42 / 46
第42話 大切なものを守るためだ
しおりを挟む
「研究か……魔族にとって人間は、どういった存在なんだ?」
「群れると危険、たまに特出した個体が生まれる種族。ってところかな」
「憎いとか、嫌いとか、そういった感情はないのか?」
「うーーーーん」
考え事をしているのか黙ってしまった。
さっさと答えろと思いはするが、焦らせても良いことはない。じっくり待つ。
「そうだなぁ……普段はエサとしか思ってないし、家を荒らされたとき腹は立って殺してやると思っていたけど、今は少しだけ違う。尊敬、かな。そんな気持ちも出てきたよ」
魔族が人間を尊敬するだと?
そんなことあり得るのか?
内心驚いていることが伝わったのか、プルップはコアを震わせて笑っているようだ。
「マーシャルは私を完璧に倒したんだから、怨みや怒りなんて超越して尊敬するのも当然じゃない?」
またコアを震わせて笑っていた。
過去にプルップと戦った時は完勝とはいかなかったから、前回は恨まれて街を攻撃されるきっかけとなった。しかし今回は違うようだ。
些細な変化が、未来を大きく変える、か。
ナターシャが作った時間を巻き戻す魔法は非常に恐ろしく、絶対に公開してはいけないものだと理解する。禁忌魔法として封じておくのが良い。誰にも知られず、忘れ去られるべき魔法だ。
「だったら親父を説得するの手伝ってくれ」
「難しいお願いだね。私は数いる子の内、一番若くて弱いから意見を聞いてもらえないと思う」
「お前みたいなのが何人もいるのかよ」
「うん。上に四人いるよ」
「最悪だ……」
プルップだけでも何度もやり直してようやく捕まえられたのだ。
さらに上が四人もいるのであれば、やはり全面戦争は避けるべきである。王国が全軍を投入したとしても勝てる未来はない。
「マーシャルだけは狙わないようにすることぐらいなら、何とかなると思うけど……ねぇ、お父様と不可侵の約束をするの諦めない?」
前回とは違ってプルップは素直で、俺を心配しての発言だというのが痛いほど分かる。
不可侵の約束をしなくても街への侵略は避けられるかもしれないが、それだけじゃ足りない。
ストークのクソ野郎とそのお仲間が魔の森にある鉱山を狙い続ける限り、魔物や魔族への挑発は止まらないからだ。
魔族の王はいつか人間に対して報復活動をするだおる。そのとき対象から外してもらいたいため、我が領地を攻め込まないという約束だけはしておきたいのだ。
もちろん、犯人の引き渡しや調査には全面的に協力するつもりである。
「それはできない。領地を攻め込まないという確約が必要なのだ」
「マーシャルは強いのに、どうしてそんなに怯えているの?」
それは領地や領民たちを守るためである。
貴族であれば当然の考えなのだが、強さが全てで弱者は死んで当然という魔族の価値観じゃ、説明しても分からないだろうな。
「大切なものを守るためだ」
「戦えない人たちなんて見捨てれば良いのに」
「それはできない。魔族とは違うんだよ」
「ふーーん」
ぷるっと、一回震えて黙ってしまった。
もう話す気はなさそうだ。
何を考えているのやら。俺には永遠に理解できそうにないな。
* * *
翌日の朝。軽食を食べてから出発した。
ナターシャは全身が筋肉痛のようで足が動かせないと言っていたので、仕方なく俺が背負っている。
魔物が出てきたら即時対応できないのでやりたくはなかったのだが、予定を遅らせるわけにはいかない。むろん、置き去りにもできないので仕方がないと諦めている。
プルップの案内に従い、普段よりも体力を消費しながら森の中に進んでいると、少し開けた場所に出た。
骨や肉片が散らばっていて、近くに生えている木には剣で切ったような跡がある。中心は草が一切生えておらず真っ黒な土がむき出しだ。
懐に入れていた瓶が震えたので取り出す。
「私の家にようこそ。ちょっと散らかっているけど、普段はもっと綺麗にしているからね」
人っぽく振る舞いやがって。
鳥の巣みたいな家をしているくせに。
綺麗にするという概念があるのか疑いたくなる。
こんな場所なら魔族の家だと思わず、冒険者が荒らしてしまうのもうなずける話だ。
「どうやって俺たちが、ここに着いたとわかった?」
「分体がいるからだよ」
黒い土に穴が空いた。
背中にいるナターシャを降ろして剣を抜く。
しばらくして水がせり上がってきた。どんどん大きくなっていく。見上げるほどの高さになった。
「この大きさで分体……なのか?」
「私のとっておきだからね。あと数年もすれば自我が芽生えて、私から離れて本体になるよ」
スライムは分体から本体に変わることができるのか。知らなかった。
分体で経験を積んでから独立する、みたいな流れだとしたら、なんだか子育てに似ていると感じてしまう。
魔族だって種族次第では弱い存在を守ることもするのかもな。
「俺に見せたのは、攻撃するためか?」
「違うよ。私が育てた分体を自慢したかったのと、移動手段として使ってもらいたかったから」
スライムを乗り物にして使えとは。予想できなかった。
隣で目をキラキラと輝かせ、期待したような顔をしているナターシャさえいなければ、即断っていただろうよ。
「群れると危険、たまに特出した個体が生まれる種族。ってところかな」
「憎いとか、嫌いとか、そういった感情はないのか?」
「うーーーーん」
考え事をしているのか黙ってしまった。
さっさと答えろと思いはするが、焦らせても良いことはない。じっくり待つ。
「そうだなぁ……普段はエサとしか思ってないし、家を荒らされたとき腹は立って殺してやると思っていたけど、今は少しだけ違う。尊敬、かな。そんな気持ちも出てきたよ」
魔族が人間を尊敬するだと?
そんなことあり得るのか?
内心驚いていることが伝わったのか、プルップはコアを震わせて笑っているようだ。
「マーシャルは私を完璧に倒したんだから、怨みや怒りなんて超越して尊敬するのも当然じゃない?」
またコアを震わせて笑っていた。
過去にプルップと戦った時は完勝とはいかなかったから、前回は恨まれて街を攻撃されるきっかけとなった。しかし今回は違うようだ。
些細な変化が、未来を大きく変える、か。
ナターシャが作った時間を巻き戻す魔法は非常に恐ろしく、絶対に公開してはいけないものだと理解する。禁忌魔法として封じておくのが良い。誰にも知られず、忘れ去られるべき魔法だ。
「だったら親父を説得するの手伝ってくれ」
「難しいお願いだね。私は数いる子の内、一番若くて弱いから意見を聞いてもらえないと思う」
「お前みたいなのが何人もいるのかよ」
「うん。上に四人いるよ」
「最悪だ……」
プルップだけでも何度もやり直してようやく捕まえられたのだ。
さらに上が四人もいるのであれば、やはり全面戦争は避けるべきである。王国が全軍を投入したとしても勝てる未来はない。
「マーシャルだけは狙わないようにすることぐらいなら、何とかなると思うけど……ねぇ、お父様と不可侵の約束をするの諦めない?」
前回とは違ってプルップは素直で、俺を心配しての発言だというのが痛いほど分かる。
不可侵の約束をしなくても街への侵略は避けられるかもしれないが、それだけじゃ足りない。
ストークのクソ野郎とそのお仲間が魔の森にある鉱山を狙い続ける限り、魔物や魔族への挑発は止まらないからだ。
魔族の王はいつか人間に対して報復活動をするだおる。そのとき対象から外してもらいたいため、我が領地を攻め込まないという約束だけはしておきたいのだ。
もちろん、犯人の引き渡しや調査には全面的に協力するつもりである。
「それはできない。領地を攻め込まないという確約が必要なのだ」
「マーシャルは強いのに、どうしてそんなに怯えているの?」
それは領地や領民たちを守るためである。
貴族であれば当然の考えなのだが、強さが全てで弱者は死んで当然という魔族の価値観じゃ、説明しても分からないだろうな。
「大切なものを守るためだ」
「戦えない人たちなんて見捨てれば良いのに」
「それはできない。魔族とは違うんだよ」
「ふーーん」
ぷるっと、一回震えて黙ってしまった。
もう話す気はなさそうだ。
何を考えているのやら。俺には永遠に理解できそうにないな。
* * *
翌日の朝。軽食を食べてから出発した。
ナターシャは全身が筋肉痛のようで足が動かせないと言っていたので、仕方なく俺が背負っている。
魔物が出てきたら即時対応できないのでやりたくはなかったのだが、予定を遅らせるわけにはいかない。むろん、置き去りにもできないので仕方がないと諦めている。
プルップの案内に従い、普段よりも体力を消費しながら森の中に進んでいると、少し開けた場所に出た。
骨や肉片が散らばっていて、近くに生えている木には剣で切ったような跡がある。中心は草が一切生えておらず真っ黒な土がむき出しだ。
懐に入れていた瓶が震えたので取り出す。
「私の家にようこそ。ちょっと散らかっているけど、普段はもっと綺麗にしているからね」
人っぽく振る舞いやがって。
鳥の巣みたいな家をしているくせに。
綺麗にするという概念があるのか疑いたくなる。
こんな場所なら魔族の家だと思わず、冒険者が荒らしてしまうのもうなずける話だ。
「どうやって俺たちが、ここに着いたとわかった?」
「分体がいるからだよ」
黒い土に穴が空いた。
背中にいるナターシャを降ろして剣を抜く。
しばらくして水がせり上がってきた。どんどん大きくなっていく。見上げるほどの高さになった。
「この大きさで分体……なのか?」
「私のとっておきだからね。あと数年もすれば自我が芽生えて、私から離れて本体になるよ」
スライムは分体から本体に変わることができるのか。知らなかった。
分体で経験を積んでから独立する、みたいな流れだとしたら、なんだか子育てに似ていると感じてしまう。
魔族だって種族次第では弱い存在を守ることもするのかもな。
「俺に見せたのは、攻撃するためか?」
「違うよ。私が育てた分体を自慢したかったのと、移動手段として使ってもらいたかったから」
スライムを乗り物にして使えとは。予想できなかった。
隣で目をキラキラと輝かせ、期待したような顔をしているナターシャさえいなければ、即断っていただろうよ。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる