5 / 47
やっちまぇ!
しおりを挟む
宴会場に入るとハラディンは生き残りがいないか確認する。誰もいなかった。全身が斬り刻まれているので、死んだふりしてやり過ごそうとしている可能性もない。
この場の生存者はゼロだと結論を出して立ち去ろうとするが、水のしたたり落ちる音が聞こえたので足を止める。
テーブルはすべて倒れている。コップに入った酒がこぼれ落ちているわけではなさそうだ。天上から水が落ちていることもない。下を見る。
「床下収納か」
地下に物をしまうための場所だ。保存食を置いておくこともある。スペースは小さく大人が隠れるのには使えない。
誰もいないと思われるが、クノハ傭兵団を壊滅すると決めたのだから生き残りが出ないよう徹底的に調べる必要がある。
ハラディンは床下収納のドアを刀で細切れにして中を見る。
「んーーーーーっ!?」
両手両足を縛られ、口をタオルで塞がられている少女がいた。
スペースが小さいので体は丸められていて窮屈そうだ。長い黒髪と尻尾、それと犬のような耳が特徴的である。服は着ていない。粗末なカボチャのようなパンツ一枚だけ。
目に涙を溜めながら、殺さないでと訴えかけているようだった。
「魔物付きか。意外と成長している。好事家に売る目的で育てられたのか?」
体の一部に獣や魔物の特徴を持ったまま生まれてしまった人を魔物付きと呼んでいる。
母親の胎内にいるとき赤子の魂は非常に不安定であり、魔物の血を取り込んでしまうと魂が影響を受けて体が変化してしまうと言われているが、詳細は不明である。
魔物付きは人よりも優れた能力を持つことが多いが故に、激しい差別がおこなわれていて、親ですら生まれたての赤子を殺してしまうほどだ。
少女と呼べるぐらいの年齢まで生き延びられたのは珍しい。
不幸な中でも幸運な人生を歩んできたと言えるだろう。
「クノハ傭兵団を処分したら助けてやる」
魔物付きとはいえ成人にもなっていないのだ。差別心のないハラディンは、捕らわれた哀れな少女を見捨てるほど冷たくなれなかった。
「大人しく出来るか?」
涙を流しながら首を縦に振ったので信じることにした。
宴会場から出て階段を上がり、二階に着いた。
床が揺れている。
通路の左右には個室につながるドアが四つ。奥には一つあった。
手間のドアから切り刻んで中を確認していくが誰もいない。ベッドの下やクローゼットにも隠れてないようだ。四つとも空振りだったので、本命である奥のドアに耳を付ける。
「やっちまぇ!」
「避けろ!」
「大金をかけているんだ! 負けるなよ!!」
野太い聞こえた。決闘をしているようである。
音を立てずにゆっくりとドアを開いて中を見ると、大部屋に数十人もの男がいた。中心はぽっかりと空いていて、二人の成人した魔物付きの男性がナイフを振り回しながら戦っている。
魔物付き同士で殺し合いをさせているのだ。
浅くはない傷を負っていてもうすぐ決着が付きそうだ。どちらが生き残るか金を賭けているクノハ傭兵団の熱狂は最高潮に達しており、侵入したハラディンに気づけないほど集中している。
すぐに殺すようなことはしない。
傭兵団長を探すため、部屋を歩きながら周囲を観察する。
飛び抜けて背の高い男はいたが、硬貨の入った袋を握りしめて罵声を浴びせているところから、集団をまとめるような能力があるとは思えない。よくて切り込み隊長だろう。
他の傭兵に比べて体格の良い男は二人いるが、裏路地にいる荒くれ者と大差ない。
村を生かさず殺さずの状態にしようなどと考える知能があるとは思えなかった。
傭兵団長は別の場所にいるかもしれない。
そう考え始めたハラディンの目が、背の低い男を捉えた。
頭髪はなく肌が荒れている。破れかけた服を着ていて傭兵団の中でも地位が低いように見えるのだが、相当量の霊力が漏れ出していることに気づく。
目に見えない魂の力、それが霊力である。誰もが持っており僅ではあるが常に体外へ放出しているが、離れていても知覚できるほど出せる量は珍しい。
一般的に霊力持ちと言われ、千人中一人という割合で存在する。
鍛えれば霊技が使えるようになるため、霊力持ちは集団のボスになることが多い。
真っ先に殺すべき相手を見つけたハラディンは、腰を落として刀を抜く。
『飛霊斬』
目の前にいる傭兵の体を両断しながら、白い斬撃が背の低い男――傭兵団長を襲う。
『霊壁』
ドス黒い壁が前に出現して衝突、消滅した。
侵入者を殺せと声を上げようとした傭兵団長ではあったが、先ほどまでいた場所にハラディンがいない。傭兵どもが敵に襲われたと騒ぎ立てて邪魔をしており、探そうにも動けないでいた。
「俺はここだ」
耳元で声がしたので、傭兵団長は前に飛びながら振り返る。
視界が上下逆転した。
続いてぼとりと物の落ちる音がして床に当たる。視界には刀を抜いたハラディンが立っていて、ようやく首を斬られたのだと気づき、視界が暗くなって体内にある霊力が消えた。
現世から魂が去ってしまったのだ。
少し遅れて体の方も床に倒れると、残っている傭兵たちが一斉にハラディンを見た。
「てめぇ! 頭を殺しやがったな!」
周囲よりも頭一つほど背の高い男が叫ぶのと同時に両断された。
驚愕している男どもの頭が次々と落ちていく。
圧倒的な力の差があり抵抗することすら許されない。
大部屋に集まった傭兵たちは、戦いが始まって十秒程度で全滅してしまったのだった。
この場の生存者はゼロだと結論を出して立ち去ろうとするが、水のしたたり落ちる音が聞こえたので足を止める。
テーブルはすべて倒れている。コップに入った酒がこぼれ落ちているわけではなさそうだ。天上から水が落ちていることもない。下を見る。
