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第9話 ……嘘は言ってない、と思う

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「マスター、質問してよろしいですか?」

 ナータの視線は横たわっている機械ゴーレムにあった。そういえば教えてなかったな。
 教育係として働いてもらいたいので、説明はするか。

「お前の後輩だ。二人にはシェルターの防衛と管理を任せるぞ」
「地上に出て、他の人間と合流するつもりはないのですか?」
「神と名乗っている愚かな道具の下で生きているヤツらなんて知らん。どうでもいい。この世界で、お前たちとゆっくりと過ごすさ」

 文明が高度になって暇になった人間たちは一度滅びの道を進んだので、上級機械ゴーレムたちの思想について思うことはあっても、完全否定する気持ちにまではならない。適切に管理してやろうという考えも分かるからだ。

 しかし、道具でしかない機械ゴーレムに支配されるなんて、魔技師としてのプライドが許さない。だから不干渉とし、お互いに別々の幸せを追求すればいいのである。

「ありがとうございます」

 なぜかナータに礼を言われてしまった。小さくだが微笑んでいるようにも見える。機械ゴーレムに感情なんてなかったと思うのだが、長く生きたことで変化したのか? 興味深い進化である。いつか詳細を調べよう。

「最終作業は、ナータがしてくれ。優秀な戦闘機械ゴーレムに仕上げろよ」

 任せた仕事は、素体にカツラを付け、目を埋め込み人間らしい見た目にする作業だ。また数時間後には起動するはずなので、状況の説明もやってもらう予定である。

 基本性能には影響ない上に、俺は細かい作業が苦手なので、ナータにやってもらった方が良い結果になるだろう。

「お任せください」

 早速、台座で横たわっている素体を触り始める。
 自由な時間が出来たので、他の施設を確認するべく俺は作業部屋を出ることにした。

* * *

 未確認だった部屋は、長期睡眠前と同じ状態であった。ナータが長時間停止していたのでホコリはかぶっていたが、掃除すれば今まで通りに使える。

 人間が三人と機械ゴーレムが二体ならストレスなく過ごせるだろう。

 当面の生活に問題ないと分かれば、次にやることは周囲環境の把握だ。シェルターの外にいるキメラの種類や分布、機械ゴーレムたちの動きは知っておきたいな。準備が終わったらやっておこう。

 できれば都市に行って、人間の生活圏についても調査したいのだが、少し危険か。シェルターの存在に気づかれたくはないので、後回しにしても良いだろう。

「ジャザリーさんはいますか……?」

 リビングで休んでいたら、ニクシーと助けた女性が入ってきた。無事に半機械化ゴーレムの手術は終わったようで、顔色は良い。毒で死にかけた事実なんてなかったかのようだ。健康そうに見える。

「元気そうだな」
「あ、はい。助けてくれてありがとうございます」

 肩まで掛かる銀髪を揺らしながら、ニクシーが素直に頭を下げたが、もう一人の女性は目を細めてみているだけだ。

 意識を失っている間に手術したことを、恨んでいるのだろうか。

「何か気に入らないことでも?」
「いえ。助けてもらったことには感謝しています」
「だが不満そうだな」

 直接指摘してやったら、女は黙った。
 ったく。言いたいことがあれば言葉にすればいいのに。他人の心なんて読めるはずがないのだが、察しろってことなのか?

「ごめんなさい! シェリーさんは目覚めたばかりで、混乱してて……」
「ニクシー、大丈夫。私がしっかりと確認するから」

 シェリーと呼ばれた女は、ニクシーを背に隠した。
 なんだか俺が悪者みたいな態度をしているが、何を勘違いしている?
 分からない。読めない。
 だからこそ、面白い。

 変わってしまった世界の一端に触れているような感じがして、ワクワクが止まらない。

「何を確認するつもりだ?」

 口角が上がっている自覚はあった。
 シェリーの緊張度が上がる程度には、警戒させてしまう顔をしていたようだ。

「私たちは都市を追放された。死人のような存在。返せるもなんて何もないのに、どうして助けたの?」
「この俺が見返りなく助けたとは思わないのか?」
「もちろん。無償の善意なんて、絶対にない」
「絶対に、か。言い切るなんて珍しいな」

 俺の言葉が意外だったのか、シェリーは目をまんまるにして驚いていた。

「当たり前じゃない。神に見捨てられた私たちの体をイジって、何をさせるつもりなの?」

 何もさせるつもりはない。なんて言っても、シェリーは疑うだろう。それほど猜疑心が強い。恐らくだが、生まれ育った環境がそうさせているのだろう。

「俺はお前らが言う神、機械ゴーレムの支配は受け入れない。自由に生きるために生活している。お前たちには、その手伝いをしてもらいたいから生かした」

 シェリーはじっと俺の目を見ている。今の言葉が本当なのか、嘘なのか。今まで手に入った情報で考えているのだろう。

 無駄なことをしているな。
 真意がどこにあろうと、二人は俺の元で生きるしかないというのに。

「……嘘は言ってない、と思う」

 背中に隠されていたニクシーが、顔をぴょこっと出して喜んでいた。幼いからなのか、人を信じるという純粋な心は残っているようだな。普通に接する限り、信用を得るのは難しくなさそうである。

 だからこそ今は、目の前にいるシェリーに注力した方が良さそうだ。
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