3 / 45
第3話 世界大戦が起こったのか
しおりを挟む
半壊した廊下を抜けるとリビングに入った。ここにキッチンがあり、予想していたとおりナータが料理をしていた。黒くて長い髪を一本に結わい、エプロンをしている。俺が来たと気づいたようで、顔をこちらに向けた。
「おはようございます。マスター」
凜とした、透き通るような声は変わっていない。聞く人を安心させるような不思議な安らぎを感じる。
「おはよう。早速だが色々と聞きたいことがある」
「私が機能停止していたこと、世界がどうなったか、と言うことですね?」
「そうだ。知っていることを全て教えろ」
「もちろんです。全てお伝えしますが、その前に……」
料理の手を止めたナータが近づいてきた。手には水の入ったコップがある。
「簡易診断したところ水分が不足しているとの結果がでました。お話しする前に、これを飲んで下さい」
ナータの目に入れたセンサーから俺の状態を把握したのだろう。言われてみれば喉は渇いていたので、提案を受け入れても良いだろう。
差し出されたコップを受け取ると、口に水を入れて飲み込む。細胞が奪い合うようにして吸収していき、全身に染み渡った感覚があった。
「美味いな」
「まだ飲みますか?」
首を横に振ってからコップをナータに返した。
キッチンから離れてリビングのソファに座る。目の前には四角く黒い液晶画面があるので、木製のローテーブルに置かれたリモコンを持ち、電源を入れる。
鬱蒼とした木々が立ち並ぶ光景が映し出された。
外の様子を確認するために設置したカメラからの映像だ。シェルター周辺の環境は大きく変わってしまったようだ。
「旧文明は崩壊して、大地の多くが自然に返りました」
カットされたリンゴとカレーを配膳しながら、ナータが説明した。
「世界大戦が起こったのか」
「戦争では、戦闘型機械ゴーレムが破壊されるだけ、絶対に人は死なない、これは戦争ではなくゲームなのだ! などと民衆を煽った指導者がいたようです。娯楽のような気軽さで戦いが始まりました」
信じたヤツらはバカじゃないのか?
確かに最初は戦闘用機械ゴーレム同士の潰し合いになるが、それだけで終わるわけないだろ。略奪や虐殺なんか絶対に起こる。そんなこと少し考えればわかることなんだが。
想像力の欠如が起こったのも、仕事は機械ゴーレムに任せて、怠惰な生活を送っていた人類が退化した結果なのだろうか。
「それでどうなった?」
「戦争によって世界の人口は大きく減り、最後は機械ゴーレムの一斉蜂起によって、壊滅的なダメージを受けました」
「まさかッ!!」
あり得ない! 機械ゴーレムは、「人類ために働く」という大きな目的が必ず設定されており、人間に危害を加えられないようになっているからだ。自立思考できるようになったからといって、無条件で人間を攻撃できるはずがない!
「その、まさかが起こりました」
「……当時のことはわかるか?」
「その時はまだ、私も外を出歩けていたので、情報は集めております」
話を続けようとしたナータだったが、俺の腹から音が鳴ったので止まった。
すっとスプーンを出されたので受け取ると、改めてカレーを見る。
湯気が立つ白米に茶色いルーがかかっているようだ。ニンジンやジャガイモ、豚肉などの具がたっぷり入っていて食べ応えはありそう。皿のはじには福神漬がちょこんと置かれていて、一緒に食べて下さいね、なんて自己主張しているように感じる。
スプーンで白米とルーをまとめてすくい、口を大きく開いて入れた。
辛い中に甘みを感じ、刺激的なスパイスの香りが口、そして鼻腔まで満たしていく。長期睡眠あけに刺激物は食べられないと思っていたが、逆にもっともっとと、体が求めてくる。
冬眠から目覚めた熊になったような気分だ。
二口目はジャガイモと豚肉を一緒に口に入れて、腹を満たしてく。少しカレー味に飽きたら、福神漬を食べてカリカリとした食感と、ほんのりと感じる甘みを楽しんだ。
手が止まらない。気がつけば、俺好みに調整されたカレーは完食していた。
コップを持って水を一気にのみ、口の中をさっぱりさせる。
「……美味かった」
ふぅと息を吐いてソファに寄りかかる。天井を見上げて、先ほど食べたカレーの味を思い出していた。
「戦争を続ければ人類は滅亡する。しかし、このままでは止められないと、当時の上級ゴーレムが判断。人類を管理することにしました」
俺が落ち着いたとみて、ナータは話を再開したみたいだ。
上級ゴーレムとは、機械ゴーレムを集団運用するために導入された、司令官みたいな存在だ。ヤツらの命令一つで、数十万の機械ゴーレムが動くほどの権限を持っている。ナータよりかは劣るが、最高峰の人工脳を搭載されていたはずだ。感情すら獲得した機械ゴーレムとの噂があったな。
「管理ね……何をしたんだ?」
「機械ゴーレムは政治や警察、軍、そして司法を支配し、人間を働かせるようにしました」
「人間を働かせる? 逆じゃないのか?」
「争う余裕がないほど貧しく、忙しくすれば、人類は滅びることはない、といった考えらしいです」
人間、暇になったら碌なことはしない。というのは、過去の戦争が裏付けている。だが、上級機械ゴーレムが出した結論はどうなんだ? 人類のために働いていると、言えるのだろうか。
「管理して計画的に文明を発展させる、そういう考えなのか?」
「違います。上級機械ゴーレムたちは、文明と人類の自由を抑制することを選びました」
文明レベルが上がり、人々の生活が豊かになる。