「床下収納か」
地下に物をしまうための場所だ。保存食を置いておくこともある。スペースは小さく大人が隠れるのには使えない。
誰もいないと思われるが、クノハ傭兵団を壊滅すると決めたのだから生き残りが出ないよう徹底的に調べる必要がある。
ハラディンは床下収納のドアを刀で細切れにして中を見る。
「んーーーーーっ!?」
両手両足を縛られ、口をタオルで塞がられている少女がいた。
スペースが小さいので体は丸められていて窮屈そうだ。長い黒髪と尻尾、それと犬のような耳が特徴的である。服は着ていない。粗末なカボチャのようなパンツ一枚だけ。
目に涙を溜めながら、殺さないでと訴えかけているようだった。
「魔物付きか。意外と成長している。好事家に売る目的で育てられたのか?」
体の一部に獣や魔物の特徴を持ったまま生まれてしまった人を魔物付きと呼んでいる。
母親の胎内にいるとき赤子の魂は非常に不安定であり、魔物の血を取り込んでしまうと魂が影響を受けて体が変化してしまうと言われているが、詳細は不明である。
魔物付きは人よりも優れた能力を持つことが多いが故に、激しい差別がおこなわれていて、親ですら生まれたての赤子を殺してしまうほどだ。
少女と呼べるぐらいの年齢まで生き延びられたのは珍しい。
不幸な中でも幸運な人生を歩んできたと言えるだろう。
「クノハ傭兵団を処分したら助けてやる」
魔物付きとはいえ成人にもなっていないのだ。差別心のないハラディンは、捕らわれた哀れな少女を見捨てるほど冷たくなれなかった。
「大人しく出来るか?」
涙を流しながら首を縦に振ったので信じることにした。
宴会場から出て階段を上がり、二階に着いた。
床が揺れている。
通路の左右には個室につながるドアが四つ。奥には一つあった。
手間のドアから切り刻んで中を確認していくが誰もいない。ベッドの下やクローゼットにも隠れてないようだ。四つとも空振りだったので、本命である奥のドアに耳を付ける。
「やっちまぇ!」
「避けろ!」
「大金をかけているんだ! 負けるなよ!!」
野太い聞こえた。決闘をしているようである。
音を立てずにゆっくりとドアを開いて中を見ると、大部屋に数十人もの男がいた。中心はぽっかりと空いていて、二人の成人した魔物付きの男性がナイフを振り回しながら戦っている。
魔物付き同士で殺し合いをさせているのだ。
浅くはない傷を負っていてもうすぐ決着が付きそうだ。どちらが生き残るか金を賭けているクノハ傭兵団の熱狂は最高潮に達しており、侵入したハラディンに気づけないほど集中している。
すぐに殺すようなことはしない。
傭兵団長を探すため、部屋を歩きながら周囲を観察する。
飛び抜けて背の高い男はいたが、硬貨の入った袋を握りしめて罵声を浴びせているところから、集団をまとめるような能力があるとは思えない。よくて切り込み隊長だろう。
他の傭兵に比べて体格の良い男は二人いるが、裏路地にいる荒くれ者と大差ない。
村を生かさず殺さずの状態にしようなどと考える知能があるとは思えなかった。
傭兵団長は別の場所にいるかもしれない。
そう考え始めたハラディンの目が、背の低い男を捉えた。
頭髪はなく肌が荒れている。破れかけた服を着ていて傭兵団の中でも地位が低いように見えるのだが、相当量の霊力が漏れ出していることに気づく。
目に見えない魂の力、それが霊力である。誰もが持っており僅ではあるが常に体外へ放出しているが、離れていても知覚できるほど出せる量は珍しい。
一般的に霊力持ちと言われ、千人中一人という割合で存在する。
鍛えれば霊技が使えるようになるため、霊力持ちは集団のボスになることが多い。
真っ先に殺すべき相手を見つけたハラディンは、腰を落として刀を抜く。
『飛霊斬』
目の前にいる傭兵の体を両断しながら、白い斬撃が背の低い男――傭兵団長を襲う。
『霊壁』
ドス黒い壁が前に出現して衝突、消滅した。
侵入者を殺せと声を上げようとした傭兵団長ではあったが、先ほどまでいた場所にハラディンがいない。傭兵どもが敵に襲われたと騒ぎ立てて邪魔をしており、探そうにも動けないでいた。
「俺はここだ」
耳元で声がしたので、傭兵団長は前に飛びながら振り返る。
視界が上下逆転した。
続いてぼとりと物の落ちる音がして床に当たる。視界には刀を抜いたハラディンが立っていて、ようやく首を斬られたのだと気づき、視界が暗くなって体内にある霊力が消えた。
現世から魂が去ってしまったのだ。
少し遅れて体の方も床に倒れると、残っている傭兵たちが一斉にハラディンを見た。
「てめぇ! 頭を殺しやがったな!」
周囲よりも頭一つほど背の高い男が叫ぶのと同時に両断された。
驚愕している男どもの頭が次々と落ちていく。
圧倒的な力の差があり抵抗することすら許されない。
大部屋に集まった傭兵たちは、戦いが始まって十秒程度で全滅してしまったのだった。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
冥界の仕事人
ひろろ
ファンタジー
冥界とは、所謂 “あの世” と呼ばれる死後の世界。
現世とは異なる不思議な世界に現れた少女、水島あおい(17)。個性的な人々との出会いや別れ、相棒オストリッチとの冥界珍道中ファンタジー
この物語は仏教の世界観をモチーフとしたファンタジーになります。架空の世界となりますので、御了承下さいませ。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる