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第35話 痛い! 痛い! 助けて!
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「ありがとうございます」
真っ先にナータが頭を下げて、アデラも続く。ダリアは二人を見てしまったという顔をしてから、最後に同じ姿勢になる。
クスリの影響なのか、少し処理が遅くなっている気がするが、日常生活には問題ないだろう。役に立ったことだし、写真の回収が無事に終わったら褒めてやるか。
「これから計画の詳細を詰めていく、先ずはダリアから商隊が使うコースを教えてもらおう」
都市の情報はニクシーやシェリー、商隊に加わる方法はダリアを中心に決めていく。お互いに建設的な意見がでたこともあって順調に進み、その日の夜に全てが決まったのだった。
* * *
作戦を決めた数日後。俺は黒い剣を持ちながらキメラの森に潜んでいた。
十メートルほど先には馬車が通れるほどの道があって、しばらくすれば護衛を連れた商隊が通るはずである。
ザザッ。
耳に付けた魔道具からナータの声が聞こえてくる。
『マスター、そろそろ商隊が通ります。キメラを送るので、準備をお願いしますね』
『計画通りだな。任せろ』
『ご武運をお祈りします』
心配性なのは変わらないようだ。俺がキメラごときに負けるはずないのに。
これから俺がどんなに力を付けたとしても、性格は変わらないんだろうな。
音声が途切れてから一分ほどで商隊が見えてきた。馬車は五台で、護衛として歩いているキメラハンターは十人ほどだ。一人だけ数百メートル先を歩いているのは斥候だろう。性別は女で、身軽な皮装備とショートボウを持っている。
「ウオォォォン!!」
森の中から雄叫びが聞こえると、斥候の女は肩をピクリとさせてから立ち止まった。手を軽く上げながらキョロキョロと周りを見ている。
性格が破綻しているヤツが多いと聞いていたが、一応は仕事をしているようだ。
考えてみれば当たり前か。この程度で逃げてしまうようでは、雇うよりかは護衛なしで移動した方が良いだろうからな。
「ウォォォン!!」
また鳴き声が聞こえるのと同時に、道に狼が出てきた。全身が真っ赤な毛皮に覆われており、何かから逃げるようにして走っている。
実は、ナータたちに襲われて道に出てきたのだ。
「ファイヤウルフが五匹!」
斥候の女は踵を返して走り、馬車に戻ろうとする。
勝てないと判断して援軍を求めたのだ。判断が速い点は評価できるが、頼る仲間が悪かったな。
「痛っ!!」
斥候の女の太ももに矢が刺さった。
馬車を護衛しているキメラハンターが放ったのだ。
血を流し、倒れてしまった斥候の女が後ろを向く。
ファイヤウルフは立ち止まって周囲を見ているだけだ。ナータが追いかけてこないと気づいて、落ち着きを取り戻し始める。
「ガルルルッ」
目の前にエサがあるぞ。なんて言ってそうな声を出してから、斥候の女に向かってファイヤウルフが飛びかかった。
「痛い! 痛い! 助けて!」
泣きながら仲間の方に手を伸ばす。しかし、誰も駆けつけてくれない。
馬車を護衛しているキメラハンターたちは、弓を構えていた。
「そ、そんな……」
痛みに耐えながら呟いた斥候の女に向けて、矢が次々と放たれた。
ファイヤウルフの毛皮を突き抜け、刺さっていく。当然だが女も同様だ。信じられないという目をしながら息絶える。
怪我を負いながらも生きているファイヤウルフたちは、逃げようと後ろ姿を見せる。雨のように降り続ける矢を受けながら走り去ってしまった。
残ったのは死に絶えた斥候の女だけだ。
キメラハンター達は仲間が死んだことなど気にせず、勝利に喜んでいる。
襲われたら囮にしてキメラを撃退させる作戦だったのだろう。なんとも惨いことを考える。性格が破綻しているという話は嘘ではなかったな。
「ボス! アレは何だ!?」
新しくナータに追われて街道に出たキメラがいた。今度はトゲトラが三匹だ。
キメラハンターたちは矢を射るが、硬い表皮によって弾かれてしまう。
攻撃されて怒りを覚えたのか、大きな二本の牙のある口を大きく開き、トゲトラが走り出した。
「き、来たぞ!! 倒せ!」
ボスと呼ばれた男は配下のキメラハンターに戦う指示を出したが、誰も従わない。我先にと逃げ出していく。
「高レベルのキメラが出るなんて聞いてねぇぞ!!」
「命あっての物種だ!」
「お前が戦えよ、バーカッ!!」
生き残ったキメラハンターに、信頼関係はなかったようだ。仲間を囮にするような作戦を実行するボスなのだから、当然の反応ではあるな。
次は我が身と思って逃げているんだろう。
肝心の商人たちは馬車の中に入って動かない。
キメラハンターを食べて腹を満たした後、去ってくれ。なんて、祈っているのかな。
三匹いるうちの二匹は、逃げているキメラハンターを追っている。飛びつき噛みつくと、殺すことはせずに次の獲物を狙って走る。こいつら、動きを鈍らせてから全員殺すつもりだ。
その場に残っているトゲトラは、ボスに狙いを定めて優雅に、そして力強く歩く。
どちらが優位なのか誰の目で見ても明らかだ。
「近寄るなッッ!!」
長槍を構えたボスだが、腰が引けている。体は強ばっていて本来の実力を出せる状態ではない。
トゲトラが飛び出そうとしたので、ボスが槍を突き出して威嚇する。お互いに隙を見つけるために警戒していて、動きが止まっていた。
