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第32話 なんだ……この数は……

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 街に向かう途中で俺の馬を見つけたので飛び乗って走らせる。

 地面には魔物死体や破壊されたゴーレムが転がっている。しばらくすると人の割合が増えてきた。兵士や騎士よりも防具すらつけていない平民の死体が多い。女性や子供の姿もあって、街から逃げ出す途中で死んだと分かる。

 死因はさまざまだ。

 魔物に引きちぎられた死体もあれば、喉をかきむしっているのもある。地面にスライムの欠片がのこっているから、プルップが体内に入って溺死でもさせたんだろう。すごく苦しかったはずだ。恐怖も感じたことだろう。

 ギリッと奥歯から音が鳴った。

 無意識のうちに強くかみしめていたみたいだ。

「すまない。すべて俺の責任だ」

 謝って済むことではないが、それでも言わずにはいられなかった。

 馬の腹を蹴って風のように走らせる。魔物と戦っているゴーレムの間をすり抜け、半壊した外壁の近くにまで来た。ここには兵と騎士の死体ばかりだ。瓦礫に巻き込まれて押しつぶされている。探せば生存者はいるかもしれないが、街から戦闘音が聞こえているので足は止めない。

 障害物が近づくと馬は跳躍して乗り越えていく。本当に良く訓練されるな。調教師にも感謝しなければ。あの世でのやるべきことが増えていくばかりだ。

 外壁を通り抜けて街に入る。酷い有様だ。建物は倒壊していて、綺麗に舗装した石畳は割れている。地面にはいくつもの穴があいており、馬車を走らせることはできないだろう。住民の死体も山のように積み重ねられており、スライムが集まって溶かしている。

 衝動的に消滅させたいと思ったが、感情を抑えて無視することに決めた。

 戦闘音がする方へ進んでいると、分裂したばかりだと思われるスライムを見つけた。人の拳ぐらいのサイズしかないので馬が踏み潰せば、コアごと破壊できる。

 スライムがいるからといって足を止める理由にはならないので、むしろスピードを上げて進もうとしたのだが、瓦礫の隙間から水で作られた触手が伸びてきた。

 馬の体に絡みつくが拘束力は弱いので、すぐに引きちぎってしまう。足止めにすらならん。

「さっさと先に行くぞ」

 俺の言葉に同意したのか、馬が甲高い鳴き声をあげた。

 後ろ足に力を入れて地面を蹴ったが、すーっと忍び寄っていた数十もの水で作られた触手に絡め取られてしまった。バランスを崩して転倒する。俺は巻き込まれないよう、途中で飛び降りていたのでケガはない。

「なんだ……この数は……」

 無数の触手が馬を捕まえている。触れている部分からは白い煙が上がっていて、皮膚の下にある筋肉が見えていた。スライムは酸性の液体を出して食事するので、今は食われている途中ということになる。

 助けに行こうと思って剣にオーラをまとわせる。

 死にかけているのに馬が鳴いた。

 勘違い、妄想の類いかもしれないが、こっちに来るなと目で訴えかけているように見える。悩んでいる間に俺を捕らえようとして一本の触手が伸びてきた。馬が噛みついて止める。

「すまん!」

 気づかいを無駄にしてはいけない。反転して走り出す。

 後ろでは馬が分裂したばかりのスライムに食われているはずなのだが、鳴き声一つあげない。俺を心配させないように耐えているのだと思ったら、プルップへの怒りはさらに上がっていく。

 他にもスライムが隠れている可能性はあるので、オーラをまとったまま移動を続ける。いつの間にか戦闘音は途絶えていた。ハッ、ハッと自分の息づかいしか聞こえない。

 嫌な想像しかできないが、足を止めることは許されない。

 跳躍して倒壊した建物の上に乗ると、最後の戦場――俺の屋敷が見えた。

 建物は半壊していて屋根なんか吹き飛んでおり、敷地内にある噴水の水は止まって水が溜まっている。ストークの野郎を脅した玄関前では騎士の死体が積み上がっている。その中にはローバーもいた。最後まで屋敷を守るために戦ったのだろう。

 ここはもう、プルップの領域だ。
 警戒しながらゆっくりと敷地内に入る。

 庭には逃げ遅れた使用人達の死体が転がっていて、分裂したばかりだと思われるスライムが食事をしている。

 その中に、俺の専属メイドのユリアがいた。
 耐えに耐えていた何かがプツンと切れる。
 この激情を抱えたまま我慢なんてできない。

「プルップッッ!! 俺はここに来たぞ!! 姿を現せ!!!!!!」

 俺は、ナターシャがストークに利用される未来を避けたかっただけだ。

 婚約を成立させないように未来を変えたかっただけなのに、どうして大切な人々が死に、領地が滅びなければならないッ!

 ブラデク家は幸せになってはいけないというのか!?

 ふざけるな!!

「返せよ。俺の全てを」

 そんなことを言っても死者は蘇らないし、破壊された建物は直らない。仮にプルップを殺したとしてもスッキリはしないだろう。積み重なった悲しみは癒えない。

「出てこないなら、お前の大切な者を全て破壊してやるよ」

 考え方を変えよう。奪われたのであれば、俺も奪ってやれば良いのだ。同じ痛みを感じさせてからじゃないと、殺したくない。

 踵を返して屋敷の敷地から出ようとする。

「それは困るなぁ。私も大切な人を殺されちゃったし、結構、怒ってるんだよ」

 後ろを見ると噴水の水が縦に伸びていた。様子を見ていると赤い髪をした人の形になる。

 ようやく出てきたな。会いたかったぜ。

 コアだけの存在にして大人しくさせてから、全てを奪ってやるよ。
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