それが俺のイメージしていた人類のために働く、だったんだが、どうやら上級機械ゴーレムは別の結論を出したようだった。
「おはようございます。マスター」
凜とした、透き通るような声は変わっていない。聞く人を安心させるような不思議な安らぎを感じる。
「おはよう。早速だが色々と聞きたいことがある」
「私が機能停止していたこと、世界がどうなったか、と言うことですね?」
「そうだ。知っていることを全て教えろ」
「もちろんです。全てお伝えしますが、その前に……」
料理の手を止めたナータが近づいてきた。手には水の入ったコップがある。
「簡易診断したところ水分が不足しているとの結果がでました。お話しする前に、これを飲んで下さい」
ナータの目に入れたセンサーから俺の状態を把握したのだろう。言われてみれば喉は渇いていたので、提案を受け入れても良いだろう。
差し出されたコップを受け取ると、口に水を入れて飲み込む。細胞が奪い合うようにして吸収していき、全身に染み渡った感覚があった。
「美味いな」
「まだ飲みますか?」
首を横に振ってからコップをナータに返した。
キッチンから離れてリビングのソファに座る。目の前には四角く黒い液晶画面があるので、木製のローテーブルに置かれたリモコンを持ち、電源を入れる。
鬱蒼とした木々が立ち並ぶ光景が映し出された。
外の様子を確認するために設置したカメラからの映像だ。シェルター周辺の環境は大きく変わってしまったようだ。
「旧文明は崩壊して、大地の多くが自然に返りました」
カットされたリンゴとカレーを配膳しながら、ナータが説明した。
「世界大戦が起こったのか」
「戦争では、戦闘型機械ゴーレムが破壊されるだけ、絶対に人は死なない、これは戦争ではなくゲームなのだ! などと民衆を煽った指導者がいたようです。娯楽のような気軽さで戦いが始まりました」
信じたヤツらはバカじゃないのか?
確かに最初は戦闘用機械ゴーレム同士の潰し合いになるが、それだけで終わるわけないだろ。略奪や虐殺なんか絶対に起こる。そんなこと少し考えればわかることなんだが。
想像力の欠如が起こったのも、仕事は機械ゴーレムに任せて、怠惰な生活を送っていた人類が退化した結果なのだろうか。
「それでどうなった?」
「戦争によって世界の人口は大きく減り、最後は機械ゴーレムの一斉蜂起によって、壊滅的なダメージを受けました」
「まさかッ!!」
あり得ない! 機械ゴーレムは、「人類ために働く」という大きな目的が必ず設定されており、人間に危害を加えられないようになっているからだ。自立思考できるようになったからといって、無条件で人間を攻撃できるはずがない!
「その、まさかが起こりました」
「……当時のことはわかるか?」
「その時はまだ、私も外を出歩けていたので、情報は集めております」
話を続けようとしたナータだったが、俺の腹から音が鳴ったので止まった。
すっとスプーンを出されたので受け取ると、改めてカレーを見る。
湯気が立つ白米に茶色いルーがかかっているようだ。ニンジンやジャガイモ、豚肉などの具がたっぷり入っていて食べ応えはありそう。皿のはじには福神漬がちょこんと置かれていて、一緒に食べて下さいね、なんて自己主張しているように感じる。
スプーンで白米とルーをまとめてすくい、口を大きく開いて入れた。
辛い中に甘みを感じ、刺激的なスパイスの香りが口、そして鼻腔まで満たしていく。長期睡眠あけに刺激物は食べられないと思っていたが、逆にもっともっとと、体が求めてくる。
冬眠から目覚めた熊になったような気分だ。
二口目はジャガイモと豚肉を一緒に口に入れて、腹を満たしてく。少しカレー味に飽きたら、福神漬を食べてカリカリとした食感と、ほんのりと感じる甘みを楽しんだ。
手が止まらない。気がつけば、俺好みに調整されたカレーは完食していた。
コップを持って水を一気にのみ、口の中をさっぱりさせる。
「……美味かった」
ふぅと息を吐いてソファに寄りかかる。天井を見上げて、先ほど食べたカレーの味を思い出していた。
「戦争を続ければ人類は滅亡する。しかし、このままでは止められないと、当時の上級ゴーレムが判断。人類を管理することにしました」
俺が落ち着いたとみて、ナータは話を再開したみたいだ。
上級ゴーレムとは、機械ゴーレムを集団運用するために導入された、司令官みたいな存在だ。ヤツらの命令一つで、数十万の機械ゴーレムが動くほどの権限を持っている。ナータよりかは劣るが、最高峰の人工脳を搭載されていたはずだ。感情すら獲得した機械ゴーレムとの噂があったな。
「管理ね……何をしたんだ?」
「機械ゴーレムは政治や警察、軍、そして司法を支配し、人間を働かせるようにしました」
「人間を働かせる? 逆じゃないのか?」
「争う余裕がないほど貧しく、忙しくすれば、人類は滅びることはない、といった考えらしいです」
人間、暇になったら碌なことはしない。というのは、過去の戦争が裏付けている。だが、上級機械ゴーレムが出した結論はどうなんだ? 人類のために働いていると、言えるのだろうか。
「管理して計画的に文明を発展させる、そういう考えなのか?」
「違います。上級機械ゴーレムたちは、文明と人類の自由を抑制することを選びました」
文明レベルが上がり、人々の生活が豊かになる。
それが俺のイメージしていた人類のために働く、だったんだが、どうやら上級機械ゴーレムは別の結論を出したようだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる