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第16話 半機械ゴーレム化した人間に、食事は必要だ
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「本来なら怒るべきなのかもしれないけど、そんな気持ちにはならない。命の恩人なのだからか、それともこの体になったからなのか、それすらよく分からないんだよね」
あははと力なく笑い、シェリーは口を閉じた。
もう話す気力がないのだろう。
視線をやや下に移動させてニクシーを見る。
「君はどうだ?」
「私は出会ったときから、ジャザリーさんのことが好きです。何も変わった気はしません」
「どうして最初から好意を……」
「全てに見捨てられた私を救ってくれたんですから。当然じゃないですか」
半機械ゴーレム化する前は死にかけていたのだ。命の恩人に好意を持つのも自然な流れ……か?
まあもし嘘だとしても、今は副作用もあって好意を持っているのは間違いない。答えは永遠に分からなくなったし、気にする必要もないか。
「そんなことよりも、この体について疑問があるんです」
好意的な笑顔を向けてくるニクシーを見て、少しだけ罪悪感を覚えた。
俺にしては珍しい。とうの昔に捨て去ったと思ったんだがな。
「何でも聞いてくれ。ちゃんと答える」
平静を装って返事を待つ。
「私とシェリーさんの体は、神兵様と同じになったんですよね。だったら何で食事が必要なんでしょうか」
機械ゴーレムに食事は不要だ。地上にいる神兵というやつらも、それは同じみたいだな。
その辺の技術は、長い年月をかけても進歩はなかったようだ。
「二人には生体部分が多く残っている。だから半機械ゴーレム化した人間に、食事は必要だ」
魔力は機械化した部分を動かす動力源でしかない。生体には食物から摂取した栄養が必要なのだ。もちろん睡眠だって欠かせない。
機械ゴーレムは人間の脳をベースにはしているが、99.999%は機械化されているので、食事や睡眠を抜いても稼働し続けられる。
ちなみにだが、機械ゴーレムが食事をしても体内で分解されて魔力に変換されるだけなので、不具合が起こることはない。昔は孤独な老人が寂しさを紛らわすため、一緒に食事をさせる、なんてこともあった。
「そうだったんですね。体は機械なのに何で必要なのかなって、ずっと不思議だったんです」
「体内に食物を分解する機能もあるから、壊れることはない。ちゃんと毎日食べるんだぞ」
「こんな美味しい食材がいっぱいあるんですから、ダメといわれても食べちゃいますよ」
腕で抱きしめているキュウリを見せつけながら、ニクシーは楽しそうに笑っていた。
些細なことでも幸せに感じられるのは、一種の才能だな。俺には無理だ。
「だったら料理も覚えるといい。ナータが得意だから教わってみたらどうだ?」
「良いんですか! 覚えたいです!」
本当に食べることが好きなんだろう。キラキラと目を輝かせてナータを見ている。
体だけでなく感情までも勝手に変えてしまったのだから、罪滅ぼしとしてこの程度のお願いは聞いてあげよう。
腕を掴んだままであるナータに声をかける。
「話は聞いてたな?」
「はい。今日の晩ご飯から、一緒に作りたいと思います」
行動が早くて助かる。従順に従う姿は、機械ゴーレムの鏡と言えるだろう。これが本来あるべき態度なのだ。
ニクシーを見ると、喜んでいた。
「ナータさん。よろしくお願いします! 作り方だけじゃなく、ジャザリーさんが好きな料理や味付けも教えて欲しいです!」
「良いですよ。今からご説明しましょうか?」
「お願いします!」
「では、付いてきてください」
思っていた以上に話を進めていた二人は、室内畑から出て行ってしまった。俺の好みを知り尽くしているナータであれば、失敗するようなことはない。ちゃんと知識と技術を教えられるだろう。
「あなたは行かないの?」
残されたシェリーがアデラに聞いた。同じ機械ゴーレムだから料理が出来るんじゃないかと、思っていそうだ。
「私は料理できません。戦闘専門なのでー!」
「ということは強いの?」
「もちろん! 私に勝てる機械ゴーレムは、ナータ先輩ぐらいかなー!」
「え、あの人……といって良いのかな?」
「人間ではない、機械ゴーレムだ」
二人の会話に割り込んで注意した。
機械ゴーレムは人間のように見えるが、中身は全く違う。どんなに親しくしてもマスターの命令一つで、命を奪いに来る存在なのだ。同じ扱いをしてはいけない。
そういった意識をちゃんと持って欲しいため、些細なことではあるが、言葉から意識して使い分けてもらう必要がある。
「そ、そっか。そのナータさんって何でも出来るのに、戦闘に特化したアデラさんより強いんだ」
「うん。元の性能が違うからねー。でも、シェリーよりかは強いよ」
挑発するようにアデラは笑みを浮かべた。甘えん坊だけでなく、他人を挑発するような性格にもなっているようだ。
起動させないと性格が分からないのは困ったもんだな。
早くブラックボックスになっている部分を解明したいところである。
「へぇ。自信があるようだけど、私だってこの体なら負けないと思うよ?」
「半機械ゴーレムには負けないよー」
アデラは俺から離れてシェリーの前に立つ。
顔をぐいっと近づけた。二人の顔が接触するほどの距離だ。
「だったら、どっちが強いか試してみない?」
「いいよ。絶対に勝ってみせるから」
挑発にのったシェリーが宣言すると、二人ともどこかに行ってしまった。
戦える場所なんてないんだが、まさか遊戯室でやるつもりか?
