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第17話 ま、マスター~……
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半壊した通路を歩いて遊戯室の中に入る。床はフローリングになっていて広い。半分は運動スペースになっていているが、残り半分はカードゲームをする台やダーツ、ビリヤードなどが楽しめるようになっている。
アデラとシェリーは、運動スペースの方で数メートルの距離を開け、対峙していた。
武器なしで戦うと思っていたのだが、シェリーの方は手に両手剣がある。訓練用の武器なんておいてなかったので、倉庫から殺傷用を持ってきたのだろう。
壊れたら修理すれば良いだけなので、止める必要はないな。
「殺すことは禁止だ。それ以外は好きにしろ」
「はーーい!」
元気よく手を上げたアデラは俺を見た。
「頑張るから、マスターはちゃんと見てて下さいねっ!」
「もちろんだ」
戦闘機械ゴーレムの性能を確認するチャンスなんだ。見逃すなんてあり得ない。室内に設置したカメラで映像も記録しているので、何度も見返せるようにしている。隙はない。
「じゃぁいくよ~」
足を肩幅より少し大きく広げ、アデラは腰を落とした。シェリーが大剣を構えるのと同時に戦いが始まる。
先に動いたのはシェリーだ。一歩大きく踏み出して剣を振り下ろす。太刀筋は美しく、どこかで武術を学んできたであろうことがわかる。しかし、戦闘機械ゴーレム相手には通用しない。
「ほいっと」
剣の腹を手の甲で弾き、アデラは空いている左手をシェリーのみぞおちに叩き込んだ。
「ぐはっ」
シェリーは勢いよく後ろに吹き飛び、壁際で着地する。
衝撃の勢いを殺す為にあえて飛んだのだろう。不意打ちだったというのによく反応した。機械ゴーレムの体を充分に扱えているな。
アデラは腰を落としたまま右の拳を前に出す。右足が僅かに動いた次の瞬間、シェリーの前に移動してた。右の拳が前に出る。もう後ろには飛べない。シェリーは剣を間に挟んだが刀身は砕け散り、拳が腹にめり込む。
「ぐっっ」
体は壁に押しつけられ、シェリーは衝撃をすべて受け止めている。ミシミシと体から音が出ている。生身だったら腹に穴が空いていただろう。
「あれ、痛くない……?」
衝撃によってダメージは受けているが、痛みは感じてない。そのことに驚いているようだ。
「体はすべて、機械ゴーレムと同じ素材になったんだ。痛みを感じないのは当然だろ」
「え、あ、そうだった」
やや混乱しているシェリーに追撃することはなく、アデラは後ろに下がって距離を取った。
俺が何を求めているのかちゃんと理解しているようだ。言動は軽いが、こいつもマスターに従順な機械ゴーレムなんだなと安心する。
「以前の体と違うんだ。早く慣れろ」
「は、はい!」
シェリーは反射的に返事してから勢いよく飛び出し、体を回転させながら蹴りを放つ。フェイントすらない単純な攻撃だ。俺の戦闘型機械ゴーレムに通用するはずがない。アデラは片腕で掴むと、勢いを利用して地面に叩きつけた。
フローリングが陥没し、シェリーが沈む。頭を打ったのか意識は失っているようで、動かない。
「ま、マスター~……」
勝利の余韻なんかなく、アデラは部屋を破壊してしまって、申し訳なさそうな顔をしている。
修理できるので怒ってはないのだが、少し困ったな。今後も模擬戦をやると考えたら、新しい設備は必要そうだ。
「気にしてない。シェリーを治療室に運んでおいてくれ」
首をかくかくと縦に振ってから、アデラは急いで遊戯室から出て行った。あの程度で死ぬことはないだろうから、シェリーは寝かせておけば大丈夫だろう。
一人になると天井に向けて話しかける。
「先ほどの模擬戦の映像を見せてくれ」
「かしこまりました。記録した映像を再生します」
スピーカーから声が流れると、空中に映像が浮かんだ。
アデラとシェリーの戦いが再現される。等倍速で眺めることにした。
シェリーに勝利する直前の動きは本気だっただろうが、魔力で視力を強化すれば、動きはしっかりと追える。体術はややアデラの方が上ではあるが、魔技師には対機械ゴーレム用の魔法もあるので、反乱を起こしても負けることはなさそうだ。
「だが、対策は練っておかないと」
上級機械ゴーレムが人類を管理するという異常事態が発生しているのだ。
ナータやアデラが同様の思想を持つ可能性は否定できない。もしくは捕まった場合、洗脳される危険もあるので、何も考えずに外へ出すのも危険か。
「仕方がない。一人で外を調査するか」
大義名分を手に入れたと思い、自然と口角が上がってしまった。
貴重な素材を手に入れるため、危険な場所に何度も訪れたことがある。その時に何度も命を狙われたことがあり、俺が直接戦って撃退してきたこともあった。
戦闘能力にはいささか自信があるので、キメラごときに負ける気はしない。今から外に出て調査するついでに、戦ってみよう。
俺を止めようとしたナータには嘘をつくような形にはなってしまうが、仕方がないと諦めてもらおう。
決めたら即行動だ。