それでもまだ俺は手を出さない。観察を続ける。
真っ先にナータが頭を下げて、アデラも続く。ダリアは二人を見てしまったという顔をしてから、最後に同じ姿勢になる。
クスリの影響なのか、少し処理が遅くなっている気がするが、日常生活には問題ないだろう。役に立ったことだし、写真の回収が無事に終わったら褒めてやるか。
「これから計画の詳細を詰めていく、先ずはダリアから商隊が使うコースを教えてもらおう」
都市の情報はニクシーやシェリー、商隊に加わる方法はダリアを中心に決めていく。お互いに建設的な意見がでたこともあって順調に進み、その日の夜に全てが決まったのだった。
* * *
作戦を決めた数日後。俺は黒い剣を持ちながらキメラの森に潜んでいた。
十メートルほど先には馬車が通れるほどの道があって、しばらくすれば護衛を連れた商隊が通るはずである。
ザザッ。
耳に付けた魔道具からナータの声が聞こえてくる。
『マスター、そろそろ商隊が通ります。キメラを送るので、準備をお願いしますね』
『計画通りだな。任せろ』
『ご武運をお祈りします』
心配性なのは変わらないようだ。俺がキメラごときに負けるはずないのに。
これから俺がどんなに力を付けたとしても、性格は変わらないんだろうな。
音声が途切れてから一分ほどで商隊が見えてきた。馬車は五台で、護衛として歩いているキメラハンターは十人ほどだ。一人だけ数百メートル先を歩いているのは斥候だろう。性別は女で、身軽な皮装備とショートボウを持っている。
「ウオォォォン!!」
森の中から雄叫びが聞こえると、斥候の女は肩をピクリとさせてから立ち止まった。手を軽く上げながらキョロキョロと周りを見ている。
性格が破綻しているヤツが多いと聞いていたが、一応は仕事をしているようだ。
考えてみれば当たり前か。この程度で逃げてしまうようでは、雇うよりかは護衛なしで移動した方が良いだろうからな。
「ウォォォン!!」
また鳴き声が聞こえるのと同時に、道に狼が出てきた。全身が真っ赤な毛皮に覆われており、何かから逃げるようにして走っている。
実は、ナータたちに襲われて道に出てきたのだ。
「ファイヤウルフが五匹!」
斥候の女は踵を返して走り、馬車に戻ろうとする。
勝てないと判断して援軍を求めたのだ。判断が速い点は評価できるが、頼る仲間が悪かったな。
「痛っ!!」
斥候の女の太ももに矢が刺さった。
馬車を護衛しているキメラハンターが放ったのだ。
血を流し、倒れてしまった斥候の女が後ろを向く。
ファイヤウルフは立ち止まって周囲を見ているだけだ。ナータが追いかけてこないと気づいて、落ち着きを取り戻し始める。
「ガルルルッ」
目の前にエサがあるぞ。なんて言ってそうな声を出してから、斥候の女に向かってファイヤウルフが飛びかかった。
「痛い! 痛い! 助けて!」
泣きながら仲間の方に手を伸ばす。しかし、誰も駆けつけてくれない。
馬車を護衛しているキメラハンターたちは、弓を構えていた。
「そ、そんな……」
痛みに耐えながら呟いた斥候の女に向けて、矢が次々と放たれた。
ファイヤウルフの毛皮を突き抜け、刺さっていく。当然だが女も同様だ。信じられないという目をしながら息絶える。
怪我を負いながらも生きているファイヤウルフたちは、逃げようと後ろ姿を見せる。雨のように降り続ける矢を受けながら走り去ってしまった。
残ったのは死に絶えた斥候の女だけだ。
キメラハンター達は仲間が死んだことなど気にせず、勝利に喜んでいる。
襲われたら囮にしてキメラを撃退させる作戦だったのだろう。なんとも惨いことを考える。性格が破綻しているという話は嘘ではなかったな。
「ボス! アレは何だ!?」
新しくナータに追われて街道に出たキメラがいた。今度はトゲトラが三匹だ。
キメラハンターたちは矢を射るが、硬い表皮によって弾かれてしまう。
攻撃されて怒りを覚えたのか、大きな二本の牙のある口を大きく開き、トゲトラが走り出した。
「き、来たぞ!! 倒せ!」
ボスと呼ばれた男は配下のキメラハンターに戦う指示を出したが、誰も従わない。我先にと逃げ出していく。
「高レベルのキメラが出るなんて聞いてねぇぞ!!」
「命あっての物種だ!」
「お前が戦えよ、バーカッ!!」
生き残ったキメラハンターに、信頼関係はなかったようだ。仲間を囮にするような作戦を実行するボスなのだから、当然の反応ではあるな。
次は我が身と思って逃げているんだろう。
肝心の商人たちは馬車の中に入って動かない。
キメラハンターを食べて腹を満たした後、去ってくれ。なんて、祈っているのかな。
三匹いるうちの二匹は、逃げているキメラハンターを追っている。飛びつき噛みつくと、殺すことはせずに次の獲物を狙って走る。こいつら、動きを鈍らせてから全員殺すつもりだ。
その場に残っているトゲトラは、ボスに狙いを定めて優雅に、そして力強く歩く。
どちらが優位なのか誰の目で見ても明らかだ。
「近寄るなッッ!!」
長槍を構えたボスだが、腰が引けている。体は強ばっていて本来の実力を出せる状態ではない。
トゲトラが飛び出そうとしたので、ボスが槍を突き出して威嚇する。お互いに隙を見つけるために警戒していて、動きが止まっていた。
それでもまだ俺は手を出さない。観察を続ける。
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