部屋が壊されないか心配になったので、俺も見に行くことにしよう。
あははと力なく笑い、シェリーは口を閉じた。
もう話す気力がないのだろう。
視線をやや下に移動させてニクシーを見る。
「君はどうだ?」
「私は出会ったときから、ジャザリーさんのことが好きです。何も変わった気はしません」
「どうして最初から好意を……」
「全てに見捨てられた私を救ってくれたんですから。当然じゃないですか」
半機械ゴーレム化する前は死にかけていたのだ。命の恩人に好意を持つのも自然な流れ……か?
まあもし嘘だとしても、今は副作用もあって好意を持っているのは間違いない。答えは永遠に分からなくなったし、気にする必要もないか。
「そんなことよりも、この体について疑問があるんです」
好意的な笑顔を向けてくるニクシーを見て、少しだけ罪悪感を覚えた。
俺にしては珍しい。とうの昔に捨て去ったと思ったんだがな。
「何でも聞いてくれ。ちゃんと答える」
平静を装って返事を待つ。
「私とシェリーさんの体は、神兵様と同じになったんですよね。だったら何で食事が必要なんでしょうか」
機械ゴーレムに食事は不要だ。地上にいる神兵というやつらも、それは同じみたいだな。
その辺の技術は、長い年月をかけても進歩はなかったようだ。
「二人には生体部分が多く残っている。だから半機械ゴーレム化した人間に、食事は必要だ」
魔力は機械化した部分を動かす動力源でしかない。生体には食物から摂取した栄養が必要なのだ。もちろん睡眠だって欠かせない。
機械ゴーレムは人間の脳をベースにはしているが、99.999%は機械化されているので、食事や睡眠を抜いても稼働し続けられる。
ちなみにだが、機械ゴーレムが食事をしても体内で分解されて魔力に変換されるだけなので、不具合が起こることはない。昔は孤独な老人が寂しさを紛らわすため、一緒に食事をさせる、なんてこともあった。
「そうだったんですね。体は機械なのに何で必要なのかなって、ずっと不思議だったんです」
「体内に食物を分解する機能もあるから、壊れることはない。ちゃんと毎日食べるんだぞ」
「こんな美味しい食材がいっぱいあるんですから、ダメといわれても食べちゃいますよ」
腕で抱きしめているキュウリを見せつけながら、ニクシーは楽しそうに笑っていた。
些細なことでも幸せに感じられるのは、一種の才能だな。俺には無理だ。
「だったら料理も覚えるといい。ナータが得意だから教わってみたらどうだ?」
「良いんですか! 覚えたいです!」
本当に食べることが好きなんだろう。キラキラと目を輝かせてナータを見ている。
体だけでなく感情までも勝手に変えてしまったのだから、罪滅ぼしとしてこの程度のお願いは聞いてあげよう。
腕を掴んだままであるナータに声をかける。
「話は聞いてたな?」
「はい。今日の晩ご飯から、一緒に作りたいと思います」
行動が早くて助かる。従順に従う姿は、機械ゴーレムの鏡と言えるだろう。これが本来あるべき態度なのだ。
ニクシーを見ると、喜んでいた。
「ナータさん。よろしくお願いします! 作り方だけじゃなく、ジャザリーさんが好きな料理や味付けも教えて欲しいです!」
「良いですよ。今からご説明しましょうか?」
「お願いします!」
「では、付いてきてください」
思っていた以上に話を進めていた二人は、室内畑から出て行ってしまった。俺の好みを知り尽くしているナータであれば、失敗するようなことはない。ちゃんと知識と技術を教えられるだろう。
「あなたは行かないの?」
残されたシェリーがアデラに聞いた。同じ機械ゴーレムだから料理が出来るんじゃないかと、思っていそうだ。
「私は料理できません。戦闘専門なのでー!」
「ということは強いの?」
「もちろん! 私に勝てる機械ゴーレムは、ナータ先輩ぐらいかなー!」
「え、あの人……といって良いのかな?」
「人間ではない、機械ゴーレムだ」
二人の会話に割り込んで注意した。
機械ゴーレムは人間のように見えるが、中身は全く違う。どんなに親しくしてもマスターの命令一つで、命を奪いに来る存在なのだ。同じ扱いをしてはいけない。
そういった意識をちゃんと持って欲しいため、些細なことではあるが、言葉から意識して使い分けてもらう必要がある。
「そ、そっか。そのナータさんって何でも出来るのに、戦闘に特化したアデラさんより強いんだ」
「うん。元の性能が違うからねー。でも、シェリーよりかは強いよ」
挑発するようにアデラは笑みを浮かべた。甘えん坊だけでなく、他人を挑発するような性格にもなっているようだ。
起動させないと性格が分からないのは困ったもんだな。
早くブラックボックスになっている部分を解明したいところである。
「へぇ。自信があるようだけど、私だってこの体なら負けないと思うよ?」
「半機械ゴーレムには負けないよー」
アデラは俺から離れてシェリーの前に立つ。
顔をぐいっと近づけた。二人の顔が接触するほどの距離だ。
「だったら、どっちが強いか試してみない?」
「いいよ。絶対に勝ってみせるから」
挑発にのったシェリーが宣言すると、二人ともどこかに行ってしまった。
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