上 下
4 / 45

第4話 それより恐ろしい存在です

しおりを挟む
「人類を家畜のように管理するべき。これが上級機械ゴーレムの総意なのか?」
「はい。私が地上に出ていた頃は、そうでした」

 少しオーバーな表現を使ったのだが、ナータに肯定されてしまった。どうやら、上級機械ゴーレムたちは、自分たちが人間の道具でしかないことを忘れてしまったようである。

 自由がなくなっても、安全かつ同族で争わずに生きることができれば、人類に貢献している。そう定義したのかもしれんな。

「その後はどうなった?」
「上級機械ゴーレムの判断に反発した人間は全て殺され、人類の管理が始まりました。町という監獄に入れられ、労働を強いられ、現在も自由を奪われた生活を続けていると思われます」

 機械ゴーレムは戦争に使うことも想定されていたため、制限を解除すれば人間を殺す機能もあった。上級機械ゴーレムは、世界大戦中のどさくさに紛れて制限を外したのだろう。

 緊急事態だからと、焦って愚かな判断をしてしまったな。
 戦争なんてなければ、管理される社会にならなかったのに。

「ナータは人類が飼われる姿を見て、何を思った?」
「マスターの自由を確保しなければ。そう思ってシェルターを守ることに決めました」

 従順で素晴らしい。俺が寝ていても主として守る姿勢こそが、機械ゴーレムとしてあるべき姿なのだ。

 戦争が終わっても睡眠ポッドから目覚めなかった理由は、上級機械ゴーレムを警戒して、ということであれば理解できる。よくぞ継続する判断を下したと、褒めてやってもいいぐらいだ。

 ナータが正常に機能していることもわかり、また世界の大まかな流れは把握できたので、今度は俺のシェルターで何が起こったのか聞いてみよう。

「では次に、シェルターで何が起こったのか教えてくれ」

 睡眠ポッドが置かれていた部屋の荒れ具合からして、襲撃があったのは間違いない。
 誰が敵なのか知っておきたかった。

「かしこまりました」

 ナータは返事をしてから話を続ける。

「上級機械ゴーレムが地上を支配して百年ぐらいまでは、大きな変化もなく平和でした」

 ん? 今、百年といったか?
 長くても数十年の眠りについたと思っていたが、実際はもっと多くの時間が過ぎ去っていたらしい。耐久年数は百年を想定して作っていたので、もしかしたら睡眠ポッドの中で永眠していた可能性すらあったようだ。

「大きな転機を迎えたのは、その後でした。上級機械ゴーレムたちは人間の管理方法について意見が割れ、対立したのです」

 これは珍しい。というか、常識として考えると、あり得ないできごとだ。上級機械ゴーレムは合理的な判断しかできないので、結論は同じになるはずなのに。

「原因は?」
「わかりません」

 俺のために上級機械ゴーレムたちと距離を取っていたのだから、分からないのは仕方がないか。重要なのは仲間割れを起こしたことにある。人間の上位者として振る舞っていても、完璧ではないと証明されたのだからな。

「そこから、人間を使った代理戦争が始まり――」

 話している途中でナータが止まって、画面に映し出された映像を見る。

 相変わら木々だけが映っていると思っていたのだが、いつのまにか女が木によりかかって座っていた。

 ケガをしているらしく、腕や頭から血が流れていた。服は灰色のワンピースのような形をしている。スカートの丈は長く、垢抜けないデザイン。靴は足回りを囲むだけの単純な構造で、皮で作られているようだ。

 一目見ただけでわかった。
 俺が眠る前と比べて、文明レベルが著しく下がっている。

 そういえば「民衆はバカなほうが管理しやすい」なんて、発言をした男がいたな。

 効率性を追求した上級機械ゴーレムはたちは、そういった言葉を忠実に実行しているようだ。

 人間から技術や知識、高度な道具を奪い取ってしまえば、反乱の恐れはなくなる。
 非常に合理的な判断だとほめてやろう。
 まぁ、だからこそ、仲間割れした事実に大きな違和感を抱く。

「どうしますか?」
「助ける」

 俺やナータが知らない外の情報を持っているだろうから、助ける価値はある。
 すぐに現代の知識が手に入る幸運に、感謝しなければな。

「かしこまりました。すぐ、助けに行きます」
「まて」

 命令を聞いたナータが部屋を出ようとしたので止めた。
 よく寝て腹も満たされているのだ。そろそろ運動がしたい。

「久々に外の空気が吸いたいから俺も行くぞ」
「危険です」
「なんだ? この近くに熊でも出るのか?」
「それより恐ろしい存在がいます」

 ナータが画面を指さした。

 座り込んでいる女に近づく存在がいる。見た目はゴリラなのだが腕は四本もあって、それぞれの手に槍がある。目は真っ赤で、俺の記憶にある動物とは明らかに異なる存在だ。

「キメラです。上級機械ゴーレムが他の生物を組み合わせて作りました。町の外には、このようなキメラが多数いるので、マスターはシェルターの中にいてください」

 魔法による生物改造は倫理的な問題で禁止されていたが、機械ゴーレムは無視して技術を発展させてしまったようだ。

「わかった。後は任せたぞ」

 小さくうなずいてナータはリビングを飛び出した。俺専用の万能機械ゴーレムとして、戦闘もこなせるようにしているので、キメラごときに後れは取らないだろう。

 俺は安全な場所で映像を見ながら、優雅に待つことにする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

跼蹐のゴーレムマスター~ビビリ少女ラヴィポッドはゴーレムに乗って~

現 現世
ファンタジー
森で作物を育てながらひっそりと暮らす少女──ラヴィポッド。 彼女はとある魔術を成功させた。 古代に用いられていた、失われた魔術。 『ゴーレム錬成』 主の命令に忠実な自動人形──ゴーレムを作り出す魔術。 臆病な少女は母を探すため、ゴーレムと共に冒険に出る。 体を丸めてガクブルと震える姿から、少女は後にこう呼ばれた。 『跼蹐のゴーレムマスター』と。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ログティア~忘却の大地と記録の旅人~

石動なつめ
ファンタジー
霧の大地と呼ばれる世界がある。 その霧は世界の記憶。放っておけば霧は記憶ごと消えて行き、やがて誰からも忘れられてしまう。 セイル・ヴェルスは、失われていく記憶を自分の内に保管する、記憶の保管庫――ログティアと呼ばれる者達の一人だった。 これは世界が忘れた物語と、忘れ続ける世界に生きる者達を描くファンタジー。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...