36 / 45
第36話 さっさと退け
しおりを挟む
トゲトラが飛びかかると、キメラハンターのボスは槍を横に振るって顔に当てた。無事に攻撃を避けたかと思われたが、すれ違いざまにトゲの付いた尻尾がボスの腹に当たる。
革鎧を着ていたのだが貫通してしまったようで、腹を押さえながら膝をついてしまった。槍だけはかろうじて握っているが、体は満足に動かせないだろう。
相手が怪我をしたと理解したトゲトラは、余計な攻撃をくらわないよう、距離を取って様子を見ている。
待てば獲物は勝手に死ぬとわかっているのだ。
見た目と違って賢い。キメラハンター達が恐れるはずだ。
死にかけているボスから視線を外して、逃げていったキメラハンターを見る。予想していたとおり追いつかれていたようだ。個別撃破されているようで、すでに生き残りは一人だけ。二匹のトゲトラに挟まれていて、死ぬのも時間の問題だろう。
最初から集団で戦っていれば、一匹か二匹は倒せただろうに。
『動きますか?』
再び耳からナータの声が聞こえた。
『まだだ。少し早い』
今助けたら、生き残りが出てしまうじゃないか。
商隊には俺しか頼れる相手がいない状況を作りたい。もう少し様子を見ておくべきなのだ。
「こっちに来るなッ!!」
会話をしている間にボス以外のキメラハンターはかみ殺されていた。叫んでいるのはボスだけ。三匹のトゲトラに囲まれている。襲うことはなく、じっと見ているだけだ。
「エサはあるんだ! 俺を見逃せ!」
ボスが仲間の死体を指さした。
三匹の腹を満たすだけであれば、充分な食料は手に入ったと言える。だがな。今回はそれじゃ足りないんだよ。
新しいトゲトラが木から飛び降りてきた。その数は五。獲物が逃げ出すことを考えて隠れていたようだ。
「なんだよ……それ……」
戦意を失ったボスは槍を手放した。腹を押さえながら涙を流す。
トゲトラが後ろを向いて尻尾を叩きつけると、腕、足、頭の順番で潰れ、悲鳴を上げながら絶命した。
最初に戦っていた三匹は食事を始め、後から来た五匹は馬車を引いている馬に狙いを定める。
『行ってくる』
馬が死んだら移動に困るので、そろそろ止めよう。
魔力で身体能力を強化して、道に飛び出た。
「ガル?」
死体をむさぼっていたトゲトラと目が合う。赤い血がべっとり付着している口を開き、威嚇してきた。
俺がその程度で怯えるとでも?
舐められたものだな。
魔力を外に放出して威嚇すると、トゲトラは数歩下がった。逃げるなら追わなかったのだが、どうやらエサが惜しくて戦うことを選んだみたいである。
「ガルッッ!!」
飛びかかってきたので体をずらしてかわしてから、走り出す。馬を狙っているトゲトラに近づくと、剣を振り上げて首を飛ばした。
死体は黒い炎に包まれて燃えていく。
生き残っている七匹のトゲトラが、全員俺を見た。
「逃げるなら追わない。どうする?」
返事をする代わりに目の前の一匹が、口を大きく開きながら走ってきた。長い二本の牙で、かみ殺すつもりだろう。
ギリギリまで引きつけてから跳躍、トゲトラの背に乗る。黒い炎をまとった剣を逆手に持ち脳天を突き刺すと、すぐに飛び降りた。
また肉が焼けていく。
ようやく俺は危険だと思ったのか、生き残っているトゲトラたちは後ずさる。
「死体は持って帰っていい。さっさと退け」
俺の言葉を疑っているのかわからんが、すぐには動かない。じっと俺を見ている。
一斉に襲われても良いように構えつつ待つ。
「ガル」
ふっと、トゲトラからの圧力がなくなり、俺から離れていった。キメラハンターの死体をくわええると去って行く。
どうやら俺の警告は通じたようだ。商隊の危機は去ったと言って良いだろう。
姿が見えなくなったので警戒を解き、馬車に近づく。
「キメラは追い返したぞ」
声をかけると、数秒の間があってから返事がくる。
「誰だ? リクトンは生きているか?」
驚いたことに女の声だ。こんな危険な仕事をしているんだから、男だと思い込んでいたので驚く。
性別が予想と違ったからと言って、対応は変わらんがな。
「俺は、この辺でキメラハンターをしているゴンダレヌだ」
殺したキメラハンターの名前だ。
体がゴツゴツとした印象を持ちそうな響きだった。
「お前らが雇ったキメラハンターは全滅している。生き残りはいない」
「本当なのか!? 嘘じゃないだろうなッ!」
「ドアを開けて見ればすぐにわかる」
剣を鞘にしまってから、腕を組んで待つ。
ガチャリと音を立ててから馬車のドアが開いた。隙間から目だけが見える。俺の姿を捕らえると、少しだけ驚いた雰囲気があった。
「君がゴンダレヌか?」
「そうだ。周囲は安全だから出ても大丈夫だぞ」
「…………わかった」
ドアが大きく開いて商人が降りてきた。
真っ黒な髪は短く、ぱっと見は男性のようにも見える。服装も動きやすさ重視をしているようでパンツスタイルだ。腰にはナイフがあるものの、防具は一切ない。
キメラハンターが全滅したとき、ナイフを使って自害するつもりだったのかもな。
女は周囲を見渡し、血だまりを見て納得した顔をした。
「私は商隊のリーダー、ラビアンだ。助けてくれて感謝する」
革鎧を着ていたのだが貫通してしまったようで、腹を押さえながら膝をついてしまった。槍だけはかろうじて握っているが、体は満足に動かせないだろう。
相手が怪我をしたと理解したトゲトラは、余計な攻撃をくらわないよう、距離を取って様子を見ている。
待てば獲物は勝手に死ぬとわかっているのだ。
見た目と違って賢い。キメラハンター達が恐れるはずだ。
死にかけているボスから視線を外して、逃げていったキメラハンターを見る。予想していたとおり追いつかれていたようだ。個別撃破されているようで、すでに生き残りは一人だけ。二匹のトゲトラに挟まれていて、死ぬのも時間の問題だろう。
最初から集団で戦っていれば、一匹か二匹は倒せただろうに。
『動きますか?』
再び耳からナータの声が聞こえた。
『まだだ。少し早い』
今助けたら、生き残りが出てしまうじゃないか。
商隊には俺しか頼れる相手がいない状況を作りたい。もう少し様子を見ておくべきなのだ。
「こっちに来るなッ!!」
会話をしている間にボス以外のキメラハンターはかみ殺されていた。叫んでいるのはボスだけ。三匹のトゲトラに囲まれている。襲うことはなく、じっと見ているだけだ。
「エサはあるんだ! 俺を見逃せ!」
ボスが仲間の死体を指さした。
三匹の腹を満たすだけであれば、充分な食料は手に入ったと言える。だがな。今回はそれじゃ足りないんだよ。
新しいトゲトラが木から飛び降りてきた。その数は五。獲物が逃げ出すことを考えて隠れていたようだ。
「なんだよ……それ……」
戦意を失ったボスは槍を手放した。腹を押さえながら涙を流す。
トゲトラが後ろを向いて尻尾を叩きつけると、腕、足、頭の順番で潰れ、悲鳴を上げながら絶命した。
最初に戦っていた三匹は食事を始め、後から来た五匹は馬車を引いている馬に狙いを定める。
『行ってくる』
馬が死んだら移動に困るので、そろそろ止めよう。
魔力で身体能力を強化して、道に飛び出た。
「ガル?」
死体をむさぼっていたトゲトラと目が合う。赤い血がべっとり付着している口を開き、威嚇してきた。
俺がその程度で怯えるとでも?
舐められたものだな。
魔力を外に放出して威嚇すると、トゲトラは数歩下がった。逃げるなら追わなかったのだが、どうやらエサが惜しくて戦うことを選んだみたいである。
「ガルッッ!!」
飛びかかってきたので体をずらしてかわしてから、走り出す。馬を狙っているトゲトラに近づくと、剣を振り上げて首を飛ばした。
死体は黒い炎に包まれて燃えていく。
生き残っている七匹のトゲトラが、全員俺を見た。
「逃げるなら追わない。どうする?」
返事をする代わりに目の前の一匹が、口を大きく開きながら走ってきた。長い二本の牙で、かみ殺すつもりだろう。
ギリギリまで引きつけてから跳躍、トゲトラの背に乗る。黒い炎をまとった剣を逆手に持ち脳天を突き刺すと、すぐに飛び降りた。
また肉が焼けていく。
ようやく俺は危険だと思ったのか、生き残っているトゲトラたちは後ずさる。
「死体は持って帰っていい。さっさと退け」
俺の言葉を疑っているのかわからんが、すぐには動かない。じっと俺を見ている。
一斉に襲われても良いように構えつつ待つ。
「ガル」
ふっと、トゲトラからの圧力がなくなり、俺から離れていった。キメラハンターの死体をくわええると去って行く。
どうやら俺の警告は通じたようだ。商隊の危機は去ったと言って良いだろう。
姿が見えなくなったので警戒を解き、馬車に近づく。
「キメラは追い返したぞ」
声をかけると、数秒の間があってから返事がくる。
「誰だ? リクトンは生きているか?」
驚いたことに女の声だ。こんな危険な仕事をしているんだから、男だと思い込んでいたので驚く。
性別が予想と違ったからと言って、対応は変わらんがな。
「俺は、この辺でキメラハンターをしているゴンダレヌだ」
殺したキメラハンターの名前だ。
体がゴツゴツとした印象を持ちそうな響きだった。
「お前らが雇ったキメラハンターは全滅している。生き残りはいない」
「本当なのか!? 嘘じゃないだろうなッ!」
「ドアを開けて見ればすぐにわかる」
剣を鞘にしまってから、腕を組んで待つ。
ガチャリと音を立ててから馬車のドアが開いた。隙間から目だけが見える。俺の姿を捕らえると、少しだけ驚いた雰囲気があった。
「君がゴンダレヌか?」
「そうだ。周囲は安全だから出ても大丈夫だぞ」
「…………わかった」
ドアが大きく開いて商人が降りてきた。
真っ黒な髪は短く、ぱっと見は男性のようにも見える。服装も動きやすさ重視をしているようでパンツスタイルだ。腰にはナイフがあるものの、防具は一切ない。
キメラハンターが全滅したとき、ナイフを使って自害するつもりだったのかもな。
女は周囲を見渡し、血だまりを見て納得した顔をした。
「私は商隊のリーダー、ラビアンだ。助けてくれて感謝する」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる