きか!?」
「我々にそのような蔑称を使うな」
霊力がたかまった襲撃犯は、短槍を振るって剣ごとプルベルを吹き飛ばした。転倒まではしなかったが、バランスを崩して足が止まる。
間を置かずに放たれた突きをかわすため、仰向けに倒れると目の前に穂先が通り過ぎた。
数秒遅れていたら貫かれていただろう。
短槍を引き戻した襲撃犯は、再び突きを放とうとする。
「アブねぇ!!」
立ち上がる暇なんて与えられず、横に転がる。二度、三度と攻撃がきたので回転数も増える。
目が回りそうだ。正常な平衡感覚は失われてしまい、立ち上がったとしてもしばらくはフラつくことだろう。
明らかに劣勢……いや、絶体絶命と行っても良い状況だ。
魔物付きは人間よりも身体能力等に秀でてはいるが、まともな教育は受けられないので普通はこれほどまでの実力は発揮できない。
どこかで戦いの技術を学んだことは、疑いの余地はなかった。
「さっさと死ねッ!!」
床を転がりながら無様な姿をさらしても生き残ろうとするプルベルに苛立った襲撃犯が叫んだ。
技術は学んでも経験は浅い。焦りによって周囲の警戒がおろそかになってしまっていた。
二人の襲撃犯を斬り殺したメーデゥが、背後に近づいているのに気づけない。
「ガハッ、ボゴッ」
胸から青と黒が混ざった霊力をまとう刀身が生えた。
肺や食道が貫かれて鬼の仮面から血が吹き出る。吐血したのだ。
青い剣が引き抜かれた。
襲撃犯は恨みをこもった目で振り返ると、メーデゥと目が合った。
「お前……なぜ……人間に味方を…………」
同じ魔物付きなのに、なぜ敵対する。
そう言いたかったのだが、途中で力尽きて倒れてしまった。
「師匠のためだから」
相手は息をしていないのだが律儀に答えると、メーデゥはプルベルの前に立つ。
「生きてる?」
「助かったが……」
視線は青い剣に向いている。二色の霊力から、今更助けてくれた相手も魔物付きだと気づいた。
「嬢ちゃんも魔物付きだったのか」
「戦う?」
血がしたたり落ちる刀身をプルベルに向けた。
正体がばれてしまえば、仲間も敵になる。メーデゥは覚悟をするまでもなく自然と誰でも殺せる心理状態であり、例え相手が貴族、同族、友人、恋人が相手でも眉一つ動かさずに手を下せる。例外はハラディンだけだ。
「俺はぼっちゃんを守るのが仕事で、それ以外は業務外だ」
「どういうこと? 戦う?」
察しの悪いメーデゥには伝わらなかった。
刀身が数センチほどプルベルに近づく。
「違うって! 戦わない! 一緒に襲撃してきたバカたちを倒すぞ! これで伝わったか!?」
勘違いで殺されたくはない。
命乞いするかのごとく必死に叫んだ。
「わかった」
ストレートな言葉で、ようやくメーデゥは目の前にいる男が何を求めているのかわかった。
青い剣を降ろすと手を差し出した。
数瞬悩んだプルベルだったが握ると引っ張り上げられる。気を使ってもらった。礼を言おうとしたが、出口に殺到していた商人たちの悲鳴によって実現しなかった。
「助けて――」
命乞いをしていた中年の男性は、霊力で創られた赤黒い槍に貫かれて死んだ。隣にいた女性も同じである。次々と串刺しにされてしまい倒れていく。
幸い後ろにいた貴族は生き残っているが、逃げようとしてもパーティー会場には鬼の仮面を付けた侵入者が騎士と戦っている。助けは期待できない。
どこに行っても結果は変わらないだろう。
「醜く逃げまとえば生き残れるかもしれないぞ!」
周囲に赤黒い槍を浮かべたクレイアがパーティー会場に入ってきた。商人や上級平民たちを殺していたのは彼女だ。
体から赤黒い霊力がオーラのようにまとっている。それを見ただけで周囲に強いプレッシャーを与え、絶望させてしまう。
ドラゴン族よりも恐ろしい。
本当に人間なのか。
あんなのに勝てるはずないだろ。
戦おうとしていたプルベルの心は折れてしまった。
共闘を持ちかけた男が戦意喪失したと気づいたメーデゥがつぶやく。
「諦めたら死ぬだけ。私は生きたい」
生まれてから自らに言い聞かせてきた言葉だ。
どんな困難が襲ってきても心を奮い立たせることができてきた。絶望的な状況なんて一度や二度じゃない。それでも乗り越えられたのだから大丈夫。
体の震えをおさえ、メーデゥは一人でクレイアに立ち向かっていく。
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