倉庫に行って刀身が黒い剣を持つ。刀身に魔力を流すと黒い炎が出て、切れ味が増すのだ。あとは防具として外套を羽織る。防刃性が高く、衝撃を吸収する優れものである。四本腕のゴリラが全力で殴りつけてきても、大した衝撃は感じないほどの性能はあるだろうよ。
アデラとシェリーは、運動スペースの方で数メートルの距離を開け、対峙していた。
武器なしで戦うと思っていたのだが、シェリーの方は手に両手剣がある。訓練用の武器なんておいてなかったので、倉庫から殺傷用を持ってきたのだろう。
壊れたら修理すれば良いだけなので、止める必要はないな。
「殺すことは禁止だ。それ以外は好きにしろ」
「はーーい!」
元気よく手を上げたアデラは俺を見た。
「頑張るから、マスターはちゃんと見てて下さいねっ!」
「もちろんだ」
戦闘機械ゴーレムの性能を確認するチャンスなんだ。見逃すなんてあり得ない。室内に設置したカメラで映像も記録しているので、何度も見返せるようにしている。隙はない。
「じゃぁいくよ~」
足を肩幅より少し大きく広げ、アデラは腰を落とした。シェリーが大剣を構えるのと同時に戦いが始まる。
先に動いたのはシェリーだ。一歩大きく踏み出して剣を振り下ろす。太刀筋は美しく、どこかで武術を学んできたであろうことがわかる。しかし、戦闘機械ゴーレム相手には通用しない。
「ほいっと」
剣の腹を手の甲で弾き、アデラは空いている左手をシェリーのみぞおちに叩き込んだ。
「ぐはっ」
シェリーは勢いよく後ろに吹き飛び、壁際で着地する。
衝撃の勢いを殺す為にあえて飛んだのだろう。不意打ちだったというのによく反応した。機械ゴーレムの体を充分に扱えているな。
アデラは腰を落としたまま右の拳を前に出す。右足が僅かに動いた次の瞬間、シェリーの前に移動してた。右の拳が前に出る。もう後ろには飛べない。シェリーは剣を間に挟んだが刀身は砕け散り、拳が腹にめり込む。
「ぐっっ」
体は壁に押しつけられ、シェリーは衝撃をすべて受け止めている。ミシミシと体から音が出ている。生身だったら腹に穴が空いていただろう。
「あれ、痛くない……?」
衝撃によってダメージは受けているが、痛みは感じてない。そのことに驚いているようだ。
「体はすべて、機械ゴーレムと同じ素材になったんだ。痛みを感じないのは当然だろ」
「え、あ、そうだった」
やや混乱しているシェリーに追撃することはなく、アデラは後ろに下がって距離を取った。
俺が何を求めているのかちゃんと理解しているようだ。言動は軽いが、こいつもマスターに従順な機械ゴーレムなんだなと安心する。
「以前の体と違うんだ。早く慣れろ」
「は、はい!」
シェリーは反射的に返事してから勢いよく飛び出し、体を回転させながら蹴りを放つ。フェイントすらない単純な攻撃だ。俺の戦闘型機械ゴーレムに通用するはずがない。アデラは片腕で掴むと、勢いを利用して地面に叩きつけた。
フローリングが陥没し、シェリーが沈む。頭を打ったのか意識は失っているようで、動かない。
「ま、マスター~……」
勝利の余韻なんかなく、アデラは部屋を破壊してしまって、申し訳なさそうな顔をしている。
修理できるので怒ってはないのだが、少し困ったな。今後も模擬戦をやると考えたら、新しい設備は必要そうだ。
「気にしてない。シェリーを治療室に運んでおいてくれ」
首をかくかくと縦に振ってから、アデラは急いで遊戯室から出て行った。あの程度で死ぬことはないだろうから、シェリーは寝かせておけば大丈夫だろう。
一人になると天井に向けて話しかける。
「先ほどの模擬戦の映像を見せてくれ」
「かしこまりました。記録した映像を再生します」
スピーカーから声が流れると、空中に映像が浮かんだ。
アデラとシェリーの戦いが再現される。等倍速で眺めることにした。
シェリーに勝利する直前の動きは本気だっただろうが、魔力で視力を強化すれば、動きはしっかりと追える。体術はややアデラの方が上ではあるが、魔技師には対機械ゴーレム用の魔法もあるので、反乱を起こしても負けることはなさそうだ。
「だが、対策は練っておかないと」
上級機械ゴーレムが人類を管理するという異常事態が発生しているのだ。
ナータやアデラが同様の思想を持つ可能性は否定できない。もしくは捕まった場合、洗脳される危険もあるので、何も考えずに外へ出すのも危険か。
「仕方がない。一人で外を調査するか」
大義名分を手に入れたと思い、自然と口角が上がってしまった。
貴重な素材を手に入れるため、危険な場所に何度も訪れたことがある。その時に何度も命を狙われたことがあり、俺が直接戦って撃退してきたこともあった。
戦闘能力にはいささか自信があるので、キメラごときに負ける気はしない。今から外に出て調査するついでに、戦ってみよう。
俺を止めようとしたナータには嘘をつくような形にはなってしまうが、仕方がないと諦めてもらおう。
決めたら即行動だ。
倉庫に行って刀身が黒い剣を持つ。刀身に魔力を流すと黒い炎が出て、切れ味が増すのだ。あとは防具として外套を羽織る。防刃性が高く、衝撃を吸収する優れものである。四本腕のゴリラが全力で殴りつけてきても、大した衝撃は感じないほどの性能はあるだろうよ。
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